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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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31・不撓不屈の悪女様-3


 食堂のドアを開けると、アスールグループの生徒たち、五十名ほどがきちんと座って私を待っていた。


(おおっ! 思っていた以上の圧だわね)


 いつもは湯気が立っている食事だが、もう冷めてしまっているようだ。


 視線の色はさまざまだ。不機嫌そうな顔が多いなか、困った様子を見せるのは私に好意的な生徒だろうか。


 フィロメラは苦々しい顔をして私を睨みつけた。


 シエロは困惑したようすで私を見た。


 仁王立ちして私を見くだすのは寮監の先生だ。銀縁の眼鏡がキラリと光った。彼女は原作で登場する悪女のひとり、ニド・デ・パハロスだ。黒髪をひっつめ、お団子に結んでいる。


 寮の監督をする教師である。私たちの親と同世代で、皆からはパハロス先生と呼ばれている。


「デステージョさん! 無断で遅刻するとはなにごとですか!」


 パハロスは私を怒鳴りつけた。


「連絡いただいた時間に合わせてまいりました」


 私が事実を伝えると、パハロスは眼鏡の縁をクイッと上げ私を睨みつける。


「言い訳は不要です。あなたが遅れたせいで、みんな食事がとれませんでした。皆さんに謝罪なさい!」


「はぁ? 私が悪いわけではないのに謝罪ですか?」


「認めないならかまいませんが、あなたが謝罪しなければ食事は始まりませんよ」


 パハロスは意地悪に笑う。


(おお! まさに原作ではシエロが受けていた仕打ちだわ。実際にやられるとかなりムカつくわね)


 パハロスとフィロメラは結託して、寮内でシエロをいじめるのだ。


 学園内は身分の差がないというルールは一見するととてもよいのだが、悪用しようと思えば悪用できるやっかいな代物でもある。


 身分が上の者をいじめられる唯一のチャンスであり、学生時代にイジメによってトラウマを植え付けることで、卒業後も意のままに操ることができるからだ。


 裕福な家や地位のある家門の気の弱い者は、逆にイジメのターゲットとされかねない。


 それに、大きなグループを簡単に統率しようと思ったら、グループ内にスケープゴートを作るのがよい。馬鹿にしてもいい人間がひとりいるだけで、皆安心してそのひとりで鬱憤晴らしができる。また、自分がターゲットにされたくない恐怖からスケーブゴートを積極的にいじめるようになるのだ。嫌いなもので一致団結させ、恐怖で判断能力を奪うのは、カルト集団の常套手段だ。


 パハロスが、シエロをターゲットにしたのは、彼女がシエロの父に横恋慕していたからだ。恋が実らなかったパハロスは、教師となって独身を貫いていたのだが、シエロを見たことで過去の恨みが再熱したのだと原作には書かれていた。


(だからシエロをスケープゴートにしたかったのでしょうけれど、私を巻き込もうとしたのが失敗だったわね)


 私は鼻で笑う。


(たしかに私はお金も権力も持ってるけどね。性格も悪いのよ!!)


 私は胸を張って堂々とパハロスを見上げた。


「連帯責任ですか?」


「そうよ。あなたのミスでみんなに迷惑がかかるのよ。デステージョさん、ここでは身分の差などはありませんからね。ノクトゥルノ公爵家の名にあぐらをかいては駄目よ!」


 パハロスの言葉にクスクスと笑うのは、フィロメラである。 


 私は小さくため息をつく。


 連帯責任は使う場を間違えると危険だ。


 同じ目的を持ち自主的に集まったチーム内で使う分には、お互いに協力し高めあう、いい作用が働くことも多い。


 しかし、ただの寄せ集めグループで使うと、イジメのトリガーになりかねない。連帯責任で迷惑をかけた人間に罪悪感を植え付け、集団で攻撃できる言い訳を作ってしまうからだ。


 パハロスはそれを理解した上で意図的にやっているかと思うと、腹が立ってしかたがない。少し、お灸を据える必要がありそうだ。 


「さあ、謝りなさい」


 パハロスはドヤ顔で私に詰めよる。


 私はふんぞり返って反抗する。


「謝りませんわ。私は悪くないですもの」


「関係のない皆さんに迷惑がかかるのですよ?」


 パハロスは周囲を見回した。


 フィロメラとその取り巻きがうなづく。


「そうよ! 迷惑よ!!」


 私は微笑んだ。


「あら、いやだ。寮の規則では遅刻の罰が連帯責任だという文言はありません。連帯責任を強いているのはパハロス先生ですわ。私など待たずに食べるように指示をなさればいいだけのこと。関係のない生徒を巻き込んだのはパハロス先生ですわよ」


 私は周囲を見回した。


 生徒たちはハッとしてパハロスを見る。


 パハロスはたじろいだ。


「そ、そうやって責任転嫁をするつもりですか! 見苦しい!」


「いいえ。事実を指摘したまでです」


 私はニッコリと笑う。


「あなたが言い訳を重ねれば重ねるだけ、皆が食事をとれなくなるのですよ? 申し訳ないと思わないのですか!」


「思いませんわ。私は指示に従ってきたまでで、間違っておりませんし。そもそも、私、他人がどうとか興味ありませんもの。では、私はいただきますね?」


 そう言って私は自分の席に向かおうとする。


 するとパハロスが私の手を摑んだ。


「噂にたがわない悪女ぶりですね。いいかげんになさい!! ここでは公爵令嬢といえど忖度したりはしませんよ!」


「いいかげんにするのはそちらでは? 寮監なら、公平な立場でまずは遅れてきた理由を聞くべきでは?」


 私が静かに答えると、フィロメラを見やって悠然と微笑んだ。


 フィロメラはギクリとした表情をして、目を背ける。


 するとシエロが立ち上がった。


「そうです! デステージョ様のお話もきちんと聞いてください! デステージョ様は意味もなく遅刻されるような方ではありません!」


 勇敢なシエロの姿に私は驚いた。彼女は大人に反論するタイプではないからだ。実際、原作では彼女は自分が我慢してでも場が収まればいいと耐え忍んでいた。


(私は同じようにして前世で搾取されたから、もう我慢はしないと決めたのだけど、シエロは私のために立ち上がってくれたのね)


 その証拠にシエロはブルブルと震えている。


 パハロスはそんなシエロをあざ笑った。

「一年生の癖に生意気な。あなたは黙っていなさい。遅刻なんてただの甘えよ。理由なんて聞くだけ無駄です」


 シエロはビクリと体を硬直させ、うつむいた。


(ありがとうシエロ。充分よ)

 

 私は心の中で礼を言い、自分で反撃の狼煙のろしを上げる。




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