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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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18/50

18・一念発起の悪女様-1


 そうして、私は十一歳になった。

 

 そう、今年はシエロが行方不明になる年である。


 あれから、イービスは頻繁にノクトゥルノ公爵家へ遊びに来るようになっていた。婚約はしていないが、遊び相手という関係だ。


 茶会を無断欠席し、屋敷を抜け出していたことがバレてしまった私たちは、お母様にこっぴどく叱られた。その後、イービスが遊びに来る際は、警護が強化され抜け出せなくなってしまったのだ。


 ただし、セリオンとテレノの実力が認められ、私の従者として正式に採用されたのは怪我の功名だろう。一般的に、従者や侍女は貴族から選ばれるものだ。奴隷や孤児から選ばれることは、今までになかった。しかし、ふたりは前例を破り私の従者になったのである。とても誇らしい。


 カフェの経営も順調だ。タンブラーの人気は絶大でよく売れている。魔法陣の効果がだいたい半年なので、定期的な買い換えが必要なのも功を奏している。もちろん、魔法陣の書き換えも受けているが、どうせならと買い換える人が多いのだ。


 それに、魔法の切れたタンブラーも中古市場で人気があるようで、余裕がある人々は最先端のタンブラーに買い換えるのがステイタスにもなっている。


 また、限定デザインを度々出すので、それ目当ての客も多い。限定タンブラーは受注生産制にして価値を高めている。カフェにはポイントカードを作っていて、一定のポイントがたまらないと受注生産の予約ができないのだ。


 季節のオススメメニューではポイントが二倍になるようにした。旬の果物を使った飲み物やアイスクリームは、安く作れるからだ。


 売り上げが上がっているおかげで、孤児院の運営も順調である。


 カフェでの接客が評判となりメイドの仕事が決まったり、タンブラーの絵が見初められて工房への就職が決まったりと、明るい未来を背負い卒業していく子どもたちも増えた。


 運営費にも余裕が出てきたので、有名な教育者から指導を受けられるようにもした。孤児たちも、清潔で健康的になったため、あからさまに差別を受けることも少なくなってきたようだ。


 セリオンやテレノもノクトゥルノ公爵家で覚えたことを、孤児たちに教えるのが楽しいようだった。



 今日もイービスが遊びに来ている。


 遊びに来たところで邪険にしか扱わないのだが懲りずにやってくるのだ。


「ノクトゥルノ公爵家で飲むアイスティーは美味しいですね」


 ニッコリと微笑むイービスに私はすげない返事をする。


「だったら、私ではなくお兄様とお会いになったら?」


 挑発するように言ってみる。


 しかし、イービスには糠に釘のようだ。私になにを言われてもニコニコ……というかヘラヘラしている。


「言い間違えました。デステージョと一緒に飲むから美味しいんです」


 まるで口説かれているようにも聞こえるが、これはいわゆるプロレスである。互いにそんな感情がないからできる言葉遊びだ。


(イービスは、どちらかというと私の反応よりも、別の人の反応を見て喜んでいるのよね)


 呆れてため息をつくと、黒い手袋を嵌めた手が私とイービスのあいだにニュッと差し込まれた。


(ほら、思ったそばからこれよ)


 私たちのあいだに手を入れ、イービスの視線を遮ったのはセリオンである。


「イービス様、誤解を招くような発言では?」


「そうだ! デステージョ様をジロジロ見るな」


 加勢するのはテレノだ。


「まったく、デステージョの護衛は厳しいね」


 イービスは笑っている。同じ年頃の男子と気さくに会話が楽しめるのがうれしいのだろう。


「嘘に決まってるんだから心配しなくていいのよ」


 私はふたりを宥める。


「これは本当ですよ。デステージョ以外の令嬢とは、経営の話などできませんから」


 イービスは笑った。


「まぁ、そうね。私も同じ年頃の子とはそういう話ができないから、気持ちはわかるわ」


 イービスと私は、『動物カフェ』の一件から、性別を超えた友人になっていた。私たちは互いに呼び捨てするほどの幼馴染み感だ。領地経営を学ぶイービスにとって実際にカフェ経営をしている私はよい話し相手のようだ。


 セリオンは無表情でイービスに促す。


「本日はなにかお話があっていらしたと聞いていますが」


 サッサと帰ってほしい、とでも言いたげだ。


「ああ、そうだ。三大公爵家のひとつ、メディオディア公爵家のご令嬢が王都へやってくるそうなんだ。今度、我が家で歓迎のパーティーを開くことになったから、デステージョ嬢に相談が――」


 イービスの言葉に私は思わず立ち上がった。


 勢いで椅子が後ろに倒れる。


「メディオディア公爵家のご令嬢!? シエロのこと!?」


「ああ、知っていたのかい? そうだよ。私たちと同じ年らしいけど、今までは空気のいい領地で暮らしていたらしい」


 イービスは驚いた様子で私を見上げた。


「っ! あ、ええ、ではなく、いや……。知り合いではないんだけど……噂で? ちょっと? 名前だけ? まぁ、その……」


 しどろもどろになる私に、セリオンは助け船を出す。


「それで、デステージョ様にご相談とは?」


「ああ! パーティーでアイスクリームを出したいんだ。アイスクリームは『動物カフェ』の専売特許だよね? それで君の力を借りたくて……。だめかな?」


 イービスは小首をかしげた。


 テレノが私の椅子をもとに戻してくれる。私はそこへストンと腰掛けた。


「ええ、それは別に問題ないけれど……。あの、メディオディア公爵家のご令嬢が到着するスケジュールはわかって?」


「確認することはできるけれど、どうしたの?」


「ひぇ? どうしてかといわれると……その……」


 私は言いよどむ。


(シエロが山賊に襲われるからなんて言えば、私が疑われるわ)


 案の定、イービスは怪訝そうな顔をしている。


「公女様のために特別なメニューをご用意したいと考えられているようです」


 セリオンが私の代わりに答えた。


(ナイスアシストよ!! セリオン!!)


 私は内心、セリオンに拍手喝采である。


「それはいいね」


 イービスも納得したようだ。


「そうなのよ! でもスケジュールがわからないと果物の旬もわからないし?」


「では、スケジュールを共有するようにするよ」


 イービスは爽やかにそう言った。



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