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【ハイファンタジー 西洋・中世】

賢者と愚者と

作者: 小雨川蛙

 

 ある時、何色にも染まっていない無垢な男が二人の人物に出会った。

 一人は賢者で、もう一人は愚者。

 何も知らない無垢な男はそれぞれに質問をした。


 賢者に聞いた。

 何故知恵を求めるのか。

 賢者は答えた。

 より良くなるために。

 より自由になるために。

 そう言って賢者は知恵と知識を求め続けた。


 愚者に聞いた。

 何故知恵を求めないのか。

 愚者は答えた。

 今で満足をしているからだ。

 今のまま生きていくだけで幸せなのだ。

 そう言って愚者はごろりと横になり怠惰に過ごし続けた。


 それから随分と経って。

 様々な色に染まったものの、未だどちらにもなり得る男は二人の下を尋ね、再び質問をした。


 賢者に聞いた。

 知恵を得て何を手にしたか。

 賢者は答えた。

 手に入ったのは絶望ばかりだ。

 この世界は馬鹿な方が得をするのだ。


 愚者に聞いた。

 知恵なき人生はどうだったか。

 愚者は答えた。

 ただひたすらに後悔する日々だ。

 この世界は賢い方が得をするのだ。


 答えを受け取った男はそんな二人を見て思った。

 生きるとは何とも難しいものか、と。

 賢者になろうとも、愚者になろうとも、待っているのは後悔ばかりなのだ。

 故に、彼は決めた。

『適当に生きよう』と。

 適度に知恵を求め、適度に怠惰に振る舞う。

 きっと、大成はしない。

 しかし、苦しむほどの後悔もしない。

 つまりは現状維持。

 それを続けるだけで良いのだと思った。


 平穏な時間が流れた。

 流れ続けた。

 終わりのその時まで。


 今わの際。

 現状維持を望み、そう生きてきた男は三つの後悔に包まれていた。

「あぁ、俺は何故もっと知恵を求めなかったのか」

 もし、知恵を求めていたならば、こうも後悔することはなかったのではないか。

「あぁ、俺は何故もっと怠惰に過ごさなかったのか」

 もし、開き直ってもっと怠惰に過ごしていたならば、もっと楽に人生を生きていかれたのではないか。

 まるで先達の後悔をなぞるように呟いた後、最後にして最大の後悔を男は口にする。

「あぁ、俺は何故他者の行動をなぞって生きてしまったのだろう。これは俺の人生ではなかったのか」


 そして、彼は死んだ。

 賢者も愚者も自らの選んだ道を後悔しながら死んだ。

 しかし、彼は道を選べずにいたことを後悔しながら死んだ。


 誰が最も悲惨であるかなど、語るまでもない。

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