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【ハイファンタジー 西洋・中世】

賢者と愚者と

作者: 小雨川蛙
掲載日:2024/11/03

 

 ある時、何色にも染まっていない無垢な男が二人の人物に出会った。

 一人は賢者で、もう一人は愚者。

 何も知らない無垢な男はそれぞれに質問をした。


 賢者に聞いた。

 何故知恵を求めるのか。

 賢者は答えた。

 より良くなるために。

 より自由になるために。

 そう言って賢者は知恵と知識を求め続けた。


 愚者に聞いた。

 何故知恵を求めないのか。

 愚者は答えた。

 今で満足をしているからだ。

 今のまま生きていくだけで幸せなのだ。

 そう言って愚者はごろりと横になり怠惰に過ごし続けた。


 それから随分と経って。

 様々な色に染まったものの、未だどちらにもなり得る男は二人の下を尋ね、再び質問をした。


 賢者に聞いた。

 知恵を得て何を手にしたか。

 賢者は答えた。

 手に入ったのは絶望ばかりだ。

 この世界は馬鹿な方が得をするのだ。


 愚者に聞いた。

 知恵なき人生はどうだったか。

 愚者は答えた。

 ただひたすらに後悔する日々だ。

 この世界は賢い方が得をするのだ。


 答えを受け取った男はそんな二人を見て思った。

 生きるとは何とも難しいものか、と。

 賢者になろうとも、愚者になろうとも、待っているのは後悔ばかりなのだ。

 故に、彼は決めた。

『適当に生きよう』と。

 適度に知恵を求め、適度に怠惰に振る舞う。

 きっと、大成はしない。

 しかし、苦しむほどの後悔もしない。

 つまりは現状維持。

 それを続けるだけで良いのだと思った。


 平穏な時間が流れた。

 流れ続けた。

 終わりのその時まで。


 今わの際。

 現状維持を望み、そう生きてきた男は三つの後悔に包まれていた。

「あぁ、俺は何故もっと知恵を求めなかったのか」

 もし、知恵を求めていたならば、こうも後悔することはなかったのではないか。

「あぁ、俺は何故もっと怠惰に過ごさなかったのか」

 もし、開き直ってもっと怠惰に過ごしていたならば、もっと楽に人生を生きていかれたのではないか。

 まるで先達の後悔をなぞるように呟いた後、最後にして最大の後悔を男は口にする。

「あぁ、俺は何故他者の行動をなぞって生きてしまったのだろう。これは俺の人生ではなかったのか」


 そして、彼は死んだ。

 賢者も愚者も自らの選んだ道を後悔しながら死んだ。

 しかし、彼は道を選べずにいたことを後悔しながら死んだ。


 誰が最も悲惨であるかなど、語るまでもない。

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