莉奈と羽澄の日常3
12月5日。莉奈と羽澄は登校した。いよいよ週末に訓練を控え、娘たちの表情は朗らか。もちろん不安はあるが、母親たちほど悲観的には捉えていない。このあたりは世代の違い。つまりは初戦と同じ。年内は2戦しかないから初めの2戦をしのげればいけるはずだ。「連敗しなきゃいいのよ」「そうね。ルネたちだってからだがなまってるはずよ」ブランクはマルスにもあるし、彼らの女性化も着実に進んでるはず。莉奈たちは楽観的に見えて実は現実的に捉えていた。ミッションをクリアして成長したのは母親たちばかりではない。確かに私たちのブランクはあるが、彼らだってこれから訓練に入るのだ。限りなく平等にしてもらえるのが異世界。もちろん完全に平等にはならないが、テオたちと同じ回数訓練を積んで本番を迎えるのは安心材料。マルスも魔法戦士と同じく訓練と対戦を週末ごとに交互に行う。ただし王族は公務があるので平日に訓練と対戦を行う予定。それ以外は庶民と全く同じ扱い。娘たちはイレーヌたちの見本にならなきゃいけないとは思わないが、できればそうでありたい。やっぱり私たちが先輩なんだし。魔法戦士の世界では先に参戦した方が先輩とみなされる。庶民も王族も同じ。だからといって先輩風を吹かせる気はない。私たちはまだ未勝利なんだから。浅美たちは初戦を悪くても引き分けで乗り切る構えだが、莉奈たちは違った。初戦から受け身でいたら勝てない。むしろ初戦からガンガンいくべき。たぶん上からのキックは精度を欠くだろうが、その代わり対面でカバーすればいい。娘たちは母親とは違う意味で色香を醸し出したい思惑がある。美芳先輩たちのおかげでからだの開発には免疫がある。でもブランクがある分、感度が鈍くなっている。イサベラの事務所でニュース映画を見たのが刺激になった。2人は大覚寺いのりの影響を強く受けた。とても同い年とは思えないほど彼女は早熟で美しい。絶世の美少女ではないが、やはり目を引く。オーラが違う。母親がモデルのせいか、いのりは参戦に否定的。どころか不登校だった。でもマルスとの対戦を重ねるたびに成長し、今やお茶の間のアイドル的存在になった。きっかけはリタイヤしてニュース映画の撮影現場に入ってから。それまで彼女は彼らに対して閉鎖的。そのせいか初めの交戦国のマルスとは親密になれなかった。母親との連携もよくなかった。でも撮影に入るといのりは化けた。スポットライトを浴びる快感を覚え、知里との連携が徐々にスムーズに。対戦相手のニックや母親の対戦相手のイアンにも心を許す関係に。彼女は知里への嫉妬を乗り越えて成長した。知里も娘の成長に負けじと奮起し庶民の人気を博した。母親が自身の魅せ方を熟知しているのも心強い。娘は知里の転び方や下着の見せ方を真似した。莉奈たちは何度も何度もそのシーンを見返したが、果たして真似できるかどうか怪しい。簡単そうで難しい。浅美たちは柔軟体操から見直すと聞いているので私たちもそうすべきなのかも。せっかく充電したのだからテオたちには成長した私たちの姿を見てもらいたい。娘たちはブランクを充電期間と捉えた。遊んでいたわけじゃない。私たちはミッションを通して成長した。だからこそこれまでとは違う魅力を発信したい。「でもね莉奈、私たち半年前からバストサイズ変わらないよ?」「羽澄、それは内緒にしとかないと」魔法戦士はなぜか発育が遅れ気味や早生まれの子が多い。「私たちは成長途上にあるんだからね」「まあね。いのりだってふくらみは小ぶりだしね」もちろん彼女の方が大きめ。どうしてもいのりの方がより大きく見えてしまう。公式ではほぼ同じバストサイズなのに。魔法戦士の醍醐味は自身の魅せ方にある。勝ち負けも確かに大事だが、ふつうにやっていても味気ない。力の差がない以上、私たちは自身の魅せ方にもうちょいこだわりたい。これまでそんな余裕はなかったが、リタイヤして視野が開けた。やはり充電期間は大事。視野が広がる。ニュース映画は視聴率を取るため、魅せ方が極めて大切。このあたりが実戦との違いだが、すごく参考になる。実際には撮影に臨んだ子以外ニュース映画を見られないが、幸いにも莉奈たちはその機会に恵まれた。もちろん戦い方は変わらないが、自身の魅せ方は変わる。このあたりに楽しみを見出せるのが異世界の魅力。対戦はスポーツのリーグ戦に近く、殺伐とした雰囲気はない。中世の如く牧歌的。マルスは紳士的な振る舞いを求められた。軍規には新たに母娘戦士の項が設けられ、母親に負荷をかけないこと。娘の前でメンツを潰さないこと。まずは娘から攻略に着手すべしという3項目が追加された。マルスの女性化は魔法戦士に大好評。異世界側はプチエンジェル世代の取り込みを加速するため彼らの女性化を推し進めた。そのため魔法戦士との力が拮抗し、実力のミスマッチがなくなり、安心して参戦する者が増えた。