4・大胆不敵の悪女様-4
「それで、あなたのお名前は?」
私は男の子に向き合って尋ねる。
「……セリオン……」
ボソリとつぶやかれた名前を聞いて、私は固まった。
「……ん? もう一度言って?」
「ボクの名前はセリオンです」
今度ははっきりと答えられた。
(聞き間違えじゃなかった――!! この名前、瞳の色、そして元奴隷、『聖女シエロ』の魔導師だ――!!)
私は言葉を失った。
聖女シエロを命がけで守る魔導師セリオンは、元奴隷で片目に眼帯をしている美青年だ。一時はノクトゥルノ家の奴隷として働いていたのだが、片目を失ったあと捨てられ、孤児院に流れ着くのだ。
(まさか、魂召喚の儀式の犠牲者だったなんて!! それはデステージョのことを敵視するわよね……)
原作のセリオンは主人公シエロの盾となり、デステージョを追い詰めていく。
(ここで私がセリオンと知り合えたなら……原作が変わる!?)
グルグルと頭の中で計算する。
(よし! セリオンと仲良くなろう! なにしろ、セリオンは原作上で最強の魔導師になるはずだもの)
フンと鼻息荒く気合いを入れる。
「……お嬢様?」
セリオンがオズオズと私の様子を窺う。
「セリオン、いい名前ね! 私の名前はデステージョ。これからよろしくね!」
私が手を差し出すと、セリオンは困ったように手を引っ込めた。
「握手、するのよ?」
促すとセリオンは首を振った。
「ボクなんかの手、汚れてるから……」
「うるさいわね。私の命令が聞けないの?」
私はそう言うと、むりやりに手を握る。
セリオンはホッとしたように頬を緩める。
「いいえ。デステージョ様の命令ならばなんでも従います」
セリオンは奴隷として躾られたのか、私の前で片膝をついて恭しく頭を垂れた。
そして繋いだ手に額をつける。
「なんなりとお申し付けを」
そう言って私を見上げた。
瑠璃色に光る瞳が、宇宙から見た地球のようでとても神秘的だ。
(っぅ! こ、子どもなのになんて色気なの……!)
私は内心動揺するが、悪女らしく鼻で笑ってみせた。
「そう。せいぜい頑張ることね!」
セリオンがパッと笑顔を輝かせる。初めて見る子どもらしい表情に、ズキュンと胸が打ち抜かれる。
(さすが、サブヒーローのひとり! 魅力がダダ漏れね……)
私はその眩しさに、思わず眩暈を感じた。