ナタリーたちの始動
11月15日。ナタリーとルーシーは気分よく目覚めた。2人はイサリ公国生まれのエージェントで20歳。今回のミッションではナタリーが浅美と莉奈。ルーシーが悠月と羽澄の通訳を受け持つ。ナタリーたちのミッションはオルガたちを堕とすことにあるが、もちろんそれだけにとどまらなかった。浅美たちを復帰させ、アデルたちとの再戦に臨ませることが盛り込まれた。もちろん初めのミッションの方が報酬が莫大だが、4人を復帰させれば更に報酬が上乗せされる。リタイヤ中の魔法戦士はすでに庶民に知られており、2ヶ月も対戦を重ねておれば大人気。特に莉奈と羽澄は人気が高い。もちろん浅美と悠月にも根強いファンがたくさんいる。それだけリタイヤ中の魔法戦士を復帰させるのは庶民の関心事なのだ。となれば彼らの期待を裏切るわけにはいかなくなる。過去にはリタイヤ中の魔法戦士の復帰に失敗したせいで政権が倒れたこともある。ましてや姫騎士プロジェクトはオルガたちがヒロインだから失敗が許されなかった。浅美たちへの期待が膨らむ中、ナタリーたちへのプレッシャーもキツい。でもそれ以上にやりがいがある。王族がらみのミッションは難度が高いからこそ報酬が莫大なのだ。2人は今回のミッションに専念すべく他の仕事を入れないことにした。ナタリーたちはこんなミッションは初めて。明日はナタリーが浅美と莉奈を引率してシラナミ公国に行く。明後日はルーシーが悠月と羽澄を引率してシラナミ公国に行く。幸いにもフンギ語には自信がある。もともと2人は王族がらみの仕事がしたくてフンギ語を学んできた。今でもフンギ語が話せるエージェントは国内にあまりいない。ナタリーたちには先見の明があった。2人に突出したスペックはないが、あくまでも黒子に徹する通訳の素質に恵まれていた。ナタリーたちは同じマンションの違い階うに住んでいた。2人はナタリーの部屋で打ち合わせをした。基本的に初回は顔合わせの予定。あまり踏み込みすぎると交渉が打ち切られてしまう恐れがある。交渉は浅美たちに任せきるが状況次第では私たちの出番があるかもしれない。何しろみんな王族相手は初めてなんだから。「もしかしたら私たちにも出番があるかもね」「そうね。でも交渉は悠月たちがするからね」これまでの情報ではイレーヌとソフィアが性に対して寛容になった。なのであとはオルガとカレンを堕とすだけ。オルガは男の子に飢えているが、カレンはわからない。「カレンは極めてデリケートに扱わないといけないわ」「そうね。オルガだって必ずしも入れ食いとは限らないわ」ナタリーたちは地に足がついていた。オルガとカレンの交渉が必ずしもスムーズにいくとは限らない。何しろお姫さまたちはまだコンビ名を付与されていないのだ。ということは早期の参戦は考えにくい。もちろんこの判断はあくまでも推測に過ぎないが、コンビ名を付与されない人たちは簡単ではない。2人はそう判断した。あとは浅美たち次第。「聞くところによれば浅美たちは2ヶ月でリタイヤしてるわ」「やっぱり母娘コンビはお母さんに負荷がかかるわ」「だとすれば浅美たちはリベンジに燃えてるはずよ」「すでに莉奈と羽澄はある程度からだの開発が進んでるそうよ」「じゃあ娘たちは対戦前から性的な訓練を受けていたの?」「らしいわよ」「だったら莉奈たちはもっとテンション高めのはずよ」「からだの開発が中断したから?」「それもあるわ。でもこのままじゃあ終われないって気持ちもあるはずよ」「もともと魔法戦士はリアルへの幻滅。日本への幻滅が動機であるケースが圧倒的に多いからね」「あと出逢いのなさもあるわね」「三十路の女性はたいがいそうね」「じゃあ浅美と悠月は問題ない?」「ないわね」「莉奈と羽澄は?」「大丈夫そうね」「楽しくなりそうだわ」やっぱりミッションは熱が大切。みんなのテンションが低ければつまらないし、盛り上がりに欠けるからだ。交渉はテクニックや恫喝ではない。私たちはトランプみたいな暴君を望まない。浅美たちの熱がオルガたちを突き動かすに違いない。熱のないところからは何も生まれない。熱のない作家の小説を誰も読まないように。王族の生活はつまらないと聞いている。何しろニュース映画さえ見てはいけないのだ。息が詰まる。朝から抜ける番組。あの30分を見ずに登校するなんて考えられない。もちろん2人には失恋の痛みがわかる。ナタリーはオルガに対して積極的に出てもいいが、ルーシーはカレンに対して踏み込まない方がいい。少なくとも彼女が心を開かない限りは様子見に徹しよう。とりあえずナタリー組は攻め。ルーシー組は守りを基本とする。あとはその場の状況次第で臨機応変に対応する。イレーヌとソフィアは二の次で構わない。まず実権を握るオルガとカレンを攻略しないといけない。下の子たちはどうにでもなる。とりあえず女王と第一王女の攻略こそが肝要。