17・千客万来の悪女様-7
「重ね重ね失礼なことをいたしました。せめて注文の品を食べてからでもよろしいですか? もう、店員の方を引き留めたりいたしません」
礼儀正しく頭を下げる。
「はぁ? とっとと帰りなさいよ!」
私が怒鳴ると、子どもたちはイービスに同情の目を向けた。
「注文したの食べられないのかわいそう……」
「ぼくらに【ごちそう】くれたのに……」
子どもたちは、『許してやれ』というようにウルウルした目で私を見た。
(ちっ! 【どうぶつたちのごはん・ごちそう】の効果は抜群ね)
私はしぶしぶ了承した。
イービスは意外に計算高いようだ。
「では、ゆっくりとお楽しみください」
そう言ってその場を離れる。
背中には観察するようなイービスの視線が刺さっていた。
私とセリオン、テレノは、素知らぬ顔をして厨房へ戻る。
イービスの視線から逃れたところで、私は大きく息を吐いた。
「せっかく、お茶会をドタキャンしたのに、まさかここまで来るなんて……」
「恐ろしいですね」
セリオンが唸る。
「うん、キモい」
テレノもうなずく。
「でも、きっと嫌われたわよね? あんな不遜な態度を取ったんだもの! きっともう会いたいなんて言わないわよね?」
ふたりに確認すると、ふたりはなんとも言えない表情で顔を見合わせた。
「あれは……なんていうか……うーん……」
珍しくテレノの歯切れが悪い。
「テレノ! なんなのよ! はっきりしなさいよ」
思わずテレノの肩を掴んで揺さぶる。
「えー……だって、あれはさぁ……」
すると、セリオンがフルフルと頭を振った。
「デステージョ様、嫌われてはないかと思います。どちらかというと好奇心が刺激されたのではないかと」
「なんで? あんな失礼なこと言ったのよ? しかも痛めつけられて恥までかかされたのに、そんなの変態じゃない!」
私の言葉に、セリオンとテレノは苦笑いする。
「そうかもしれませんね」
「うん、そうだ」
「そうよね? 勘違いよね」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「これできっと、今後はお茶会もないでしょう」
「デステージョ様はどうしてイービス様をそんなに避けられるのですか? お目にかかったこともなかったのですよね?」
セリオンが不思議そうな顔をした。
私はギクリとする。
(前世や原作の話などしても信じてはもらえないわよね……)
しかたがないので、そのあたりの話を省いて説明するしかない。
「あのね、私って公女でしょ? 私の結婚相手として釣り合う相手って、イービス様しかいないのよ。だから、仲良くなってしまうと必然的に結婚話が出てきてしまうから、会いたくなかったの」
テレノは意味がわからなさそうに、首をかしげた。
「デステージョ様、イービスってヤツと結婚するの?」
迷子の子犬のように目を潤ませている。
「結婚したくないから避けているのよ」
「結婚したくないのですか? マニャーナ公爵家であれば、今と変わらぬ生活ができるはずです。もしかして、さらに上の身分を望まれているのですか?」
セリオンが真面目な顔で尋ねる。
「まさか。この国の独身の王子は今三歳よ?」
「では、他国の王族など」
「まぁ、別の国に行くのは嫌じゃないけど、王族になりたいわけじゃないわ」
「……もしかして、心に決めた人が……?」
セリオンの瞳が揺らめいている。
お父様やお兄様と話をしたときと同じ展開で私は思わず噴き出した。
「そんなわけないじゃない。私はただ、家門のために決められた結婚をしたくないだけよ。家族に未来を決められるんじゃなく、自分で未来を決めたいの」
これは私の切なる願いだ。前世のように家族に利用されたくない。私は自由に生きたいのだ。
私の答えを聞くと、セリオンとテレノはホッとしたようにため息をつき、互いに顔を見合わせた。
「じゃあさ、オレ、デステージョ様が嫌な結婚しなくてすむように手伝うよ!」
テレノが力こぶを作ってみせる。
「ボクも協力します」
セリオンもうなずく。
「ありがとう! ふたりとも。頼りにしてるわね!」
私はふたりと肩を組んだ。




