102 希望の進路と紅蓮の覚醒
夕食後、子供たちにはそのまま食堂に残ってもらい、俺とエルマ、リンファ、それに四人の商人、宿屋の母娘、食堂の母娘、服飾職人の母娘、酒蔵の母娘の計十五人が前に並んだ。
「少しは落ち着いてきたかな? まずは俺たちのことを説明しておくぞ。俺たちは《万紫千紅》というクランだ。集団、と言ったほうがわかりやすいかもしれないな。まあ、そういう集まりで、俺がリーダーのアレスだ。冒険者をしていて、現在はAランクだ」
その瞬間、男の子たちの目が輝いた。どうやら、冒険者に憧れている子が多いらしい。
「それでだ。他にも俺たちの仲間がいるんだが、その仲間たちが、ここから離れた場所で“街”を作る予定なんだ。俺たちも、おそらく十日後にはそちらに移動して、街づくりを始めることになる」
そこまで話してから、改めて子供たちを見回す。皆、真剣な表情で話を聞いていた。
「君たちについても話そう。働きたいのであれば、俺たちのところで働くことができる。今、考えられる職種は、メイド、商店の販売員、宿屋の従業員、料理人、服飾職人、酒蔵の従業員、それから冒険者だな。ただし、冒険者になれるのは十五歳からだ。それまでは修行になる。ああ、それと、今年十二歳になる子と、それ以下の年齢の子だが、学校に行きたいなら勉強を教えることもできる。よく考えてみてくれ。……ああ、それとだな――」
そう言って、俺は懐から指輪と腕輪を取り出した。
「実はこの屋敷には結界が張ってあって、許可された人間しか外に出られないし、中にも入れないようになっている。自由に出入りできるように、これを一人ひとつ渡す。個人専用だから、他の人は使えない。そこは注意してくれ。じゃあ、ここに一列に並んでくれ。指輪か腕輪のうち、好きなほうを全員に渡す。受け取ったら部屋に戻ってもいいし、仕事の内容を詳しく知りたいなら、このあと前にいる人たちに聞いてみるといい」
そうして俺は、全員に指輪と腕輪を配っていった。
名前を数字に変換し、認証に必要な数字を付与する方式だが、さすがに全員の名前を覚えてはいない。その都度〈鑑定〉で名前を確認し、目の前で指輪や腕輪に付与していく。
配り終えたところで、四人の男の子が俺の前にやって来た。全員、今年十五歳になるという。その中には、あの正義感の強い少年、カインもいた。
「あ、アレスさん。あと三ヶ月で俺が十五歳になるんですが、そのとき、俺たち四人で冒険者になろうと思っているんです」
話を聞くと、カイン以外の三人はすでに誕生日を迎えて十五歳になっているらしい。残るのはカインだけだ。
「そこで相談なんですが……アレスさん、俺たちに修行をつけてくれませんか?」
修行、か。見てやりたい気持ちはあるが、しばらく俺の予定は埋まっている。誰か、手が空いている人……。
――あ。
俺は四人の子供を引き連れて、屋敷のリビングへ向かった。
「レオン! この子たちの修行をつけてくれ! 明日の朝からだ!」
「はあ!? いきなり来て、なんだ? 俺はそんなに暇じゃ――」
「あなた、いつも暇じゃないの」
隣りにいたレオンの奥さんの一言で話は決まり、レオンが修行を担当することになった。
「やるからには容赦しないからな! 明日の朝六時、屋敷の外に集合だ! 走るぞ!」
「「「「えー!?」」」」
突然の厳しさに、子供たちは驚いた様子だった。まあ、頑張ってくれ。
用事も一段落したかと思ったところで、一人の少女が近づいてきた。子供たちをまとめていた女の子、エマだ。
「アレスさん、お時間よろしいでしょうか。少し相談がありまして……」
俺はソファに座るよう促し、向かいに腰を下ろした。
「どうした、エマ」
「実は……わたし、先生になりたくて……小さい子たちに、文字や計算を教えるような先生になりたいんです。でも、学校に通える年齢でもありませんし……どうすればいいのか、わからなくて……」
先生か。今年十五歳になるエマは、学園には入学できない。となると――。
「あ、ちょっと待っててくれ」
俺は、現在エヴァルシアへ移動中の〈迷宮の薔薇〉の聖女、ティアに〈念話〉を繋いだ。
『アレスだ。ティア、今話せるか?』
『あっ、アレス君!? 私に念話なんて珍しいね!』
ずいぶん嬉しそうな声が返ってきた。
『小さい子に文字や計算を教えるのって、教会の孤児院でもやってるよな? あれって、教会の僧侶じゃないとダメなのか?』
『そうですね。孤児院での教育は行っていますが、基本的には教会に所属する僧侶だけですね』
『孤児の女の子が僧侶になる方法はあるか?』
『ありますよ。通常は、十五歳になった子を孤児院の司祭が教会に推薦して、僧侶になります』
成人のタイミングで、僧侶になるわけか。
『今年十五歳になる子がいる。エヴァルシアに着いたら、ティアに会わせてもいいか?』
『もちろんです。お待ちしていますね』
〈念話〉を終え、俺はエマに向き直った。
「教会の僧侶になって、孤児院で先生をするという道があるそうだ。やってみるか?」
「本当ですか!? わたし、僧侶になります!」
さっきまで沈みがちだったエマは、希望に満ちた表情で笑っていた。この子なら、きっとティアも気に入るだろう。
エマが女子部屋に戻るころ、食堂で仕事の説明をしていた《万紫千紅》の面々も戻ってきた。
「どうだった?」
聞くと、今年十二歳以下の子供たちは全員が学校に興味を示したという。十三歳以上の男の子七名は、今のところ全員が冒険者志望で、他の職種には興味を示さなかったらしい。
女子のほうは、十三歳以上でエマを除いた十四名が、メイドと商店の販売員に集中し、他の職種にはそれぞれ一人ずつ希望者がいたとのことだった。
「なるほどな。メイド五人に販売員五人か。……ただ、エマに僧侶の道を教えたから、何人かはそっちに行くかもしれないな」
そう言った途端、商人でエヴァルシア商会会長のオルヴェナが、強い口調で言ってきた。
「なんてことをしてくれるんですか、アレスさん! うちは店舗経営ですぐにでも人手が必要なんですよ!」
「あ、それは……すまない」
オルヴェナの圧が強い。見かねたリンファが口を挟んだ。
「メイド希望の子たちを、しばらくは“修行”として店舗で使っていただいて構いません。人員が落ち着いたら、屋敷に戻していただければ」
「リンファさん! 本当に助かります!」
どうにか事態は収まった。
***
こうして、ようやく長い一日が終わった。
自分の部屋に戻り、ふぅと息をつく。もっとも、俺の仕事はまだ終わっていない。これから三晩かけて、〈緋桜の守人〉の三姉妹に、順番にスキルレベルアップと新規スキルの付与を行う予定だ。
今夜は、三姉妹の長女、アリエル。
以前、オークキング討伐の“治療”で相手をしたことはあるが、まさかまたこうして向き合うことになるとは思っていなかった。
扉が、やさしくノックされる。
「こんばんは。アレス君、アリエルです」
俺は無言で扉を開け、彼女を部屋へ招き入れた。
「また相手してもらうことになって、ごめんね。私、アレス君しか知らないから……うまくできないけど」
アリエルは、あの“治療”のとき、男性経験がなかった。正確には、三姉妹全員そうだった。
元は貴族の令嬢で、身持ちは堅かったらしい。冒険者になってからは貴族であることを名乗らずに活動しているため、この話題は避けている。
「なにか希望するスキルはある?」
「そうね……〈鑑定〉は欲しいわ。それと〈交渉〉も」
「〈交渉〉? 冒険者はあまり使わないスキルだと思うけど?」
「近いうちに、親と交渉する予定なの。政略結婚を、まだ諦めていないみたいだから」
なるほど、そちら用か。
「わかった。残りは俺のほうで選ぶ。じゃあ、横になってくれ」
念のため、先にアリエルのスキルを〈鑑定〉する。すると、気になるものがあった。
「〈演奏(弦)[3]〉と〈作曲[3]〉? アリエル、楽器が弾けるのか?」
「ええ。たしなむ程度ですけど。三姉妹そろって、小さい頃から習わされていましたから」
さすが元貴族令嬢だ。これは何かに使えそうだ。このスキルもレベルアップしておこう。
オークキングのときは全身脱毛まではしていなかったため、このタイミングで済ませる。
その後、アリエルのスキルレベルアップと新規スキルの複製を行った。
結果、シーフであるアリエルのスキル構成は、ほぼイレーヌと同じになった。
大きな違いは〈蒼薔薇の刃〉のリーダー、カミラから複製しておいた〈紅蓮覚醒〉を加えた点だろう。
『赤色の髪の場合、三分間だけ能力を倍加する。使用後は三分間行動不能』
赤髪の三姉妹は、全員このスキルを使えるのだ。




