28・華麗奔放の悪女様-4
「栗を飲むなんて珍しい発想ですね。さすがデステージョ様です!」
「あなたと出会った山で採れた栗を使ったの」
そう種明かしをすると、シエロは顔を真っ赤にさせて頬を押さえた。
「私たちの出会いを記念したメニューですか!?」
喜ぶシエロには悪いが、そんな深い意味はない。
「え、ええ……そんなところね」
私は目を泳がせつつ、曖昧に答える。
「そのお話は詳しくお聞きしてもいいのですか?」
オズオズと尋ねてくる令息に私は鷹揚にうなづいた。
「かまいませんよ。特段隠さねばならないようなことはありませんし。ねえ? シエロ様」
シエロに確認すると、シエロはコクンとうなずいた。
「あの! デステージョ様がすっごく格好良かったんです!!」
のっけからのセリフに、私は思わずむせた。
「は?」
シエロは目をキラキラとさせて、両手を胸の前で組み合わせている。
「山賊に攫われたのに恐れるそぶりも見せずに冷静で……。私は恐ろしくて泣いてばかりだったのに、デステージョ様は簡単に戒めをとって私の縄までほどいてくださったのです」
「まぁ! そんなことが?」
シエロが話し出すと、令息も令嬢も前のめりになる。
「ご自身一人なら逃げられるはずだったのに、私がいたために救援を呼び寄せてくださって……」
「さすが、デステージョ様」
皆の視線が集まって私は居心地が悪い。
(山賊からお宝を盗もうとしていただけなのに……!)
そう思い、説明する。
「私が助けたのではなくて、ここにいるセリオンとテレノが」
「まぁ! 黒猫様はセリオン様とおっしゃるの?」
「最近話題の従者ですか。メニューの説明から、人命救助までこなすとは」
セリオンに注目が集まる。
「私はデステージョ様の命令に従ったまででございます」
そうセリオンは眉ひとつ動かさずサラリと答える。
「やはり、デステージョ様は素晴らしい!」
キラキラした目線が私に戻ってきて、セリオンはなぜだか得意げである。
恥ずかしくてたまらない。体温がグングンと上がってくる。もう耳までも真っ赤で、悪女の体裁を保てない。
私はおもむろに立ち上がった。
「どうぞご自由に噂なさって。私は帰りますから。行くわよ! セリオン!!」
私はセリオンを呼びつけて、そそくさと退席する。
セリオンはなにも言わず私についてきた。
目の端にはイービスが笑っているのが見える。
(っ! もう! なんなのよ!!)
私はツカツカと歩みを早め、会場をあとにした。




