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うどん屋。

「何回言ったらわかるんだ!」

オフィスに部長の怒鳴り声が響き渡る。新入社員として春からこの会社に就職した私は、見ての通りミスばかりしては叱られている。自分を変えたい。そう思って同僚に相談した所、こんな言葉が返ってきた。

「お前はちょっと硬すぎるんだと思うぞ。」

「硬すぎる…?」

「もっと柔軟に考えろってことだ。」

「だけど、そんなのどう直せばいいの?」

「そうだな…とりあえず、口コミも何も見てない、初めて見る店に入ってみるとか、そういう冒険が今のお前には足りてないんじゃないか?」

なるほど、冒険か。確かに今までご飯を食べる時も、ずっと同じ店で食べていた。もちろん悪い事ではないが、今日は少し冒険してやろう。そう思って辺りをぶらぶらしていると、ある一つの看板が目に飛び込んできた。

       「うどん屋。」

かつてないほどにシンプルな店名に私はなぜか惹かれ、この店に入ることを決めた。それがあんな店だったとは、思いもしなかったけれど。


「いらっしゃい!」

その店はどうやら老舗のようで、雰囲気の良い木造建築だった。客こそ少なかったが壁に芸能人らしきサインがずらりと並んでいる。味には期待できるだろう。外が暑かったので私は冷製うどんを頼んだ。だが、店主は突然こんなことを言い出すのだ。

「ウチでは器や食べる場所なんかを自分でカスタマイズできるんだが、どうする?」

…いや、どうする?とか言われましても。正直器がどうとか食べる場所がどうとか私はどうでも良かったので、こう言ってしまった。

「じゃあ…全部お任せでお願いします。」

「それじゃあ、全部ランダムで決まっていくけど、大丈夫かい?」

「大丈夫です。」

「じゃあまず、スープの温度決めるよ!このサイコロ振って!」

そう言って手渡されたのは、まさかの100面サイコロ。これで出た数をそのままスープの温度にするという。ここでようやく私はとんでもない事を言ってしまったと後悔するが、時既に遅し。冷製うどんが冷製になれるかどうかは、この一振りにかかっている。

「えいっ!」

「出た数字は……48!!!」

なんということだ。いかにも微妙な数字になってしまった。ぬるいのか熱いのかまったくわからない。しかし、それから次々と私の冷製うどんは無慈悲にどんどん決定されていく。

器はルーレット、箸の長さは私の身長、食べる場所はダーツ…そんなことを繰り返す内に、ついに注文内容が決まった。

「それではご注意繰り返します!麺の硬さヤワ、スープ濃いめ、スープの温度は48℃、器はビールジョッキ(大)、お冷やのコップ普通、箸の長さ長め、太さ細め、具材はキュウリにトマトにメンマ、食べる場所は成田国際空港!以上でよろしいですね!?」

…改めて聞くととんでもない注文内容だ。しかし、これは冒険した私の責任でもあるし、店主は既に空港に許可を取ってくれている。交通費まで出してくれるそうだ。これはもう、やるしかない。

「以上で間違いありません!」

「ヨシ!今から新幹線乗るよ!急いで!!」

それから我々は博多駅から新幹線に乗り、東京に着いた後に電車を乗り換え、ついに成田国際空港に到着した。2時間を大きく超えるとても長い移動だった。これから私は、ここでうどんを食べる。大きな大きなビールジョッキに入った48℃のうどんを、長く、細い箸で食べるのだ。

店主と大勢の通行人にジロジロと見られる中、私はジョッキいっぱいに入ったうどんを啜った。48℃のスープは意外と丁度いい温度で、風味豊かな出汁とモチモチの麺の相性が良く、一見バラバラに見える具材も不思議な一体感を出し、こんなフザケた場所で食べているが、とても美味しいうどんであった。未だに意味のわからないうどん屋だとは思っているが、入ってみてよかったと思う。

「そういえば、お店にたくさんサイン飾られてましたけど、芸能人の方もこんな感じでうどん食べたんですか?」

「ん?ああ、アレ俺のサインだよ!暇すぎて飾ったんだよ。」

…聞かなきゃよかった。


「今日のニュース見た?」

「マジでヤバくね?」

同僚が話しているのを聞き、私もネットニュースを開いてみると、一番上にこのような記事があった。

「驚愕 成田国際空港でジョッキに入ったうどんを食べる女性現る」

…まぁ、それなりに楽しかったし、また行ってみようかな。今度はあの同僚も巻き添えにして。

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