7・傍若無人の悪女様-3
私はテレノを風呂に入れるように使用人に命じた。食事と清潔な衣類を与えてから、セリオンと同じ部屋で暮らすように手配する。
原作中では、セリオンとテレノは同じ孤児院で暮らし、仲がよかったため気が合うと考えたのだ。
しかし、考えは甘かったようだ。
私はセリオンの部屋の前に来ていた。
扉の向こうからは言い争う声が聞こえる。使用人の使う半地下の部屋は、壁も扉も薄いのだ。
「お前も買われてきたのか? 早く一緒に逃げようぜ!」
テレノの声が響いてくる。
「いかがしますか? お嬢様」
一緒についてきた護衛が私に尋ねる。
「少し、ここで話を聞いてみましょうか」
私は部屋の向こうの様子を窺った。
セリオンも、ここで暮らすのが本当は嫌ならば無理強いするつもりはない。ふたりまとめて、遠く離れた孤児院に送りシエロと出会わないようにすればいい。
「ボクは嫌だよ」
セリオンが静かに答えるのが聞こえる。
「なに馬鹿なこと言ってるんだよ、行くぞ!」
「逃げてどうするの?」
テレノの言葉にセリオンが返す。
「ボクたち子どもが生きていけるの?」
「なんとかして生きていけるさ! 悪女にいたぶられるよりマシだろ!」
テレノが返す。
「悪女? 訂正しろ! デステージョ様は女神様だ! こんなボクに魔力の使い方を教えてくださっているんだぞ!」
荒ぶるセリオンの言葉に、私は赤面してしまう。
ついてきた使用人が生暖かい目で私を見る。
気まずい私は咳払いし、部屋の扉をノックした。
「入るわよ」
そう言ってドアを開ける。
ふたりは私を見て押し黙った。
「なにか足りない物はない?」
私の問いに、テレノが叫びながら飛びかかる。
「オレたちをどうするつもりだー!!」
「あっ!」
セリオンが思わず声をあげ、止めようとする。
私は、フンと体幹に力を込めた。すると体が、ふんわりと輝く。保護魔法を発動させたのだ。
テレノが魔法の膜にぶつかり、バインと跳ね返り吹っ飛ばされる。勢いのまま壁にぶつかり、床へ落ちて転がる。
「うわっ!!」
セリオンは呆気にとられ、口をあんぐりと開けた。
テレノはなにが起こったのかわからないかのようにキョロキョロとあたりを見回
した。
私は腕を組み、テレノを見おろす。
(テレノが孤児院で嫌われ者だった原因は、この直情的な行動ね)
設定上は知っていたが、実際に会うとなかなかの問題児だ。
「落ち着いて話を聞きなさい。私はあなたたちに危害を加えるつもりはないわ」
私の言葉は、テレノに響かない。
テレノは再度立ち上がり、立ち向かってくる。
「騙されないぞ!!」
そう言って、再び襲いかかった。そして、同じく保護魔法で跳ね飛ばされる。
「だから、話を聞きなさいっていっているでしょ」
私は肩をすくめる。
小説の中では、シエロ以外にはガルガルと牙を剥いていた。シエロにとっては忠犬だったが、これでは野犬そのものだ。
テレノが懲りずに飛びかかってきて、私はため息をついた。
(うーん……人の話を聞かないで、すぐに暴力へ訴える。これは躾をしないと社会不適合者になっちゃうわ)
私は簡単な緊縛魔法を使い、テレノを拘束した。
「っ!? うわ!! なんだ、これ!!」
薄暗いモヤに縛られて、テレノはワタワタと慌てふためく。
「卑怯だぞ! 魔法なんて!!」
わめくテレノに指をさした。その指先を上へ向けると、テレノがふわりと浮き上がる。
「うわぁぁぁ! やめろ!! おろせよ!!」
テレノは宙に浮きながら、足をバタバタとした。
私はさらに指を上に向ける。テレノは天井にぶつかるほど浮き上がった。
「っ! ……! ……!」
テレノの顔は青ざめている。
「あまり暴れると、落ちちゃうかもしれないわね。私、魔法苦手だし」
シレっとした顔で言ってみる。
テレノはヒュッと息を呑み、体を硬直させた。
「おい……、なぁ……おろ……おろしてください」
静かになったテレノへ冷たい目を向けた。
「話を聞け、と言っているの。おわかり?」
テレノはコクコクとうなづく。
「うん、わかった! わかったから!!」
私はゆっくりとテレノをおろした。床に足がついたところで、魔法の拘束を解く。
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