24・一念発起の悪女様-7
その後、私とシエロ、セリオンとテレノと護衛たちで、一足先に王都へと向かうことになった。
「ありがとうございます! デステージョ様!」
「デステージョ様のおかげで、教会が綺麗になりましたー!」
「デステージョ様、また来てください!!」
村人たちに盛大に送り出され、私は解せない。
(知らないうちにまた魅了の魔法でも使ってしまったの? だとしたらあの人たちが私に劣情を抱いていたことになるけれど、さすがにそれはないでしょ? みんな、孫を可愛がるみたいだったもの)
デステージョの力はよくわからない。考えても無駄なので、純粋な気持ちとして受け取ることにした。
「まったく大げさなんだから……」
ため息交じりにつぶやくと、セリオンが静かに笑った。
「大げさではありませんよ。ボクたちもデステージョ様に救われました」
セリオンの言葉に、シエロもうなずく。
「そうそう! オレも! デステージョ様がいなかったら、きっと孤児院で嫌われ者だった!」
テレノがハイハイと手を挙げる。
私は両耳を手で塞いでそっぽを向いた。
「うるさいわね! お黙り!!」
三人は顔を向け合ってクスクスと笑っている。
ガタンと馬車が揺れ私は思わず前のめりになる。すると、セリオンがとっさに私のまえに腕を出し支えた。
「大丈夫ですか?」
「は? これくらい平気よ」
山賊討伐の一件以来、セリオンは過保護になってしまったのだ。心配かけすぎたせいだからしかたがないのだが、小言が多い。
「平気ではないから、つんのめるのでしょう」
しかも、少々口が悪い。正確には原作キャラに近づいている。
「うるさいわね」
私がうんざりした気分で答えると、腰のあたりに魔法の保護ベルトが現れた。
「なによ、これ」
「デステージョ様が前のめりにならないためのベルトです」
「はぁ? 子ども扱いしないでよ」
私が怒ると、テレノが笑う。
「オレたち立派な子どもだぜ! な?」
そうして、セリオンとシエロに笑いかけると、ふたりはうなずき笑い合う。
(さすが、原作で仲良かっただけあるわね。あっという間に、気心が知れた……って感じね)
三対一では分が悪い。私は少し淋しい気持ちで、ふてくされる。
「もういいわよ。勝手になさい!」
瞼を閉じ寝たふりをする。
(私なりに頑張ってきたけれど……、やっぱりふたりはシエロのもとに行くんだろうな)
原作のデステージョは、シエロに危害を加え続けた。そのたびに盾になったのは、セリオンとテレノのふたりだ。
(原作みたいに敵対するのは嫌だもの……。嫌われる前に送り出してあげなくちゃ)
私はギュッと目をつぶり、目の奥の熱が漏れ出さないようにした。
帰り道は順調で、一日ほどで王都に到着した。
そのままシエロをメディオディア公爵家へ送り届ける。ノクトゥルノ公爵家へ連れ帰って、変な疑いを持たれたら嫌だからだ。
先に伝令を送っていたため、シエロの到着にメディオディア公爵家はわきたった。
玄関から飛び出してきたのは、メディオディア公爵夫妻とシエロの十歳年上の兄である。
「シエロ! よく無事で戻った!」
「お父様! 私、デステージョ様に助けていただいたんです。ぜひお礼をしてください」
シエロが振り返り私を紹介する。
メディオディア公爵は驚いた様子で私を見た。
「あなたが噂のデステージョ嬢か!」
どうやら、メディオディア公爵にも悪女の噂は届いているらしい。
(誘拐の濡れ衣でも着せてくる? だったら、私も迎え撃つまで!)
私は得意満面で鼻を鳴らし、悪女らしく髪を払った。
しかし、メディオディア公爵は紅潮した頬で礼を言う。
「我が娘をよくぞ助けてくださった。後ほどあらためてノクトゥルノ公爵家へお礼を届けよう」
(……思ってたのと反応が違うわね?)
予想外の反応に気圧されながらも、私は答える。
「別にたいしたことなどしておりませんわ。それよりも、村へ人を派遣なさったら? ほかにも行方不明の使用人がいるでしょう?」
「……! ああ! そうすることにしよう! 噂のとおりデステージョ嬢は下々の者にまで優しいな」
シエロと同じ青空色の瞳をキラキラさせて言う。
「戯れ言を。シエロ様は間違いなくお届けしましたわ。それでは」
話を切り上げ、サッサと屋敷に戻ることにした。
そうしてノクトゥルノ公爵家へ戻ると、そこはそこで別の騒ぎが起きていた。
私のことまで両親が出迎えてくれたのだ。
「よくやった、デステージョ!」
「無事で良かったわ、デステージョ!」
ふたりにギュッと抱きしめられ、私は目を白黒させた。
「……なにごとですか……」
私の問いに、カサドールが答える。
「山賊に攫われるとはデステージョはまだまだだなっ! だが、山賊を壊滅させた上、メディオディア公爵家の令嬢を救い出すとは、まぁ、マシになったとでもいってやろうか!」
憎まれ口を叩いているカサドールの目もとは真っ赤である。泣いていたのが明らかで、私は思わず口もとが緩む。
「お兄様のご指導のたまものですわ。ありがとうございます」
「……! そうか! そうだな!!」
私は両親の腕からすり抜け、カサドールの前に行った。
そして、両手を広げてみせる。
「でも、少しは褒めてくださいませんか? お兄様」
小首をかしげてハグをねだってみせると、カサドールの瞳から大粒の涙が溢れた。そして、ギュッと力強く私を抱きしめる。
「心配をおかけして申し訳ありません」
「心配などしてなかった!!」
「……そうですか」
「なぜなら、お前は俺の妹だ! だから、……そうだ。よくやった!!」
カサドールは、なにも言えないほどの勢いで泣いている。あまりにも力が強すぎて苦しすぎる。
(お兄様、愛が暴走しているわ……! く、苦しいっ!!)
両親はそんな私たちを微笑んで見守っている。
「本当にデステージョは誇らしい娘だ」
ノクトゥルノ公爵が私の頭にポンと手を置いた。
「私ひとりの力ではありませんわ。セリオンやテレノ、同行の護衛たちが私を守ってくれました」
答えると、静かにうなずく。
「セリオンとテレノは、正式にデステージョの護衛騎士に任命しよう。ほかの者たちにも褒美を取らせる!」
ノクトゥルノ公爵の宣言に、ワッと歓声があがった。
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