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009 迷宮の薔薇とオーク狩り(1)

 朝一で、〈迷宮の薔薇〉の三人が借りている家の前に向かった。二月なので今が一年でいちばん寒い時期らしいが、思ったほど冷え込みは厳しくない。ただ、ジーナさんの服装――おへそを出している格好――は、よく考えたら季節感ぶっ飛んでるなと思っていたら、他の二人と一緒に出てきたときのジーナさんはフード付きのローブを羽織っていた。


「おはよう、アレス! 今日はよろしくね!」


「おはようございます。ジーナさん、外ではローブなんですね」


「さすがに寒いからねー。でもダンジョンに入ったら脱ぐよ」


 たしかにそのローブじゃ斧は振りにくそうだ。ダンジョン内は一定温度で暖かいし……でもそういえば。


「ジーナさん、冒険者ギルドでもローブ脱いでるんですね」


 なんだか、ぎくっとしたジーナさんに変わって、セレナさんが教えてくれた。


「ジーナはね、いい男を探しているのよ」


「ちょっ、セレナ! 言うな!」


 顔を真っ赤にしてセレナさんの口を塞ごうとするジーナさんは、ちょっと可愛かった。けれどセレナさんは意外にも身軽にそれを躱す。


「ジーナはね、素敵な男性と恋をしてみたいって理由で王都に来たのよ」


「セレナ! それ以上言ったら泣かす! ほんとに泣かすからね!」


「へえ、ジーナが私を泣かすの? じゃあジーナが泣くまでこの話続けてあげようかしら」


「セレナ……まいったから、もう勘弁して……」


 もうジーナさんは涙目だった。セレナさん強いな。

 二人は同じ村で生まれた同い年の幼馴染みで、十八歳。俺より一つ上だ。

 セレナさんは生まれつき〈氷魔法〉という珍しい魔法スキルを持っていたことから、王都の魔術師学園に推薦入学。学園を卒業するころに、村からジーナさんがやって来て、そのまま二人で冒険者になったらしい。

 冒険者登録の際に冒険者ギルドでティアさんが男冒険者に絡まれていたところをジーナさんが助けたのが縁で、三人はパーティを組むことになった。

 ティアさんは正確には教会所属の僧侶だが、この世界の教会は僧侶に冒険者活動を推奨しているため、孤児院の手伝いをする休日以外は冒険者として活動している。住まいも教会ではなく、ジーナさんたちと同じ家だそうだ。


 ダンジョンへ向かいながら今日の予定を聞く。

 〈迷宮の薔薇〉は地下二十一階以降に出現するオークを狩ってオーク肉を納品するのが主な仕事らしい。確かに『王城の地下迷宮』でCランクが挑む階層は地下二十一~二十九階だ。そのオーク肉を運ぶのが今回の俺の仕事。

 ただ、俺はまだ地下二十階のボスを倒していないので、地下二十一階のワープポータルに直接は行けない。そこで今日は地下十一階から挑み、地下二十階ボスを討伐するのが目標だという。……なんだか申し訳ない。



 ――地下十一階。


「おそらくですが、俺のスキルで少なくとも地下十五階までは魔物が一匹も出ません」


「へ? そんなスキルあるの?」

「私もそんなスキル聞いたことないわ」

「わ、私も……」


 地下十五階までで、初めて出てくるのは、地下十四階から出現する“ゴブリンプリースト”。だが、ゴブリンマジシャンと大差ないだろうと思っている。


「なので、地下十六階まで一気に行きましょう」


 半信半疑の〈迷宮の薔薇〉を連れ、俺たちは地下十六階へ走った。ただし〈身体強化〉を持っているのは俺とジーナさんだけなので、ペースは抑えめに。


 十六階以降には、ゴブリンナイトやゴブリンスナイパー、ゴブリンウィザード、さらにハイプリーストやジェネラルが待ち受けている。そして二十階にはボス、ゴブリンキング。こいつらは〈バッチ処理〉の中の第四階梯風魔法〈風刃(ウィンドエッジ)〉で一発で首を刎ねられるか不安なんだよな。一発で倒せないと自動処理で倒されるゴブリンを誰かに見られかねないし、見られたら変な騒ぎになると思う。一発で倒せなかったら、今日のところは普通に倒そう。



 ――そして地下十六階。


 一時間かからずにここまで来た。


「お? ナイトも一発か」


 懸念していたゴブリンナイトも一撃だったことを〈空間把握(スペースサーチ)〉で確認した。この階も問題なさそう。


「というか、ほんとに一匹も出なかったね」


 ジーナさんは暇そうに頭の後ろで手を組んで歩いていた。


「あれはどういうスキルなの?」


 セレナさんはスキルに興味があるようだ。


「あれはですね、簡単に言うとフロアのゴブリンを全滅させてるんです」


「は!? そんなこと可能なの!?」


 〈バッチ処理〉の説明をすると、セレナさんは――


「そんな便利なスキル、聞いたこともないわよ……」


「ゴブリンナイトも問題ないようなので、このフロアも一匹も出てこないです。次の階に行きましょう」


「……そうね」


 結局、スナイパーもウィザードも、ハイプリーストも、果てはジェネラルまでも一撃で沈んだ。名前負けだな、ジェネラル。



 ――地下二十階、ボス部屋前。


 ここまで二時間もかかっていない。


「ねー、あたしなんにもしてないんだけど」

「それは私も」

「わ、私も……」


 彼女たちは二時間弱、ただ走ってきただけ。でもこんなに走っても平気なこの世界の女の子たちはすごいな。


「さすがにゴブリンキングは自動処理じゃ無理だと思うんですよね。次は出番があると思いますよ」


「よし! じゃあ気合入れていくよ!」


 ジーナさんが頬を叩いて気合を入れる。そしてボス部屋の扉を開けると――


「……ねえ、今一瞬だけ、キングいた?」

「私も一瞬見えた気がしたわ……」

「わ、私は見えませんでした……」


 ……ゴブリンキングも瞬殺だった。こんなことなら、一人のときにここまで来ればよかった。なんだか〈迷宮の薔薇〉のみなさんに申し訳ない。


「これでアレスもCランクだね!」


「え? 俺、昨日Dランクになったばかりですよ?」


「二十階のボス倒したらCランクなのよ。実質ソロ討伐じゃない。ギルドに戻ったら間違いなくCランクに上がるわ」


 ジーナさんとセレナさんによると、俺はCランクになるらしい。Dランクのギルドカード、一日しか使わなかったな……。



 ――地下二十一階。


 結局、午前中に着いてしまったので、そのままオークを狩ることになった。


「もうアレスは何もしなくていいからね」

「そうよ。ここからは私たちに任せなさい」

「……お任せください」


 はい、おとなしくしておきます。ただのお肉拾いになります。


 そんなやり取りをしていると、ちょうどすれ違ったパーティが、大荷物を抱えてポータルに走っていった。


「あの人たちは、もう帰るんですか?」


「いいえ。あれは持ちきれなくなったオーク肉を地上まで運んでいるのよ。今日は運よくドロップが集中したのかしら。こんなに早く運び始めるのはあまり見ないわね」


「へえ、じゃあ、運び終えたらあの人たち戻ってくるんですね」


「そうよ。アイテムボックスやマジックバッグを持っていないパーティは、ああやって定期的に運び出すしかないの。うちもジーナが一日二、三往復してるわよ」


 ワープポータルまでパーティで戻って、大抵一人が地上の冒険者ギルドまで運び、他はポータル前で待機するそうだ。

 大変だな。売っているマジックバッグは安いやつでも三百万Gはするし、なるほど、俺にポーター(荷物持ち)頼むわけだ。


「二時方向、角を曲がった先に一匹いるよ!」


 ジーナさんは〈気配察知[2]〉を持っているので、二百メートル先まで大体把握できるらしい。気配を一度覚えれば、それがオークか人か、知人かどうかまで判別できるそうだ。


「全員戦闘配置。アレスは私の後ろね」


 このパーティはセレナさんが戦闘指示をするようだ。


『了解、配置に着きます』


 ……え、今の声? 頭に直接?


「何か頭に直接聞こえたような? 今の何です?」


「あ、ティア! アレスが驚くでしょ!」


「ごめんなさい……つい癖で」


「アレス、後で説明するから! 今は戦闘準備!」


 角を曲がると、豚の頭をした巨体――オーク。百九十センチはある。棍棒を振りかぶって迫ってきたが


「おりゃっ!」


 ジーナさんの斧が唸り、一撃で首が飛んだ。《戦斧姫》の二つ名は伊達じゃない。そして


「おお! まさかのフルドロップだよ! 初めて見た!」


 オークのドロップは皮、バラ肉、もも肉、ロース肉、ヒレ肉、スペアリブ、肩肉、そして睾丸。それぞれ一割くらいの確率でドロップするので、そのうちのいくつかがドロップする、もしくは一つもドロップしないことが普通。

 今回は全種ドロップ――いわゆる『フルドロップ』だった。


「こんなことあるのね……オークのフルドロップは聞いたことないわ」


『本当についてますね。たしか、一億分の一ですよね』


 いやだから、その頭に直接声聞こえるの何!?


「あ……ごめんなさい。これ、私の〈念話〉スキルなの……」


 ティアさんが小さく答えた。声が小さいので戦闘中に届かないことがあるため、冒険中は〈念話〉を使っているらしい。ただし一方通行で、俺たちからは念話で返せないとのこと。


「あ、そうだったんですね。便利なスキルですね」


「いえ……そんなこと……」


 不思議なことに、〈念話〉だとティアさんは普通に喋る。


「そういえばオークの睾丸って何に使うんですか?」


「……精力剤よ」


 クールに答えたかのようで、若干顔が赤いセレナさん。

 しかし、オークのやつを……どうにか加工したとしても、それを飲むのか、うわっ、想像しただけで嫌だ。

 そんなの〈性魔法〉でなんとかできるんじゃない――


『――独自魔法――第一階梯性魔法〈精力回復(スタミナリカバリー)〉』


「ま、待って! 俺、魔法作るなんて……言ってない……のに……」


「どうしたのアレス、急に。もちろん準備できるまで待つわよ」


 こんな簡単に独自魔法が作れるのかよ……しかも最初に作るのが〈性魔法〉とは。

 名前だけ見れば、体力の回復にもなるかも? なるかな? どうだろう?


「すみません。もう大丈夫です。行きましょう」


 オークはこの街の特産。この地下二十一階から二十九階は、このダンジョンで一番冒険者が多いエリアだ。そしてこの地下二十一階はポータルが一番近いことから、アイテムボックスやマジックバッグを持っていないパーティがうじゃうじゃいる。

 〈迷宮の薔薇〉も普段は地下二十一階か地下二十二階で活動しているそうだが、今日はアイテムボックス持ちの俺がいるので、時間が許すなら地下二十五階まで潜っていくそうだ。


「じゃあ、次行くよ!」


 ジーナさんの合図で、俺たちは次の階層を目指した。


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