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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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20/50

20・一念発起の悪女様-3


 セリオンの背を見送ってから、私はのんびりと伸びをした。少し前から感じている気配を誘い出すべく、無防備な振りをする。


 実は先ほどから、私が張った魔法探知になにかが反応しているのだ。


(きっと、山賊かなにかでしょう。捕まったフリをして根城を押さえるわよ。それで、盗品を横取りするの!)


 セリオンを麓に行かせたのは、相手を油断させるためだ。


「あー、早くセリオンがみんなを連れて戻ってこないかなー」


 無邪気につぶやきながら、落ちているドングリを並べてみせる。


 すると、背中から声がかかった。


「お嬢ちゃん、どうしたのかな?」


 振り返ると体格のいい男たちが、ゲスな微笑みを浮かべていた。猟師を装った風体だが、朴訥さがない。薄汚れた気配が漂っている。


「あのね、崖の下になにかあるみたいなの」


 無邪気を装い、指さしてみる。


「それでね、大人の人に知らせようと思ったの」


 私の言葉を聞き、男は優しげに目を細めた。


「どうしてそう思うのかな? ここからはなにも見えないぞ?」


「でもね、鳥がキラキラした物を持って飛んできたの! だからきっとお宝が眠ってると思うわ!」


 私が言うと男は大きく笑った。そして息を吸うとピタリと笑いをしまった。


「勘のいい子どもは幸せになれないぜ」


 そう言って、ほかの男たちに目配せする。


「コイツを連れて行け!」


「おう!!」


 男たちはヒョイと私を抱き上げた。


「きゃぁ!」


 叫び声をあげてみせると、男は私の口に布を突っ込み、猿ぐつわを嵌めた。手際よく縄で縛り上げるのを見ると、準備万端だったようだ。


「ンンンンー!」


 か弱い子どもの振りをして声をあげて誤魔化しつつ、私はセリオンから貰った木片を手の中で折って捨てる。


「自業自得だよ。こんなところにひとりでいたら攫ってくれってもんだろう」


「根城を変える直前にいい稼ぎになりやしたね」


「まさか、昨日の襲撃した馬車が貴族の物だとは思わなかったからな。足がつく前に逃げようと思って様子を見に来たら、さらにお宝が転がってるとは」


「ついてるな」


 男たちは笑いながら私たちを担いで戻っていく。 


(普通の貴族令嬢ってどのくらいの力加減なのかしら? んん? もしかして泣いたほうがいい?)


 などと思いつつ、私は嘘泣きをしてみる。


「あーあー、泣いちゃって。かわいいなぁ」


「金髪に青い目か、これはいいお人形になるだろうな」

 

 男たちはそんな私を小馬鹿にしつつ、恐怖心を煽るようなことを言う。


(これが正解の反応だったのね)


 私はホッとして、ウーウーと抗うフリを続けた。


 すると男のひとりが私の顎を掴んで瞳をのぞき込む。


「きっと、金持ちのおじさんが買ってくれるからさ。まぁ、酷い目にも遭うだろうが、イイコにして気に入られれば、いいものもくれるし、いい服も着せてくれるぜ」


 私はイヤイヤと首を振る。


「だが、ワルイコだと酷い目に遭った上で、酷い目にしかあわねえ。どっちがいいかよーく考えるんだな」


 そう言って、ゲヒャゲヒャと笑う。


(わぁ! マンガのようなゲス発言! 私も悪役として見習わなくちゃね!)


 などと私が感心していると、しばらくして森の一軒家に到着した。


 木製の掘っ立て小屋だ。


 入ってすぐの部屋では、テーブルの上にジュエリーが広げられていた。


 宝石の眩しさに、私の胸は高鳴った。


(山賊を一掃したら、あのお宝はぜーんぶ私のもの! どうやって換金しようかしら? あとで、山賊を吐かせましょう。悪のルート開発だわ)


 夢を膨らませていると、リーダーらしき男が命じた。


「こっちの部屋に入れておけ」


 リーダーらしき男が言い、私を奥の部屋に突き入れるとドアに鍵をかけた。


 私はドタンと床に倒れてみせる。


「今年は豊作だな!」


「このあいだ、奪った娘もかわいかったが、今日の娘も美人じゃないか。高値で売れそうだ」


「傷なんかつけるんじゃねえぞ、価値が落ちる。金持ちは処女が好きだからなぁ」


 ワイワイと盛り上がる声が、ドア越しに響いてくる。話の内容からすると、私以外に女の子が攫われているかもしれない。


 うす暗い部屋の中には、板壁の隙間から日差しが差し込んできている。


 私は両手を縛る縄を、雷魔法を電熱に変え焼き切り、足の縄をほどく。静かに起き上がって、猿ぐつわを取る。


「んんー!」


 うめき声が聞こえて見ると、壁際に女の子が縛られ転がっていた。


 青空色の髪はこの国でも珍しい。サラサラのストレートヘアーにスカイブルーの瞳、震える唇はさくらんぼのようだ。目は泣き腫れ赤くなっている。


「! シエロ!?」


 私は思わず声を漏らす。


 すると、女の子は恐怖で顔を引きつらせた。きっと、知らない人間に名を呼ばれ驚いているのだろう。


 縛られたまま、ジリジリと壁に体を押しつけ距離を取ろうとする。


「驚かせたわね。私はあなたの味方よ。縄をほどいてあげるから、叫ばないでくれる?」


 シエロは青空色の瞳を潤ませた。


 まだ迷いがあるようだった。


 私はとりあえず、信じてもらえるように手の縄をほどいた。


 すると、シエロはポケッとして私を見上げた。


「味方が別のところにいるの。すぐに助けに来るはずだから声をあげないで」


 私が言うと、シエロは素直にうなずいた。この素直さが原作でも彼女の身を助けたのだ。

 

 シエロが自分で猿ぐつわを外しているあいだに、私はシエロの足の縄もほどいてやる。


 私は、部屋の上部にあった木製の小窓を魔法で静かに持ち上げる。


 青空が窓枠に切り取られ見える。しかし、外の明るさにシエロはホッと息をついた。


 私は窓に向かって、魔法の信号弾を放った。


 大空で音もなく光る物だ。


 三回短く瞬いて、次に三回長く光る。そのあと、また、三度短く光る。


 前世のモールス信号でのSOSは、私とセリオン、そしてテレノだけの秘密の信号だった。


(これでふたりが村人を連れて助けに来るでしょ。あとは高みの見物ね)


 もちろん、私だけで山賊を退治することもできるが、全員を逃がさず捕らえることができない。


 一網打尽にするためには、大人数の大人が来てくれたほうが手っ取り早いのだ。

 

 私がセリオンとテレノがくるのをのんびり待とうと床に座り直そうとしたそのときだった。



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