8・傍若無人の悪女様-4
テレノは戦意を喪失したように、その場にヘナヘナと座り込んだ。
「……オレより強い女の子なんて初めて見た……」
意気消沈とするテレノとは対照的に、セリオンは目をキラキラとさせて私を見た。
「……さすがデステージョ様。かっこいい……」
その視線が眩しくて、私は思わず目を逸らす。
「いい? まずは人の話を聞く、わかった? そうしないと痛い目にあうわよ」
そう諭すと、テレノはおとなしくうなづく。
「私は、デステージョ・デ・ノクトゥルノ。この国の三大公爵家ノクトゥルノ公爵の娘よ。あなたを孤児院から引き取りました。今日からこの屋敷で暮らすことになったの。そこのセリオンと一緒にね。なにか質問はある?」
「なんでオレを引き取ったのさ」
テレノがふてくされたように言う。
「テレノが孤児院で一番力が強いからよ」
私が説明すると、テレノは顔を赤らめた。
「オレ、一番、力が強い……」
「ええ、孤児院長がそう推薦したの」
「オレを推薦……」
テレノはうれしそうに瞳を輝かせた。
(きっと問題児扱いで、いままでひとから推薦されたことなんてなかったのでしょうね)
私はそんなテレノを微笑ましく思う。
「私は強い仲間がほしいの。だから、あなたを連れてきた。私の仲間にならない?」
私が誘うと、テレノは首をかしげた。
「でも、お嬢様のほうがオレより強い。オレなんか必要?」
テレノの問いに私は瞬きした。
(たしかに、デステージョは強い。でも――)
「強くたって、ひとりぼっちは淋しいわ」
私の答えに、セリオンとテレノはハッと息を呑んだ。きっと彼らにも心当たりがあるのだろう。
原作のデステージョもひとりで戦い成敗されたのだ。
「それにね。大きくなったらきっとあなたたちのほうが強くなる」
私はふたりを見ながら答えた。
「ボクらのほうが強くなるんですか?」
セリオンは小首をかしげた。
「そう信じてる。というか、私より強く賢くなってちょうだい。必要な物なら全部用意するわ。だから、頼もしい仲間になってちょうだい」
私が微笑むと、テレノはコクンとうなづいた。
「うん!! やった! 仲間! オレたち仲間!!」
テレノはそう喜んで、私に飛びついてくる。
思わすドシンと尻餅をついた。
(喜んでるのはわかるけど、仲良くない他人に、いきなり、しかも力いっぱい飛びかかるのはよくないわ。この距離感と力加減のなさが周りから嫌われる原因ね)
私はため息をついた。
「デステージョ様! 大丈夫ですか!? お前、デステージョ様から離れろ!!」
セリオンがテレノを引っ張る。
しかし、テレノの力には敵わない。
私はテレノのおでこにデコピンをした。普通のものではない。電撃を含んだデコピンだ。
ピリッと走る静電気に、テレノは驚いたように瞬きした。そして満面の笑みになる。
「ねぇ、今のもお嬢様がやったの!?」
テレノは目をキラキラとさせ、懲りもせずに両手を広げて、抱きしめようとしてくる。
(ああ、これは早めに躾けないと、テレノも周囲も不幸になるわ……)
私は自分に保護魔法をかける。
テレノが保護魔法の膜に触れた瞬間ビリリと電流が走った。
テレノは驚き目を白黒させる。
「お嬢様、すげー!! マジ、すげー!!」
尊敬のまなざしを向けるテレノに、私は頭痛を感じる。
(なんというか……なんだろう、この大型の子犬感……)
テレノの背景に、お留守番中にソファーを壊しておきながら、綿まみれになり『褒めて?』とねだるシベリアンハスキーの子犬が見えるようだ。
「ステイ!」
デステージョの口から思わず、指示が零れた。
するとテレノはピシッと直立した。私をボスだと認めたのかもしれない。
「いい? テレノ。私たち、まだ友達じゃないわ」
私は冷たい声で諭した。ヒュウと部屋の空気が凍る。
テレノも息を呑んだ。
「信頼関係もできてないのに、勝手に人の体を触ってはダメ」
テレノはシュンとうつむいた。
「オレに触られるのヤだったの?」
イタズラを怒られた子犬のようで心が痛む。
「いきなりだとびっくりするでしょう。まずは仲良くなってから。そうして、相手の許可を取りなさい」
私が言うと、テレノは真面目な顔をしてうなづいた。
「わかりました。まずは、仲良くなる、仲良くなる……」
テレノはブツブツと反芻していた。
「あと、この屋敷の中なら、自由にしていいわ。もちろん庭へ出ても結構よ。門の外に出るのもかまわないけど、外で問題が起きても助けないわ。あと、必要な物や、困ったことがあったら近くにいるメイドに言いなさい」
「はい!! お嬢様!!」
テレノは従順によい返事をした。