113 エヴァルシア開発 二日目 畑と種
エヴァルシア開発二日目。
昨日スキルを与えたエルフの四人は、午前中はダンジョンアタック用の武具を揃え、午後は子供たちと一緒に武器の扱い方や魔法の訓練を行う予定だ。ダンジョンアタック自体はジーナのサポート付きで、明日から二日かけて行うことになっている。
正直なところ、ダンジョンで撮影するだけなら、別にAランクでなくてもいいんじゃないかと俺は思った。だが、
「いえ、Aランクというより、ダンジョン制覇で称号とスキルを得るのが目的です」
とオルヴェナが言っていたので、依頼通りに進めることにした。
朝食後、エルフの女性たち二十人は王都へ向かった。そのうち四人はメイド修行のためリンファのもとへ、昨晩相手をした四人はダンジョンアタックの準備へ。それ以外の者たちは、商会の店舗で研修を行うのだという。
昨日中に一辺五キロメートルの城壁を完成させたメディアは、王都へ行ってドルガンとルビナを連れてくると言っていた。城壁の門扉を依頼するためだ。転移魔法陣で来てもらうことになるので、ドルガンはきっと驚くだろう。その後は、さっそくセレナの屋敷を建てるという。工期は二日を予定しているそうだ。
今日手が空いているイレーヌ、リディア、ジーナ、ティアの四人には、城壁内の南東部――森になっている区域の調査を頼んだ。危険な害獣や魔物が潜んでいないかを確認し、見つけ次第すべて狩ってもらうことになっている。
◇
俺は農業に従事する予定の十四家族・計六十人のヒューマンを連れ、エヴァルシア南西エリア――通称“農業区”に来ていた。どの家族から場所を選ぶのかは、昨晩のうちに決めてもらっている。
最初に場所を希望した家族が地図上で指さしたのは、中心部から最も離れた南西の端だった。
「え? 本当にそこでいいの?」
「はい。中心街に近い場所は、どうにも落ち着かなくて。一番離れたところがいいんです」
エヴァルシアはまだ開発を始めたばかりで、中心街といっても今は何もない。だが、将来を見据えると、そう考えるのも自然なのだろう。
どうやら皆、南西付近の土地を狙っているようだったので、
「あー、それじゃ先に家を決めてもらおうかな。まだエヴァルシアの中心に近いところだし、この辺に俺が持ってる家を仮置きするから、好きなのを選んでくれ」
と提案した。
俺の亜空間には、農家一世帯用の家屋が二百軒以上入っている。どれかしら気に入るものがあるはずだ。もちろんすべて新築にしてある。
ただし、いま家屋を並べている“住宅展示場”と、彼らが希望する南西の土地とは距離がある。子供の足で歩けば三十分はかかるだろう。そのため、展示場と南西エリアの両方に転移魔法陣を設置した。
家を選んでもらったら、一家族まとめて転移魔法陣で南西へ移動。選んだ家屋を設置し、希望する広さの田畑を造成する。小高い丘でブドウを育てたいという家族には、別の場所から亜空間に収納していた大量の土で丘を築いた上で家を設置したりもした。
一家族あたり平均二十分強かかり、十四家族分が終わるころには、時刻は十四時を回っていた。
彼らには当面の食料、衣服、家具が支給されている。さらに、エヴァルシアに商会の店ができてから一年間は、セレナから毎月現金が支給されることになっている。一応は借金扱いだが、五年間エヴァルシアに住めば返済は免除されるという。
元の世界の看護学校の奨学金制度みたいだな、と俺は思った。
時間に少し余裕ができたので、俺は農業区にエルマを呼び出した。
「どうしたんだい? あたしを農業区に呼ぶなんて」
「ああ、エルマにお願いしたいことがあって。こういうのをやってほしいんだ」
そう言って、俺は目の前で麦の種を植えた。
「第八階梯植物魔法〈品種改良〉」
この土地に合い、病気に強く、なおかつ美味しくなるよう願いを込めて、種を品種改良する。
「第一階梯植物魔法〈芽生〉。続けて、第二階梯植物魔法〈植物繁茂〉」
〈芽生〉で芽が出て、〈植物繁茂〉で一気に成長し、麦は収穫できる状態になった。
「アレス、この魔法なら、いくらでも作物が採れるわね」
「ああ。でもな、魔法で作るより、ちゃんと育てたほうが味はいいらしいぞ」
魔法で作ると味は一定だが、普通に育てたほうが、それに増して美味しくなると以前読んだ魔法書に書いてあった。
「それに、この魔法を連発すると土が痩せる。だから第七階梯植物魔法〈土壌改良〉も適度に混ぜて、種や苗の品種改良をしてほしいんだ。麦は実際に収穫して、小麦粉にして、パンまで焼いてから判断してほしい」
「え? どこでパン焼くのさ?」
「ああ、これを使ってくれ」
俺は亜空間から、パン窯など一式が揃ったキッチン付きの家を一軒取り出した。
「この家を持ち歩いて、使うときは空き地に出してくれ。製粉は農家の人に頼めばいい。道具はすでに渡してある。各農家を回りながら、その家が育てる種や苗を、その家の畑で品種改良してほしい」
「いいけどさ、あたしは食べるものの素材しか分からないよ? お酒用のブドウとかはどうするのさ」
「ああ、ブドウと大麦のときは、酒蔵の母娘――カトリナとノエルを〈念話〉で呼んでくれ。仮の酒蔵になる建物も渡しておく。酒造りの道具は、二人が準備してるはずだ。それとブドウは、ワイン用とブランデー用の二種類を品種改良で作ってほしい」
「わかったわ。改良できた種や苗は、農家の人に渡していいのよね?」
「ああ、それで頼む」
こうして、今日からエルマによる品種改良が始まることになった。
◇
その日の夕方、仮屋敷に戻ると、リンファがメイドになったエルフ四人を連れてきていた。全員がメイド服姿だ。
「アレス様、お願いがあるのですが」
この状況で頼まれることは、一つしか思いつかない。
「ああ、エルフの女性にスキルを渡してほしいって話かな? オルヴェナにも同じことを――」
「あ、その方と一緒にされるのは、少し心外なのですが。確かにお願いしたいのはスキルの件です。ただ……その前に、彼女たちを鑑定してください」
そう言われ、俺はそのうちの一人を鑑定した。
シルファリア エルフ 百七十歳
エヴァルシア騎士爵家メイド
所持スキル:
生活魔法[5]
料理[3]
歌唱[5]
作詞[5]
作曲[5]
演奏(弦)[5]
「〈歌唱〉、〈作詞〉、〈作曲〉に〈演奏(弦)〉……いったい何をしていた人なんだ?」
「リーファリアで吟遊詩人をしていたそうです」
なるほど、吟遊詩人か。
「ほかの三人も、何らかの楽器演奏スキルを持っています」
セレナは、音楽系スキルを持つ四人を、商人要員から外したというわけか。
「つまり、彼女たちに新しい曲を演奏させるつもりなんだな」
「はい、その通りです」
そういうことなら、オルヴェナのときよりもずっと協力する気になる。しかも、この四人も称号とスキル目的でダンジョン踏破をさせる予定だという。
「それと、複製していただきたい武術は〈体術〉と〈短剣術〉です。短剣はナイフでお願いします」
「四人全員?」
「はい、四人ともです」
全員前衛構成になるが――。
「普段メイドをしていると〈体術〉かナイフ程度しか使えません。他の武術を覚えても、活かす場がないのです。地下四十階までなら、この構成で問題ないと思います。地下四十一階以降だけ、アレス様にお手伝いいただければ」
たしかに、メイドは身を守る手段があったほうがいいかもしれない。
「となると……さっきの女性は上げるスキルが三つあるから一人で。残り三人は、上げるスキルが一つずつだから、まとめていけるかな」
「承知しました。では今晩は、シルファリアのお相手をお願いいたします。残り三人は、明日の晩に」
シルファリア――先ほど鑑定した女性だ。
「オルヴェナのほうは大丈夫か? あっちもエルフの女性を頼まれているけど」
「問題ありません。ローテーションの決定権は、私が持っていますので」
さすがリンファ。オルヴェナも逆らえないらしい。
その日の夜は、シルファリアのスキルレベル上げと、スキル複製を行った。




