3夢見
「では、整理します」
切れ長の目をこちらに向けて、読み方は手元のメモをもう一度見た。隣に座るもう一人の読み方は記録を担当する。
「寝室で男児が誕生する場面であった」
「はい」
「男児を出産されたのは、王太子の妻ミハリ様で間違いありませんか」
「はい。ミハリ様には何度か拝謁しておりますので間違いありません」
「南国であることの根拠をもう一度お話しください」
「南国にしか咲かない花がたくさん飾られていました。なかなか手に入らない品種だと思います。ミハリ様は桜の紋章が付いた衣服を着ていましたし、装飾品にも桜が施されていましたので、間違いないかと思います」
「王家の紋章もあったのですね」
「はい。寝室にはたくさんの側近たちの姿が見えました。ただ…」
「ただ?何ですか」
「王太子のお姿はその場では確認できませんでした。また暦を読めるものもなく時期が不明です」
「なるほど。王太子に男児のお子が産まれること、都にはいい意味でも悪い意味でも影響が出る。前者はともかく後者は未然に防ぐことが大事になりましょう。照合にかけることとします」
「よろしくお願い致します」
ラナは一礼して、立ち上がる読み方たちを見送った。
「読み方って何なのですか」
マールが応接室の扉を閉めると部屋の隅でずっと立っていたイリューが口を開いた。
今朝から護としての護衛が始まっている。
ラナはもう一度椅子に座り直す。
「なんか偉そうですね」
「実際偉いんですけどね。夢見と王族、要人との橋渡し的な感じかな…あ、でも一番は夢見の分析をするんです。個人で見えた未来の夢を現実に結びつけたり、いつ起こるのかを計算したり、同じ夢を見てる夢見と内容を照合したり、で、間違いなく未来の出来事として信用できるものは上へ報告する、という感じです」
「大変な仕事ですね」
「夢見よりも大変だと思う時ありますよ」
「そんなことないですよ」
マールが突然声を出した。
「夢見は、夢によっては体に直接ダメージがあるんです。今回は大丈夫でしたが、実際に怪我をして夢から帰ってくることもあるんです。ラナ様はご自分の仕事を過小評価なさらないように!いいですね!」
それだけ強く言ってマールは来客用の茶器を片付けに行ってしまった。
「怒ってましたね」
イリューが、困ったように笑って言った。
「彼女が感情的になるのはとても珍しいことなので真摯に受け止めます」
ラナは苦笑した。
「誰のどんな仕事も敬うべき仕事…自分の物差しで測ってはいけないですね。俺も気をつけます」
「私もです。…さて出発はいつにしますか?」
このあと、東国に行くなんて、なんて現実感のないことだろう。
物理的な用意は全て整っているのに、心だけが追いつかない。
「明るいうちに出ましょう、すぐにでも」
強引に心を追いつかせなくては、それとも行けば追いつくのかもしれない。




