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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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22/50

22・一念発起の悪女様-5


「……デステージョ様。これはいったいどういうことですか?」


「そうだ! そうだ!」


 セリオンの詰問に、テレノも同調する。


 私はたじろぎ一歩下がって、目を逸らした。


「……ど、どういうことって、どういうこと?」


「この子を助けるためにわざと山賊に捕まったのですか!」


 そう言って、シエロを指さす。


 シエロは体を縮こまらせ、泣きそうな顔で私を見上げた。


「ち、違うわよ! 山賊に連れ去られたら、たまたまここにこの子がいただけで……」


 私が答えると、セリオンはさらに一歩、私に向かって踏み出した。


「デステージョ様ほどの方が、あの程度の山賊に易々と連れ去られるはずがないでしょう!」


「えぇ……。そんな、私、か弱い令嬢よ……?」


 私はさらに一歩下がりながら、誤魔化すように笑って答えると、セリオンはギンと私を睨みつけた。


(ううっ! 怖い! セリオンて怒らせると怖いのね)


 また一歩、セリオンは私との距離を詰める。


「正直に仰ってください」


「……」


 さらに一歩下がり目を逸らす私に、セリオンは怒りを抑えながら静かに問う。


「最初から、あそこに山賊が来るとわかっていたんですね?」


「う」


「なんで教えてくれなかったんですか」


「だって、相談したらセリオンは残ったでしょう?」

 

 私の答えに、セリオンは言葉を詰まらせ苦虫を噛み潰したような顔になる。


「あたりまえです。ボクが残ったら不都合なことでもあったんですね」


 問われても、山賊を誘い出し根城を押さえて盗品を強奪するためとは言えない。


「!! まさか根城に行けばもっとよい財宝があると思ったわけじゃないですよね!?」


 セリオンに図星を指され、私は顔が引きつった。なんでもお見通しらしい。


「違うんですか!」


「……ちがう……」


 言いかけると睨まれる。


「ちがい……ません……」


 私が答えると、セリオンはショックを受けたように息を呑み、続けて長く深いため息をついた。


「……なんで一言相談してくれなかったんですか……。そんなにボクは信用できないですか……」


 それは問いかけではなく、落胆の末に漏れたひとりごとだった。


「そうじゃなくて、言えば反対されると思ったから」


 私が説明しようとすると、セリオンが言葉をかぶせる。


「それで、ボクを騙して村に行かせたんですね」


「騙したわけじゃ」


「ボクは騙されましたよ」


 セリオンは自嘲した。


「だって……、か弱く可愛い私ひとりなら、山賊をおびき出すのにちょうどいいかなーって」


「危ないでしょう!?」


「そうだ! 危ない!!」


 セリオンとテレノに責められ私はムッとする。


「危なくないわよ」


 突き放すように答える。


「セリオンだってわかってるでしょ? あの程度の山賊に私がやられるわけないって。馬鹿にしないでよ」


 フンと鼻を鳴らして腕を組むと、セリオンは脱力したようにヘニョヘニョとその場に座り込んだ。


 そして、腕で顔を隠して小さくつぶやく。


「……心配……したんです……。ボクは……」


「だから、心配するようなこと――」


「心配しますよ!!」


 セリオンはバッと顔を上げて私を睨む。その瑠璃色の瞳には、薄い水の膜が張り儚げに揺らめいている。


(っ!)


 私はその表情に動揺した。とても心配かけていたことがわかったからだ。


「そ、そんなに、心配しなくても」


「ボクらはデステージョ様と違って、山賊と一緒にいることを知らなかったんです! 崖から落ちたのか、クマか、モンスターか、デステージョ様ほどの方が対応できないような危険ななにかがあったのだと、心配して、心配して……!!」


 セリオンはそこまで一気にまくし立てると、うつむいて腕の中に顔を隠した。小刻みに揺れる背中から、泣いていることがわかる。感情の起伏が乏しいセリオンが、こんな姿を見せたのは出会ったとき以来だ。


 申し訳なさにオロオロしつつ、どう答えたらいいのかわからない。


「今回はデステージョ様が悪い」


 テレノが短くそう言った。彼の手には傷ついた模造刀があった。


(テレノの拳、赤く傷ついている……。私のこと必死に探してくれたんだ……)


 事情を知らなかった彼らは、本当に私を心配したのだろう。今になってそのことに気がつき、私は申し訳なさでいっぱいになった。どう考えても私が悪い。


「心配かけてごめんなさい」


 私が頭を下げると、テレノはニカリと笑った。


「オレはデステージョ様が無事ならなんでもいいけどさ」


 そう許してくれる。


 私はセリオンの前に屈み込んだ。セリオンは肩を震わせたまま、顔を隠している。


 その揺れる濃紺色の髪を私は静かに撫でた。


 セリオンは驚いたようにビクリと体を硬直させる。


「ごめんね、セリオン。心配かけたわね」


 私の言葉にセリオンは反応しない。


「絶対あなたが助けに来てくれると思ったから、なにも考えずに行動してしまったわ。ごめんなさい」


 私は深く頭を下げると、セリオンは長く長ーく息を吐き出した。


(もう、呆れて見放されたかしら)

 

 そう思うと心の奥がゾッとした。


「……セリオン……。許して?」


 顔を隠しているセリオンを下からのぞき込む。

 

 暗がりの中で、瑠璃色の瞳がキラキラと瞬いていた。



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