表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/50

41・半死半生の悪女様-1


「セリオン、テレノ。会ってやってくれ」


 ノクトゥルノ公爵様に言われ、ボクはデステージョ様の寝室に入った。


 ここは、ノクトゥルノ公爵家のデステージョ様の寝室である。


 デステージョ様が文化祭の劇の途中で倒れてから、二日間仮死状態のまま目覚めていない。


 倒れたデステージョ様を寮においておくことはできないと、ノクトゥルノ公爵家へ戻ってきたのだ。ノクトゥルノ公爵は、国一番の医師を呼び寄せ診察させたが、デステージョ様の治療方法はわかっていない。


 テレノはまっしぐらにデステージョ様のベッドに駆け寄った。


「デステージョ様!!」 


 テレノの大きな声にすら、デステージョ様は反応しない。


 美しい寝顔を見て、テレノの瞳に涙がブワリと盛り上がった。


 ボタボタと涙を流し、エグエグと嗚咽する。


「デステージョ様ぁ……! 早く、目、さま、しっ、て……。オレ、犯人、つかまえ、た、から……! ねぇ、褒めてよぉ……!」


 テレノはデステージョ様のベッドの脇に膝をつき、泣き崩れた。


 ボクはそれを見て自嘲する。


「ボクは、一番そばにいたのに、またなにもできなかった……。ボクは役立たずだ」


 つぶやくボクのふくらはぎをテレノがガシリと掴む。


「そんな、こと、ない!! デステージョ様、お前がすぐ助けに行ったから、死ななかったって、お医者さん、言ってた! 頭を守って魔力を送り込んでくれたからだって!」


「でも」


 テレノはボクの足を掴む手にギュッと力を込める。


「命を救ったのはセリオンだ! 役立たずって言うな!!」


 涙を流しながらボクを見上げてくるテレノ。


「痛いよ……テレノ……」


「役立たずって言うな!!」


「テレノ」


「言うなよぉぉ!!」


 テレノは泣きながら叫ぶ。


「オレたちが役立たずなら、デステージョ様がオレたちにしてくれたこと全部無駄みたいじゃないか!! そんなこと言うな!! そんなことない!!」


 テレノの爪がギュウギュウとふくらはぎに食い込んでくる。


 痛くて熱くて、それがテレノの苦しさのようにも思えた。


「……ごめん」


 ボクはテレノに謝罪した。


「後悔するよりも、できることしなくちゃいけなかったね」


 ボクは天蓋付きのベッドに眠るデステージョ様の手を取り、魔力を送り込んだ。


「目を覚ましてください。デステージョ様……」


 しかし、相変わらず反応はない。


「ただ眠りについているだけだなんて信じられない……」

 

 体に異常はないとの見立てだが、目覚めないのはどう考えてもおかしい。


 穏やかに横たわるデステージョ様は、まるで眠り姫のようだ。


 美しく、儚い。もともと美しい人ではあるのだが、日頃の言動を知っている者からすると、デステージョ様は儚さとは真逆のイメージだった。


 彼女を悪く言う人々は、「完全無欠の悪女」と呼んだのだ。そして、デステージョ様本人も否定しなかった。


(危なっかしいところはありつつも、誰よりも強く賢い人だったから)


 今まで何度も危険な目には遭った。しかし、それらを解決し自分の利にする人だった。ただやられるというのは考えにくい。


「デステージョ様……。これもすべてデステージョ様の思し召しだったのですか?」


 ボクの問いかけに、眠るデステージョ様は答えない。


 ボクはデステージョ様の手を撫でる。


「デステージョ様……。目を覚ましてくれないのですか……?」


「デステージョ様、早く目を覚ましてよ。変な噂が立ってるんだ。このままだと、犯人たちの思うつぼだよ」


 テレノもデステージョ様の手を取る。


 しかし、デステージョ様は目を覚まさない。


「デステージョ様……」


 ボクはもう一度魔力を送り込む。


 そのとき、寝室の扉が乱暴に開かれた。そこに立っていたのは、息を切らしたカサドール様だった。


「デステージョは目覚めたか!」


 ボクらはフルフルと頭を振った。


 すると、カサドール様はツカツカと歩いてきて、デステージョ様の顔をのぞき込んだ。


「……綺麗な顔だな……」


 ボソリとつぶやく。


 そして、カサドール様はボクを見た。


「このまま目覚めないのなら、魂召喚の儀式をおこなう。準備は整った」


 ボクは驚き息を呑んだ。


「それは……あのときの……?」


「そうだ。あのときは失敗しかけたが、今回はセリオン、お前がいる。お前なら正確な魔法陣を描けるだろう?」


 カサドール様はジッとボクを見つめた。


 魂召喚の儀式とは、デステージョ様が幼いころ、カサドール様がボクを生け贄にしておこなった禁忌の魔法だ。


 ボクはそのときデステージョ様に救われて、以降、ボクの命は彼女に捧げた。


「しかし……」


 ボクは言いよどんだ。なぜなら、この儀式には生贄が必要だからだ。


 そして、デステージョ様は生け贄を必要とする禁忌の魔法を忌み嫌っていた。


「生贄は毒入りの飲み物を用意した女を使う。責任を取ってもらわなければな」


 カサドール様は悪役その者の顔で笑った。


「そんなこと、デステージョ様が望むでしょうか?」


 ボクが尋ねると、カサドール様は笑った。


「デステージョの気持ちなど俺には関係ない! 俺がデステージョをよみがえらせたいだけだ」


 カサドール様は言い切った。


「お前たちはどうだ?」


 そう言って、ボクとテレノを見た。


「オレも! オレも、デステージョ様に怒られてもいいから、デステージョ様に帰ってきてほしいよ……」


 テレノは迷わない。


 しかし、ボクは逡巡する。


(でも、デステージョ様は自分のために誰かが犠牲となったと知って、苦しまないだろうか? あのとき、ボクを助けてくれたデステージョ様なら、そんなことを絶対に望まない)


 カサドール様は怪訝そうにボクを見た。


「セリオンは反対なのか? デステージョがこのままでいいと思ってるのか!」


「違います! ただボクは……ボクは、デステージョ様が嫌がることはしたくないんです」


 ボクが答えると、カサドール様はスラリと剣を抜いた。


 そして、その切っ先をボクの喉元に突きつける。


「そうか。では、協力しないなら殺す」


 地を這うようなカサドール様の声。


 テレノが慌てて、カサドール様の腕を握った。


「さすがにそれはダメだ! 別にほかの魔導師にやらせればいいだろ!?」


 カサドール様はテレノを蹴り倒す。


「ほかの魔導師には無理だ。実際、以前の儀式では失敗した。我が家で一番の魔導師はセリオンだ。セリオン抜きで成功するとは思えない」


 そう言って、ボクを見た。デステージョ様と同じ、青色の瞳は凍てつく氷山のように輝いている。


 ボクは思わず固唾を呑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ