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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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34/50

34・青春謳歌の悪女様-2


「イービスったら、なんて顔してるの? 噓よ。一緒にまいりましょう?」


「ありがとう。デステージョ」


 イービスははにかんだように笑う。それが、初々しくて私は思わずキュンとした。



(さすが作中ヒーローだけあって、可愛い表情も様になるわね)


 私はイービスに顔を近づけ、シエロに聞こえないように囁く。


「私をだしに使うんじゃなくて、ちゃんとシエロに話しかけなさいよ」


「っ! あ、ああ」


 イービスが顔を真っ赤にすると、シエロとセリオン、テレノの三人が驚いたように私たちを見た。


「? なに?」


 私が問うと、シエロもセリオンも目を逸らす。


「いえ、なんでも……」


 シエロはションボリと答え、セリオンは無言だ。


 テレノは屈託なく尋ねる。


「やっぱり、イービス様もデステージョ様が好きなんですか?」


 私は思わず噴き出した。


 イービスはゴホゴホと咳き込む。


「馬鹿なこと言わないの! そんなわけないじゃない!」


 私が笑い飛ばせば、イービスもうなづく。


「私たちはただの幼馴染みです。私には別に好きな人が――」


 イービスはそう言って、チラリとシエロに視線を送った。


(そこで言葉を止めるんじゃないわよ! 意気地無し!)


 私は思いつつ、テレノとセリオンの手を引っ張った。


「ほら、行くわよ!!」


「え? どういうこと?」


 テレノはキョトンとしている。


「うるさいわね! 私たちは先に行くの!」

 

 私は乱暴にふたりを引っ張って、先に林の中へ入っていく。


 鬱蒼と茂る木々が日差しを遮り、一瞬で気温が下がるのがわかる。


「もしかして、イービス様はシエロ様がお好きなのですか?」


 尋ねるのはセリオンだ。


 木漏れ日の影のせいか、表情が暗く見える。


「そうよ。見てればわかるじゃない」


 私はふたりを引っ張りながら答える。


「わからないよ。だって、デステージョ様のほうが格好いいのに! なんで?」


 テレノが尋ねる。


「普通の男の人は、可愛い女の子が好きなのよ」


 私は笑う。


「イービス様は見る目がないですね」


 セリオンはそう言って小さく笑う。


 そのささやかな微笑みが、なぜか少し切なくて私の胸の奥がキュンと音を立てた。


(キュン? なに、これ?)


 なぜか耳まで熱くなって、頭の中は疑問符でいっぱいだ。思わず足を止め、ふたりの手を離した。手の熱さがふたりに伝わりそうだと思ったのだ。


「? どうされましたか? デステージョ様」


 セリオンに顔をのぞき込まれる。


 目と目が合って息が止まる。


 私は思わずたじろいで目を逸らした。


「……そんなことないわよ。イービスは見る目があるわ。シエロは私と違って可愛いもの。私だって彼女を守りたくなるわ」


 物語の中で約束された主人公。爽やかな青空に清々しく、可憐で儚げでありながら、どんな苦境にもめげずに前向きに生きていく。優しくて、自分のことは我慢してしまうのに、他人のためには戦える。そんなシエロは私の憧れだ。


(誰からも愛されるシエロ……。彼女にはみんなが手を差し伸べたくなる。私とは正反対)


 家族からも搾取されていた前世を思い出し、乾いた笑いが漏れてしまう。


 前世の私だって、同じように自分のことを我慢して、家族に尽くしてきた。それにもかかわらず、家族にすら愛されなかった私はなにが違ったのか。


 私も、シエロのように可愛らしかったら愛されただろうか。誰かが守ってくれただろうか。


「……ボクはデステージョ様のほうが守りたくなりますけれど」


 ボソリ、小さく小さくセリオンがつぶやいた。


 私は驚き、思わずセリオンを見た。


 セリオンは拗ねたようにそっぽを向いている。


「なにするかわからなくて心配です」


 過保護なセリオンらしい言い分だ。


「そうだ! オレだってデステージョ様を守るよ!!」


 テレノも賛同する。


 私は思わず噴き出した。


(そうか。ここには私を守ろうとしてくれる人がいる――)


 凝り固まっていた心の底が柔らかくほぐれていくようで、なんだかとてもくすぐったい。


「はいはい、ふたりともありがとう」


 ふたりの言葉で、私の前世の傷が癒えていくのだ。


 私はセリオンとテレノの背中をパンと叩いた。


「じゃあ、これからもよろしくね」


 私が笑うと、ふたりは大きくうなづいた。


 林を抜けると明るい日差しが降り注いでくる。


 目の前にはオラシオン学園の校舎がそびえ立っていた。





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