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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@お飾り側妃は糸を引く7/5発売


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48・無事安穏の悪女様-2


 温室の中は温かく、降り注ぐ日差しがセリオンを照らしている。先ほどの冷たい表情が嘘のように、穏やかな顔をしていた。セリオンはランチボックスを開いて、甲斐甲斐しく昼食の準備をしてくれる。


(さっきの冷たいセリオンとは大違い。こういう姿を見ると、いい父親になれそうなのよね……)


 そして想像する。セリオンと同じ濃紺色の髪の小さな子どもたちが、彼にまとわりついて困らせている様子を。


(子どもを魔法陣であやしてやるのかしら? 一緒になって教えるのかも。男の子でも女の子でもきっとかわいいわよね)


 思わずニマニマと頬が緩んでしまう。


「なんですか?」


 セリオンが照れたように微笑んで、私は幸せで胸がいっぱいになった。


「んー? セリオンて面倒見がよくて、よい父親になれそうよね」


 私は思ったことをなにも考えずに口にすると、セリオンは面食らったような顔をした。


「ボクが父親ですか?」


「ええ」


 セリオンは泣きそうな顔をした。


「無理ですよ。あんな父の血を引いてるんです。子どもなんて望んではいけない」


 あえぐようにつぶやいて、凍った顔でむりやりいびつな笑顔を作った。


 彼の父は、妻を殺し子も殺そうとしたのだ。


(たしかに、セリオンの気持ちもわかる。私も前世の母を思い出すと、自分に親になる適性なんてないとも思う)


 視線を落とすセリオンの頭を私はヨシヨシと撫でた。


「セリオンはその痛みを知ってるわ。だから自分がされて嫌だったことは絶対にしないでしょ?」


 私はそう信じたい。


 セリオンはオズオズと顔を上げた。


「……そうなので……しょうか?」


「それにお母様の血も引いてるわ。それまで否定するの?」


 セリオンは力なく頭を左右に振る。


「父親の半分だって、お祖父様とお祖母様のものよ。そのお祖父様の血だって、さらにうえの人たちの半分だし。ドンドンドンドン遡っていけば、自分の先祖なんて星の数ほどいるわよ。その中にはいい人も、悪い人もいる。ノクトゥルノ公爵家なんて処刑された悪人も多いわ。私はその人たちの血を引いている。けど! 悪い血だけが受け継がれるわけじゃないでしょ。私の悪行をその人たちのせいにするつもりなんてないわ! 私は私がやりたくて、やってるんだもの!」


 セリオンはプッと噴き出した。


「デステージョ様らしいですね」


「なによ、馬鹿にするの?」


「いいえ」


 笑いつつ、セリオンは割り切れないような顔をしている。


「それでも心配なら私が止めてあげるわ」


「デステージョ様が?」


「ええ、だって、セリオンに似た子なら絶対絶対可愛いもの! 私が守ってあげるわよ」


 私がドヤ顔で答えると、セリオンは顔を真っ赤にした。


「……そう、です……か……。ボクの子をデステージョ様が?」


「そうよ。だから心配せず結婚なさい。家族ごとノクトゥルノ公爵家で面倒見るわよ」


 私が答えると、セリオンは椅子の背もたれにもたれかかる。


「……あ、そういう感じですか……」


 セリオンは座り直すと、呆れたように長いため息をついた。


「なによ。問題ある?」


「いいえ」


「文句ありそうだけど?」


「いいえ。さっさと食べましょう。冷めてしまいます」

 

 セリオンが食事を促す。


「たしかにね。保温用のランチボックスも開発しようかしら? それで学園に卸すのよ。ガッポガッポじゃない?」


 私がニヤリと笑うと、セリオンは肩をすくめた。


「デステージョ様は、どうしてそんなにもうけようとするのです? 公女様であればお金など不自由しないでしょうに……」


「でも、私結婚できないじゃない? 家はお兄様が継ぐでしょうし。だから老後の資金は貯めとかないとね」


「結婚できない? なぜ?」


「だって、身分的に釣り合うのはイービスぐらいでしょ? 彼はシエロ様と結婚するだろうし。格下の家門で『完全無欠の悪女デステージョ』なんて持て余すわよ。だから、どこかに領地でも買って自由気ままに生きるのよ! 国外でもいいわね」


 私が未来展望をワクワクしながら答えると、セリオンは笑った。


「では、ボクはどこまでもついて行きますね」


「本当? セリオンが一緒なら安心だわ」


 私が喜ぶと、セリオンは幸せそうに微笑んだ。


 私たちが昼食を頬張っていると、テレノが温室に駆け込んできた。


「もう、温室の周りを男子生徒がウロウロしてたから、追い払ってきたらこんな時間になっちゃった。はぁ……、お腹空いた!」


 テレノはドカッと椅子に座ると、乱暴にランチボックスを開いて食べ始めた。


「男子学生を追い払うって……。別にここは私たちのものではないでしょう?」


 私は呆れる。


「だって、あいつらデステージョ様狙いだよ! 絶対、ダメ。オレより弱いなら、カサドール様より弱いし!」


「私狙いなわけないでしょう? 完全無欠の悪女デステージョよ?」


 私が手を振ってカラカラと笑うと、セリオンとテレノは顔を見合わせた。


「デステージョ様がさぁ、そう思いたいんだったらそれでもいいけど」


「自己評価と他者評価がかけ離れているのも考えものです」


 呆れたような目を向けられる。


 私は意味がわからず小首をかしげた。


「まぁ、いいです」


「だな」


 ふたりは勝手に納得したようだ。


「では、デステージョ様はどなたと舞踏会に行かれるのですか?」


 セリオンが尋ねる。


「お兄様以外いないでしょ。お兄様以外を選んだら、死人が出るかも知れないし」


 私が即答すると、ふたりは笑う。


「たしかにそうですね」


「それな!」


 笑い声が響く温室で、私たちは昼食を食べ終えた。




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