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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第三章 エヴァルシア開発編

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103 山麓の街と指輪・腕輪の秘密

 翌朝。

 屋敷の外から聞こえてくる声で目が覚めた。

 そういえば、今朝から走ると言っていたな、とレオンの顔を思い出す。ただ、女の子の声も混じって聞こえる気がする。走るメンバーが増えたのだろうか。

 横で気持ちよさそうに、俺に抱きついたまま眠っているアリエルを眺めながら、そんなことを考えていた。


 朝食の席で、早朝のことについて聞いてみると、驚くべきことがわかった。

 なんと、五十四人の子供全員に加え、レオンの娘であるレイラまでが参加し、レオンと一緒に王都の街中をランニングしたらしい。


「まさか、全員参加とはね」


 どうやら子供たちの間で、「何をするにしても体力は必要だ」という結論に至ったようだ。


 朝食後、昨晩、メイドと商店の販売員を希望した女の子、計十人は、商会長オルヴェナに連れられて王都の店舗へ向かった。

 店舗は近日中にオープン予定だが、今日から研修を始めるらしい。

 ちなみに、僧侶希望者はエマ以外に出なかった。……よかった。



 十二歳以下で学校への入学を希望する子供たちに関しては、現状、勉強を教えられる人材がいなかった。そのあたりも、早急に確保する必要がありそうだ。

 一方で、残る四十四人の子供たちは特にやることがないため、レオンの剣術指導を受けることになったらしい。

 木剣は、朝からリンファが冒険者ギルドで人数分を買い揃えてきていた。

 子供たちのことはレオンに任せておこう。どうせ、暇だろうし。


 俺たちは昨日に引き続き、他の街へ食材や原料の調査、そして買い付けに出かけることにした。

 ただし、屋敷には子供が五十四人いるため、食事の準備や身の回りの世話が必要だ。そこで、宿屋の母娘であるマリサとサリナ、食堂の母娘であるアリシアとリサに、その役をお願いした。

 今日は昨日より四人少ない、八人のメンバーで、西のセリオス山脈の(ふもと)にある街、モルディアへ向かう。


 ◇


 西のセリオス山脈。その雄大な稜線を背に抱く、(ふもと)の街――モルディア。

 山々から流れ落ちる清涼な水が街の至るところを巡り、朝靄の立つ水路には絶えず命の気配が満ちている。

 比較的雨に恵まれた土地柄も相まって、畑は一年を通して青々と息づいていた。


 山裾に広がる棚田では、黄金色の稲穂が風に揺れ、少し離れた平地では大豆や野菜が整然と育てられている。

 桑畑と養蚕小屋が並ぶ一角では、絹糸を生む繭が大切に育てられ、街の特産である上質なシルクは各地の商人から高い評価を受けていた。

 また、緩やかな斜面には茶畑が広がり、雨と霧を含んだ茶葉は深い香りを宿す。

 温暖な区画では柑橘類も実り、収穫の季節には街全体が甘酸っぱい香りに包まれる。


 モルディアは、派手さこそないが、水と土に恵まれた堅実な農業都市だ。

 この街が生み出す作物は、人々の食卓を支えるだけでなく、国の基盤そのものを静かに支えている。

 そんな誇りが、穏やかな街並みの奥に息づいていた。


 この街は緯度的にエヴァルシアと大きな差はなく、エヴァルシアもまた東のグラント山脈の(ふもと)に位置している。

 そのため、気候もよく似ているのではないかと考えている。

 つまり、ここで育てられている農産物は、エヴァルシアでも育つ可能性が高いということだ。

 まあ、〈植物魔法〉で品種改良をする気満々なので、最終的には無理やり育てるつもりではあるが。

 とりあえず、ここの農産物の種や苗は、可能な限り買い集めておく。


 街のあちこちには桑の木が植えられており、その葉を餌にした養蚕も盛んだ。

 ターリアたち服飾組は、商人のソフィアを連れて、その養蚕で作られる絹を見に行った。

 一方、米の名産地でもあるため、酒蔵の母娘はそちらに向かうかと思っていたのだが、商人のイリナを連れて柑橘類のほうへ行った。

 酒蔵という名前から、当然日本酒を造っているものだと思っていたのだが、この母娘はワイン職人で、日本酒は造ったことがないらしい。

 どちらにせよ、米はエルマが大量に購入する予定なので、いつか試しに日本酒造りにも挑戦してもらおう。


 残った俺とエルマは、二人で食材の調査と買い付け、そして種や苗の購入を担当した。


***


 米の味見をしていたエルマの表情が、ふと曇った。

 気になったので、〈念話〉で尋ねる。


『どうした、エルマ。味が変なのか?』


『うーん……米は、エルセリオンのほうが美味しいかもしれないね。ここの米は大粒で、エルセリオンの米とは結構違うよ』


 そうなのか。

 エルマの料理は何を食べても美味しいので気づかなかったが、普段使っている米は、以前エルセリオンで大量に買い付けたものらしい。

 品種が違うのだろう。エルセリオンの種籾(たねもみ)も入手しておく必要がありそうだ。

 とりあえず、ここの米は日本酒用として、俺が大量に購入しておいた。


 その後もエルマと一緒に、大豆や茶葉、柑橘類、各種野菜を見て回る。

 エルマは気に入ったものを次々と買い付け、俺は手に入る限りの種と苗を購入した。


 一通り見終え、エルマと二人でベンチに腰掛けて休憩していると、商人のイリナから〈念話〉が入る。


「ちょうどいい空き家を見つけました。転移魔法陣の拠点にしてはどうでしょうか?」


 たしかに、ここにも転移魔法陣の拠点があったほうが便利だろう。

 購入を了承し、イリナが手に入れた空き家を新築同然に改修し、室内に魔法陣を二つ設置した。


「片方は、すでに王都の屋敷につないである。エルマ、先に帰るか?」


「そうだね。夕食の準備もあるし、あたしは先に帰るよ」


 エルマは一足先に屋敷へ戻った。

 一時間ほどして全員の用事が終わり、俺たちも魔法陣を使って屋敷へ帰還した。


 ◇


 屋敷に戻ると、レオンが待ち構えていた。


「アレス。今日、一日子供たちに剣術を教えたんだがな、これまでスキルを持っていなかった子供たち全員が〈剣術[1]〉と〈身体強化[1]〉を身につけたぞ。どういうことだ?」


「ああ、それはね。実は、子供たちに渡した指輪と腕輪には、結界を通れる機能に加えて、〈全スキル経験値アップS〉、〈無詠唱〉、〈強靭〉、〈魔力常時回復〉を使えるように付与してあるんだ。原因は〈全スキル経験値アップS〉だと思う」


 さすがに、子供たち一人一人に直接スキルを複製する気はない。

 だからこそ、こういった形を取ってみた。

 俺の予想では、今は指輪や腕輪の効果としてスキルの恩恵を受けているが、いずれはそれ自体を自分のスキルとして習得できるのではないかと思っている。

 特に〈全スキル経験値アップS〉は、起きて行動している間ずっと発動し続けるタイプのスキルだ。

 どれくらいの期間が必要かはわからないが、いずれ自分のものになる可能性は高いだろう。


「じゃあ、俺たち家族の腕輪にも、同じものが付与されているのか?」


「いや、レオンの家族は《万紫千紅》のメンバーじゃないから、結界を通れるだけだぞ」


「なんでだよ!」


 そう叫びながら、首を絞める勢いで俺を揺さぶってくる。


「レオンは、もう冒険者をやめるんだろ? スキルはいらないじゃないか」


「俺はそうだけどよ! せめて、娘の腕輪にはつけてくれよ!」


「まあ……全員につけてもいいけどな」


 少し離れたところでは、助けた子供たちと楽しそうに話しているレオンの娘、レイラの姿があった。

 何気なく〈鑑定〉してみると――



 レイラ ヒューマン 十五歳

 アストラニア王立学園 三年生


 所持スキル:

  剣術[7]

  体術[3]

  身体強化[7]

  気配察知[7]



「え? レオンの娘さん、めちゃくちゃ強くないか?」


「ああ、〈鑑定〉したのか。〈剣術〉は俺譲りでな。〈身体強化〉や〈気配察知〉は、生まれつき俺より高レベルの天才なんだ。だが、本人がまったく剣に興味を示さなくてな……今日の訓練にも参加はしているが、真剣にやる気はなさそうだ」


 ふむ。本人にその気がないなら、無理に剣を振らせる必要もないだろう。

 とりあえず、レオンに家族が身につけている腕輪を回収してもらい、追加でスキルを付与した。

 その後、王都の店舗で研修を終えた女の子十人を呼び、彼女たちの指輪には〈売上話術〉、〈駆け引き〉、〈観察眼〉を追加しておいた。


***


 その夜は、〈緋桜(ひざくら)守人(もりびと)〉の次女、ナディアのスキルレベルアップと新規スキル付与だ。

 希望するスキルを尋ねると、ナディアは「赤い攻撃魔法が使いたい」と言った。

 三姉妹は髪も赤く、装備も赤で統一し、家名も『フレイムブラッド』。どうやら赤に強いこだわりを持つ家系らしい。


 しかし、赤い攻撃魔法か。

 火属性は、冒険者にはご法度だしなあ。


「ちょっと、そこで見ててくれ」


 ベッドの端に並んで腰掛けたまま、俺は第三階梯生活魔法〈光明(ライト)〉を使う。


「で、これの光の波長を長くすると――独自魔法――第三階梯生活魔法〈赤光明(レッドライト)〉」


「赤いライト!?」


「そう。おそらく〈光魔法〉なら、独自魔法としてすべて赤くできる。独自魔法を作るには〈無詠唱〉も必要だから、それも一緒に渡すけど」


「あ、ありがとう! アレス君!」


 ナディアが勢いよく抱きついてくる。

 いや、まだ渡してないんだけど。


「あと一つ、赤い魔法を思いついている。ただ、これは一緒に試さないとできるかわからないから、今日は必要なスキルだけ渡す。後日、時間ができたら一緒に試そう」


「うん! よろしくね、アレス君!」


 昨晩、姉のアリエルから聞いた話によると、ナディアはかなりの男嫌いだったらしい。

 それが、例のオークキング討伐の“治療”をきっかけに、俺に対してだけ態度が変わったのだという。

 もっとも、俺以外の男に冷たいのは相変わらずらしいが。


「じゃあ、ナディア。始めるから、ちょっと離してくれ」


「やだ。もうちょっとだけ、このまま……」


 どうやら、この人もかなりの甘えん坊らしい。

 ようやく落ち着いたナディアを永久脱毛し、スキルのレベルアップと新規スキル付与を行った。

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