33・青春謳歌の悪女様-1
朝の準備を終えたころ、部屋の扉がノックされた。
「デステージョ様、一緒に学園へ行きませんか?」
声の主はシエロである。
「ええ、かまわないわ」
私はドアを開け、部屋から出る。
「昨夜はかばってくれてうれしかったわ」
私が礼を言うと、シエロは照れたように頬を赤らめた。
「お役には立てませんでしたが……」
「いいえ、勇気をもらったわ」
私は今まで、シエロを守ることは考えていたが、まさかシエロから守られるとは思っていなかったのだ。
なんと言っても原作で『完全無欠の悪女』といわれるだけあり、デステージョは強かったからだ。大抵のことは自分で解決できる。
昨夜の件も、シエロの行動がなくても結果は変わらなかっただろうが、その気持ちがうれしかった。
私たちは連れだって寮の玄関をくぐる。
すると外には、セリオンとテレノが待っていた。
「ちょっと、そろそろ迎えをやめてと言ってるじゃない」
私が頰を膨らますと、テレノが笑う。
「オレはデステージョ様と一緒に行きたいし」
「デステージョ様は迷子になりそうで心配ですからね」
そう言うのはセリオンだ。
「さすがに、学園内で迷子になったりしないわよ」
「どうでしょう。待っているといった場所に待っていなかった過去がありますから」
ツーンと答えるセリオンは、山賊の一件をまだ根に持っているらしい。
オラシオン学園の校舎と寮とのあいだには林があり、歩いて十五分くらいかかるのだ。
(たった十五分だけど、原作のシエロはこの林の中で攫われたことがあるのよね)
原作の流れでは、シエロをいじめるデステージョにイービスが愛想を尽かし、婚約を破棄するとデステージョはシエロを自主退学させようと躍起になる。
そこで、学園内での護衛を禁止するように陳情し、護衛が禁止された期間にシエロ誘拐事件を起こすのだ。
(自主退学するようにとどんなに嫌がらせをしても、めげないシエロに苛ついて、デステージョが誘拐事件を起こすのよね)
結果、シエロはイービスに助けられ、聖女として覚醒する。
護衛がいない期間に、誘拐事件が起こったためセリオンたちは学園に駐在する名目を得るのだ。
(シエロが聖女として覚醒したのをきっかけに、デステージョは明確な殺意を抱くようになってしまうのよ)
いくら私が誘拐するつもりがなくても、山賊の件もある。ノクトゥルノ公爵家が手を下さなくても、原作補正がかかり同様の事件が起こる可能性はあった。
(そう考えると、セリオンとテレノがいてくれると安心ね。今は、セリオンもテレノも正式な生徒だから、追い出されることはないはずよ)
たぶん私ひとりでも暴漢の相手はできる。しかし、一人残さず捕まえるとなったら人手はあったほうがいい。
「……じゃ、よろしくね」
私が素直に答えると、セリオンは意外そうに驚いて、頰を赤らめた。
テレノは単純に喜んでいる。
私たちが林の前に来ると、そこにはイービスが待っていた。
「デステージョ」
「あら? どうしたの」
「いや、私も一緒に登校してもかまわないですか?」
私が尋ねると、イービスはそう言ってチラリとシエロを見た。
私に問うてくるが、実際はシエロと登校したいのだろう。
私はあえてシエロに水を向ける。
「どうしましょうか? シエロ様」
するとシエロは頬を赤らめモジモジとする。
「っ! えっと、私は……その……デステージョ様がかまわないのでしたら……」
(あぁん、甘酸っぱいわね!)
私はモダモダ両片思いが大好きなので、ふたりのぎこちない青春にホクホクだ。
(でも、このスピードだと婚約どころか、付き合うことすらままならないのでは……?)
そう思う私はたきつけてみる。
「あら? そう? じゃあ、お断りしようかしら?」
私の一言で、ふたりはあからさまにガッカリした顔つきになる。
私は思わず噴き出した。




