111 エヴァルシア開発 初日(2)
二時間ほどで主要道路の造成を終えた私は、セレナたちの待つ場所へ戻り、助けた人々と一緒に昼食を取った。
食後、私はセレナと並んで腰を下ろし、今後の方針について話していた。
「まさか、ダンジョンができているとは思わなかったわ」
「一度攻略して、使いやすい構成に作り替えたいね」
「そうね。たぶん“アリス”たちにお願いすることになると思うわ」
現状、冒険者パーティとして自由に動けるのは〈百花繚乱〉くらいだ。
「そういえば、仮屋敷はあの辺でいい?」
私は主要道路からほどよく近く、将来的にエヴァルシアの居住区とする予定の北西エリアを指さした。
「朝から気になってたんだけど、どうして仮なの?」
「本屋敷はメディアが魔法建築の粋を尽くして建てるらしくてね。ちなみに教会もね。それまでの仮設だよ」
「なるほど……」
メディアは相当気合を入れている様子だった。完成すれば、かなりの屋敷になるだろう。
ちょうど昼食のためにメディアも戻ってきていたため、本屋敷を建てる土地だけを先に決め、地下室のみを先行して作ることにした。転移魔法陣を設置するためだ。
指定された場所に地下への階段を作り、基礎ごと地下室を生成する。転移先が多いため、部屋は広めに取り、各地へ向かう転移魔法陣をまとめて配置した。行き先は、それぞれの魔法陣のそばの壁にプレートを取り付けて示しておく。
「そういや牢屋も要るね」
王都の屋敷には人身売買組織の男が四人、今日捕まえた奴隷商も四人いる。余裕を見て、十人ほど収容できる牢屋を二つ用意した。
地上に戻り、先ほど決めた仮屋敷の場所に、王都で廃棄予定だった屋敷を新築同然まで修復したものを亜空間から取り出す。
「元貴族の屋敷だから……部屋数は五十くらいか。まだ足りないかな」
私は同規模の屋敷を、少し離れた場所にもう一棟建てた。
「これで、とりあえず全員分の部屋は確保できたかな」
私はセレナたちのもとへ戻る。
「セレナ、仮屋敷はできたから使って。それと、本屋敷の予定地に地下室を作って、各地への転移魔法陣も設置してある。王都にもすぐ戻れるよ。仮屋敷の中はまだ何もないから、最低限の家具は、王都で買ってきたほうがいいかも。助けた人たち用のベッドは、もう商会長に〈念話〉で頼んである。じゃあ、私はこいつらを牢屋に入れてから、エルフの人たちをリーファリアに送っていく」
「あ、ちょっと待って、アリス。私たちも一度王都に戻りたいんだけど、この人たちの世話をする人がいないわ」
「それなら、エルマを王都から呼ぶから大丈夫」
「わかったわ。じゃあ、私たちは先に戻るわね」
そう言って、セレナ、ジーナ、ティアの三人は王都へ転移していった。
続いて、イレーヌとリディアが近づいてくる。
「アリス、あたしたちは?」
「エルマが来たら、一度王都を見てくるといいよ。昨日オープンした商会の店、結構面白いことになってるから。あ、あと屋敷に子供がたくさんいるからね」
そう言って、私は奴隷商の男四人を〈念動〉で浮かせ、そのまま地下室の牢屋へ運び込んだ。
ちょうどその頃、エルマが宿屋の母娘を連れて転移してきた。
「アリス、来たよ。助けた人たちのところに案内して」
「うん、ついてきて」
私はエルマたちを連れ、助けた人々が待つ空き地へ戻った。
「詳しい事情はまだ聞けてないけど、とりあえず、あの屋敷の部屋を割り振っていいよ。もしかしたら家族単位の希望もあるかもしれないから、そのあたりも聞いてあげて。家具は、もう少ししたら共有空間に届くはずだから、それを設置して。明日には彼ら用の家も準備するから、今日はあの屋敷で過ごしてって伝えてね。私はエルフの人たちをリーファリアに送っていく。何かあったら〈念話〉して」
「了解。こっちは任せて」
助けたヒューマンたちのことは、エルマに任せた。
「アリスさま、では私たちは王都へ行ってきますね」
「子供が多いから、きっと驚くと思うよ」
そう言って、リディアとイレーヌを見送った。
私はエルフの女性たちを連れて、地下の転移魔法陣へ向かった。
「これから転移魔法陣でリーファリアへ向かいます。ついてきてください」
歩き出すと、背後から次々に声が上がった。
「あの……最初にいらした男性の方は?」
「あの人に、もう一度会いたいのですが」
「どこへ行ったんですか?」
しまったな。完全にロックオンされている。
「あー、彼はこの街の開発に来ていてね。今頃は城壁を作っているんじゃないかなあ、ははは……。とりあえず、皆さんは身分証がないと生活できないから、まずはリーファリアへ行きましょう」
半ば強引に話を切り上げ、転移させることにした。
リーファリアに到着し、文官に二十名のエルフ女性を引き渡す。すると、女王フィオレルが口を開いた。
「輸送途中のエルフを見つけるとはな。もしや、その地は違法奴隷商の抜け道ではあるまいか。密かに国境を越えられる場所が近くにあるやもしれぬ」
確かに、エヴァルシア周辺に不法入国が可能な地点が存在しても不思議ではない。開発が落ち着いたら、調査してみる必要がありそうだ。
「女王様、まだエヴァルシアの開発が残っていますので、これで失礼します」
「む……仕方あるまい。落ち着いたら、必ず顔を出すのじゃぞ」
そう言われ、帰ろうとしたところで、慌てた様子の文官に呼び止められた。
「アリスさん! 少々お待ちください! 本日連れてこられた二十名、全員がエヴァルシアでの生活を希望しています!」
マジか……アレスで会ったせいか。結局身分証ができたエルフの女性二十名をそのままエヴァルシアに連れて帰ることになった。
◇
「ごめん、エルマ。このエルフの人たちもお願い」
「え? 連れて帰ってきたの?」
「エヴァルシアに住みたいんだって」
ひとまず二十名のエルフをエルマに預け、今夜の部屋割りを任せる。
すると、エルマが思い出したように言った。
「そういえば、ヒューマンの人たちだけど、四人家族が十家族、五人家族が四家族で、合計六十人だったよ。家族単位で売るつもりだったみたい」
十四家族で六十人、というわけか。
「それなら、家族の代表者十四人と、あとでセレナと話したほうがいいだろうね」
「そうね。結局この屋敷も五十部屋以上あるけど、十四部屋しか使ってないのよ」
思ったより部屋は余っている。エルフの女性を一人一部屋にしても、まだ十分だ。
「じゃあ、あたしはエルフの子たちに部屋を案内してくるね」
そう言って、エルマはエルフの女性たちを連れて屋敷へ向かった。
その後、私は城壁の門付近に魔道具を設置し、近くの川から分流を作って領地内を通し、再び元の川へ戻す工事を行った。そこまで終えたところで、この日の作業は終了した。
◇
仮屋敷に戻ると、王都へ行っていたセレナ、ジーナ、ティア、そしてイレーヌとリディアも戻ってきていた。
「なに、あのお店! すごかったじゃない!」
「動く絵と音楽……あれだけで、相当なインパクトがありました」
イレーヌとリディアは、かなり気に入ったようだ。
「あたしもジーナモデル、作ってもらえばよかったな」
ジーナがつぶやく。なお、彼女の装備が一年中真夏仕様なため、ルビナから「夏しか売れない」と後回しにされているのは内緒だ。
「あの技術、他にも応用できそうね」
セレナの言葉に、私はうなずいた。
「実は、もう一つ作ってみたものがあるんだ」
私は四つのモニターを出現させ、セレナに見せる。
「これ……もしかして城壁の門のところ?」
「そう。東西南北、それぞれの城門の外を映してる。動きが少ないから分かりにくいけど、これが今の状況だよ。ほら、メディアがいる。手を振ってもらうね」
〈念話〉で合図を送ると、モニターの中のメディアがこちらに向かって手を振った。
「すごいわ、アリス。ここから城壁の外を監視できるのね!」
今回のカメラ映像をモニターに表示する仕組みは、以前のビデオ通信のように共有空間を通じて直接、光と音を送るものとは異なる。
一度カメラで受信した映像と音声を魔法陣として共有空間に保存し、それを各モニターが表示する方式を取っているため、同じ共有空間に接続しているモニターであれば、同一の映像を映し出せる。
つまり、一台のカメラで撮影した映像を、複数のモニターで同時に視聴できるというわけだ。




