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【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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12/50

12・千客万来の悪女様-2


 コンセプトカフェはこの国にない概念だ。そのうえ、アイスティーも珍しい。すでに外には行列ができている。


「さて、開店するわよ。準備はいい? キビキビ働かないと承知しないわよ!」


「「はい! ご主人様!!」」


 子どもたちは声をそろえて姿勢を正した。


 ドアを開けて最初の客を店に招き入れる。


「「「いらっしゃいませー」」」


 子どもたちが元気よく挨拶をする。


「ほら、席に案内するのよ!」

 

 私が鞭を振るいながら、犬耳のテレノに命じる。


 テレノは尻尾をつけていないはずなのに、ブンブンと尻尾を振る幻影が見える。


「ご主人様の仰せのとおりだワン!」


 そう言って、客である婦人たちをテーブル席に案内する。ちなみに、『ワン』と言えとは命じていない。


 メニュー表と注意書きを広げ説明をする。


 食事メニューはほぼない。子ども主体の店なので料理はしなくていいようにしたのだ。すでに焼き上がっているスイーツを主軸に、盛り付けと配膳のみとしている。


 回転率を上げる目的もある。


「冷たい飲み物はこっち。温かいのはこっちだよ。今日はオープン記念で、骨型クッキーがおまけにつくよ」


 テレノの説明は稚拙だが、子犬というコンセプトなのでとがめられることはない。


 テレノの人なつっこい笑顔に、客のご婦人たちが相好を崩す。


「まぁ、かわいいわね」


 テレノはエヘヘと笑う。そして、真剣な顔でメニュー表を見て棒読みで説明を加える。


「ええっと、『ご飯をもらえない動物たちが可哀想だと……思ったら、んと、【どうぶつたちのごはん】をご注文ください……だっけ? えっと、注文いただけると動物たちの食事になります』です!!」


 テレノの説明に、客たちが笑う。


「まぁ、そうなの。ご飯がもらえないのは可哀想ね。この【おやつ】【いつもの】【ごほうび】と金額が違うけどなにが違うの?」


「うーんと、【おやつ】はちょっと、【いつもの】は普通の、【ごほうび】は豪華になるんだよです!」


「そうなのね、まずは【どうぶつたちのごはん】の【いつもの】を注文するわ」


「わーい! 【どうぶつたちのごはん・いつもの】入りました!」


 テレノが声をあげる。


 すると、ほかの店員たちが復唱する。


「【どうぶつたちのごはん】ありがとうございます!」


「ありがとうございます!!」


 店の中がわっと盛り上がる。


 テレノは注文した客に折り紙で折った骨を手渡した。


「これ、お礼! ありがと!」


「まぁ! かわいい!」

 客たちはそんな些細なことを喜ぶ。


 次々と客が入り、どんどん案内をする。


「この、『冷たい夜風』ってなに?」


 メニューを見て客が聞く。


「えーっとね、まーっくろで苦くて、でも美味しくて、冷たい飲み物なんだって!」


 テレノが説明になっていない説明を返す。


 客は微笑ましいものでも見るように笑った。


「あら。説明を聞いてもよくわからないわねぇ」


「オレもよくわかんない! 子どもは飲んじゃダメなんだって。大人だけ特別なんだって!」


 テレノは元気いっぱいに答える。


 しかし、これはそう答えるよう指示しているものだ。『悪魔の飲み物』と呼ばれるコーヒーの名をあえてふせ、物語風の名前をつけ興味をそそらせるという戦略だ。だから、店員にははじめからメニューについて詳しく教えていない。


 しかし、幼い子どもだからわからないのだと、客たちはそれ以上突っ込まない。


「じゃ、『冷たい夜風』頼んでみようかしら?」


「はーい! 『冷たい夜風』ひとつ入りましたー!」


「私は『爽やかな朝焼け』にするわ」


「『爽やかな朝焼け』はこちらです!」


 ちなみに、『爽やかな朝焼け』はアイスレモンティーのことだ。


「パウンドケーキはこっち!」


 活気あるカフェに私は大満足である。


 ポンポン付きの鞭を振りながら店内を見て歩く。


「『冷たい夜風』って初めて飲んだけど、なんなのかしら。とっても香りが良くて、癖になる味ね」


「こんなに氷がふんだん使っていてこの価格なのはどうしてなの?」


「どうやら、ノクトゥルノ公爵家の令嬢がオーナーらしいわよ」


「まぁ、公爵令嬢が採算を無視してやっているからできることなのね」


「お嬢様のお戯れ、と言ったところかしら?」


「遊びでこの規模を?」


「公爵様はお嬢様を溺愛されているそうよ」


 囁かれる噂話に私は耳をそばだてる。


(まずまずの評判ね。採算は無視していないけれど、ノクトゥルノ公爵家でなければできないのは事実ね)


 セリオンが開発した魔法陣は秘中の秘だ。魔法陣自体に目くらましの魔法をかけて、アイデアを盗まれないようにしてある。ゆくゆくは特許を取りライセンス契約を結ぶ予定だ。


 この魔法陣は、魔法を発動させるのに強い魔力が必要で、魔法陣があれば誰にでもできる、という類いのものではない。ノクトゥルノ公爵家には、腕利きの魔導師たちがいるから量産できるのだ。


「採算を無視しているというのはどうかな? 孤児院の子どもをただ働きさせているからできることだろ? ノクトゥルノ公爵家の令嬢……デステージョ様と言ったっけ? 十歳で悪女という噂だけある。エグいことを考えるな」


 意地悪い発言はライバル店の店員だろう。


「なんて可哀想な子たちなの。だったら、【どうぶつたちのごはん】を注文してあげなくちゃ!」


 狙いどおりの反応に私は大満足である。【どうぶつたちのごはん】は、スタッフへのチップである。


 折り紙ひとつで、食事を提供せずに売り上げになる美味しいメニューなのである。


 価格帯を三つに分けたのは、悩んだとき中間を選ぶ人が多いからだ。計算どおりの反応で、私は小さくガッツポーズをとる。


(そうそう、哀れな動物たちにタンマリ施してやってくださいね~)


 実際、ここの売り上げは孤児院の運営費になるのだ。



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