21・一念発起の悪女様-4
「デステージョ様はどこだ!!」
表からテレノの怒鳴り声が聞こえる。
「は? うそ? もう来たの!?」
テレノの到着があまりにも早く私は驚いた。
「知らねーよ! なんだぁ? そんな模造刀なんかもって、騎士様気取り――」
ボカリと鈍い音がして、山賊の言葉が途中で途切れる。
「ガキだと思って優しくしてやれば!!」
「調子に乗りやがって!!」
慌てる山賊にテレノが問う。
「金髪で青い瞳のすごくすごくすごーく綺麗な天使みたいなお嬢様、ここにいるだろ!?」
テレノが声を荒らげると、シエロが私をマジマジと見た。
そして、小さくフフフと笑う。その可憐な様子がたまらなく可愛らしくて、私の胸は思わず高鳴る。
(さすがヒロイン! 可愛いわね)
私は思わず見蕩れてしまう。
そんな私を見て、シエロは眩しそうに目を細めた。
「あの、あなたのことですよね? すごく大切にされてるんですね」
私は気まずい気持ちで目を逸らす。
「っ! さっきの娘の知り合いか!」
「おい! お前、娘たちを連れて先にいけ!」
「おう!」
山賊たちはテレノを足止めするグループと、私たちを連れさるグループに分かれたらしい。
「やっぱりここにデステージョ様がいるんだな!」
そうテレノが吠え、山賊たちに襲いかかっている音が聞こえる。
乱闘が始まったらしい。
男たちの怒号が響き、シエロは頭を抱えてブルブルと震え、瞳いっぱいに涙をためている。
「こっちへ」
私はシエロの手を引いてドアのある壁の右側の壁側に座らせた。そして、ドアに保護魔法をかける。
山賊たちがガチャガチャとドアノブを乱暴にドアを回した。
その瞬間、ドアノブに電撃が走る。
「いってぇ!! なんだこれ!!」
「静電気なんてもんじゃねぇぞ! くそ!!」
混乱する山賊たち。
そんななか、ドアの正面、外に面した壁の板にボワリと魔法陣が輝き浮き出てきた。
大きく正確な魔法陣はセリオンのものだ。
一応、自分とシエロに保護魔法をかける。
「っ、なにが起こるんですか」
シエロが震える声で尋ねる。
「大丈夫よ。あなたのことは助けるから、目を瞑っておいでなさい」
私はそう言って青空色の頭をギュッと抱きしめた。
同時に、壁が光り輝く。セリオンが魔法陣を発動させたのだ。
そして、バリバリ音を立て壁が左右に割れた。割れる壁の向こうからセリオンが現れる。
「セリオン!」
砂埃の舞う中、立つセリオンは怒りに燃えた顔をしていた。
(こ、こわい……。なんで、こんなに怒ってるの!?)
私はゾッとして、思わずシエロを抱きしめる腕に力を込める。
「デステージョ様!」
私を確認すると、セリオンは一転して泣きそうな顔になった。そして、シエロに目もくれず私に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか? いったいなにが」
「とりあえず、彼女をつれて外へ出るわよ」
私が言うとそこではじめてシエロを見た。
「この方のせいでデステージョ様が危険にさらされたのですか!?」
そう怒りの目を向ける。
(今までこんなふうに怒ったことなんてなかったのに……)
セリオンは原作では毒舌で小言の多いキャラだったが、私に対しては従順だった。
セリオンのいつもと違う剣幕に冷や汗ものである。
「デステージョ様ぁ! ここかぁ?」
ドアのある壁の向こうから、テレノの呼び声が聞こえる。すでに、山賊たちを打ちのめしたのだろう。
「ここよ! テレノ。大丈夫――」
言いかけた瞬間、テレノの声が私の言葉に被さった。
「ここか!!」
同時に、ドアのある壁が大きく揺れて、テレノの拳が突き出した。
「やめなさい! テレノ、小屋が潰れるわ!」
「こんな小屋、山賊ごと潰せばいい!」
どうやらテレノも怒り心頭らしい。バキバキと壁を破って私たちに合流する。
「デステージョ様! いた!」
テレノは満面の笑みで私を見た。尻尾を振る大型犬のようである。
それを見ると毒気が抜けてしまう。
「もう! ここから出るわよ!!」
呆れつつ、私はシエロを抱きかかえたまま、外へとまろびでる。
セリオンは私たちに魔法の防護壁をはり、テレノは背後を守った。
私たちが外に飛び出た瞬間、セリオンはもうひとつの壁も壊す。すると、一気に家が傾いた。
山賊たちの多くは潰れた小屋の下敷きになり、そこから出ようと奮闘していた。
辛うじて倒壊から免れた者が私たちを追いかけてくる。
「待て!」
「逃がすか! ガキども!!」
テレノが山賊に対峙し、模造刀でボカスカと打ちのめしていく。
「っ! なんだこいつ!」
「やべぇ!!」
私はシエロを抱いたまま、山賊たちに向き直った。
「デステージョ様!?」
「セリオンはそのまま防御壁を維持して」
「はい」
「あなたは目をつぶって耳を塞いで」
「っはい!」
シエロはギュッと目をつぶって両手で耳を押さえた。
「山賊団にはお仕置きよ!!」
私は指を振り上げた。
お得意の電撃魔法を山賊団たちに繰り出した。
「ウギャァァ」
男たちは電気で痺れてその場に倒れこむ。
「山賊をひとり残らず捕まえなさい! そして、盗品もすべて持ち帰るのよ!」
私が命じると、護衛たちが山賊の根城に向かっていく。あれよあれよというあいだに、山賊の根城は制圧された。
「私たちを敵に回すなんて馬鹿のやることよ」
思わずつぶやくと、腕の中でシエロがキラキラの瞳で私を見上げていた。
私はシエロを地面に下ろす。
「もう大丈夫よ」
「あ、ありがとうございます」
「とりあえず、私たちと一緒に村へ行きましょう。詳しい話はそこで聞くわ」
シエロはコクリとうなずいた。
すると、セリオンはズイと私の前に出た。怒りを隠さない表情である。
後ろではテレノも腕を組み、私を睨んでいる。




