↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
温泉聖女はスローライフを目指したい  作者: 皿うどん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/43

三人目

「これが、王都の外……!」



 私の目の前に広がっているのは、見渡す限り続く大草原だ。草は短く刈られていて、遠くまでよく見える。

 門から伸びている大きな一本道が、遠くまで続いていた。遮るものがないせいか、風が強い。

 馬に似た魔物(そのまんま馬というらしい)に乗って、私たち3人は王都の外へ出ていた。


 こうして王都から出られたのも、エルンストの体調がよくなったからだ。

 温泉の効果がきれた日、メロおじいさんがエルンストを診察してくれた。



「よく効く薬を飲んでよく休み、驚異的な回復をしたのと同じくらいよくなっとる。医者としては長時間の移動は許可したくないがのう……もう一度温泉に入ってから出発し、着いた先でよく養生するのであれば、早く王都を出たほうがいいじゃろうて」



 出発する準備は出来ていたので、全員でもう一度回復の温泉に入り、翌日の早朝に王都から出ることにした。

 温泉をとても気に入ってくれたメロおじいさんが、私が定住したらすぐに教えてくれと言ってくれたので、落ち着いたら連絡をするつもりだ。リラとメロおじいさんのように、連絡をとれるような知り合いが増えるのはとても嬉しい。


 ささやかなお別れ会をしてちょっぴり寝不足だったが、王都の外に出ると、一気に目が覚めた。

 朝特有の澄んだ空気が肺を満たして、体が起きていく。荷物をいっぱい積んだ馬車や、歩いている人や、馬に乗った人たちが、横幅が何メートルもある道を進んでいった。

 門で引き止められなかったことにホッとしていると、後ろに座っているレオが声をかけてきた。



「そろそろ駆け足で進むけど、いけそうか?」

「うん、お願いします!」



 いざという時に逃げるために、私たちは馬車ではなく馬に乗っている。レオと私、エルンストで二頭だ。

 背中に密着しているレオの熱で心臓が速くなってしまうが、今はそんなことを考えている場合ではない。乗馬の経験などないから、油断したら舌を噛みそうだ。



「ようし、いい子だ。よろしく頼むぜ」



 馬の首を軽く叩いて声をかけたレオは、エルンストに合図をしてから走り出した。

 ゆっ、揺れてる! 視界が高くて上下にすごい揺れてる!



「サキさん、気持ち悪くなったらすぐに言ってくださいね」



 エルンストが声をかけてくれたのに、返事をする余裕がない。レオが小さく笑い、優しく腕を叩いてくれた。



「返事はしなくていいぞ。エルンストも状況をわかってるから」

「ありぶっ」



 感謝だけでも伝えようと思ったのに、さっきより馬が大きく跳ねて、伝え損なってしまった。レオとエルンストが笑うのをこらえたのに気付いて、黙って口をつぐんでいることにした。


 大きな道は途中でいくつかの分かれ道があらわれ、そのたびに馬に乗った人たちが減っていく。二回目の分かれ道を過ぎると、私たち3人のほかは誰もいなくなってしまった。

 王都を出た時はたくさんいた人たちも、気付けば見えなくなっていた。



「よし、ここらへんで曲がるぞ」



 レオがそう言ったのは、小さな森を迂回する小道があらわれた頃だった。森を囲むように小川が通っていて、なんとなく神社のような雰囲気がある。

 森へ続く小さな橋を渡って中へ入ると、森特有の香りに包まれた。薄暗いのかと思いきや意外と明るく、枝が揺れるのに合わせて木漏れ日がちらちらと動いている。

 後ろに座っているレオがわずかな緊張を体に巡らせ、周囲を用心する。邪魔にならないよう黙って馬に揺られたまま進んでいると、レオが手綱を操って馬を止めた。



「王都を出た時から追手はいない。この森に入るのを見られてもいない。この森に人もいないな」

「レオがそう言うのなら、信じますよ」

「俺もふたりを信じる。……これからのことは他言無用だ。そんなことはないと思うが、もし途中で信用できないと思ったら、このことを話せないように措置をとる」



 真剣なレオの声に緊張がはしる。エルンストとふたりで頷くと、レオは二ッと明るい笑顔を見せてくれた。



「脅かして悪いな。だけどこれは俺だけの問題じゃねえからさ」



 馬からおりたレオが、懐から小さくて綺麗な石を取り出して手のひらに乗せた。その石から、ぶわっと光が広がってドアの形になっていく。



「これを見せるってことは、ふたりを信頼してるってことだ。これが俺の友達の隠れ家へと続く、唯一の道。ふたりに敵意がなかったら通れるぞ」



 おお、すごい異世界っぽい!

 レオの助けを借りて馬からおりて、ドアの前に立つ。レオがドアを開けた向こう側は、今いるところとあまり変わらない景色だった。


 木漏れ日が気持ちいい森と川、畑が見える。緊張しながらドアの向こう側へ行くと、畑の横に赤い屋根の家があるのが見えた。

 赤い屋根には煙突がついていて、家のまわりには花が咲いた大きな木がいくつかと花壇がある。玄関までは白や赤茶色の小さな石が敷き詰められていて、可愛らしい道になっている。

 畑にも花壇にも、種類が違うたくさんの花が咲いていてカラフルだ。出窓にはランタンと鉢植えの植物が置かれていて、白いレースのカーテンが見える。



「か、可愛い……!」

「これは……」



 ドアを通ったエルンストが横に来て、同じように驚いた。

 よかった、エルンストも通れたんだ! これでエルンストが来れなかったら、私もここを出なきゃいけないところだった。



「すごく可愛い家ですね」

「え? ああ……そうですね」



 どこか歯切れの悪いエルンストを見て、ハッと気づく。

 こんなに可愛い家に住んでいるのは、絶対に可愛い女の子だ……! 手作りですごくおいしいクッキーを作ったり、パッチワークを作るのが趣味だったり、そういうやつ!

 ……そっか、レオがとても信頼してる友達って、女の子のことだったんだ。

 ちょっぴり痛む胸に気付かないふりをしていると、最後に馬を連れてドアを通ったレオが光る石を片付けた。



「連絡はしてるし、俺たちが来たってことに気付いてるはずだ。思ったより早く着いたから怒るかもしれないな」

「そういえば、夜には着く距離って言ってたよね」

「なるほど、人がいない場所でこのアイテムを使わなければならず、正式にはいつ着くかわからない。なので夜には着くと言ったんですね」

「そういうこと。下手すれば夜になってたけど、数時間で済んでよかった。んじゃ、行くぞ」



 レオが先頭に立ち、慣れた様子でドアをノックする。ノッカーが猫ちゃんだ。可愛い。



「おーい、来たぞー!」

「聞こえている」



 静かに開けられたドアから出てきた人を見て、おもわず目を見開いてしまった。


 顎の下で切りそろえられた濃紺の髪はゆるくウエーブしている。長い前髪は真ん中でわけられ、丸くて綺麗なおでこがよく見えた。

 陶器のように白くて綺麗な肌。濃紺の長いまつげ。切れ長の大きな目。通った鼻筋に赤い唇。

 恐ろしいほど整った顔が、私のはるか上にあった。意外と広い肩幅に、しっかりした体と喉仏が、可愛い家の持ち主の性別を伝えてくる。


 ……彫刻のように綺麗な男が、そこにいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。