第6話 孤高の栄光 前編
俺は研究室のあるマンションで洋子博士と同居しているのだが、俺の部屋は和室だった。
その和室には押入れがあり、押入れの奥の壁には、わずかな『隙間』がある。その隙間からは、隣室の洋子博士の寝室を『覗く』ことができた。
それはミクロの隙間で、普通の人間ならば、何も見えないだろう。だが、俺にはアンドロイドの超視力があるので、バッチリと見える。
今夜も、洋子博士が寝室に入ると、俺は音をたてないようにして、押入れに潜り込んだ。
『いけない事』をしている、という背徳感が何とも、たまらない。
押入れの奥の隙間から覗くと、まず、乱雑に脱ぎ捨てられた黒いパンストが見え、俺の欲情を掻き立てる。
さらに、その奥に、黒の下着姿の洋子博士が見えた。気だるそうな表情と白い肌。
洋子博士は寝るときには、全裸になる『習慣』がある。この習慣が、俺を覗きの『虜』にするのだ。
まず、ブラジャーに手をかける洋子博士。外すと、たわわなバストが露になった。 巨乳が少々垂れぎみなのは、年齢が三十五~六歳なので仕方がないだろい。
乳輪も大きめだが、出産経験がないためか、黒くはない。その中央には、吸い付きたくなるような乳首。
俺は彼女の裸体を凝視した。
そして、いよいよ、パンティに手をかける洋子博士。
俺は期待に胸を高鳴らせた。早く、早く脱げ!
心の中で叫ぶ俺。
スーッと、下着が下ろされる。
見えた。黒いジャンルが見えた!
ここまで匂いが届きそうな、芳しい密林。俺の興奮はMAXに到達する。
洋子博士は時々、寝る前に男性用の香水を全身に付けることがあった。この夜も、そうだ。そういう時は決まって、照明を消した後、ベッドのなかで、声を殺しながらモゾモゾとするのだった。
翌日。昭和レトロな喫茶店『栗とリス』に、海上自衛隊の白い制服を着た男が来店した。
「あっ、大河さん」
と、驚く、洋子博士。
「久しぶりだな」
大河と呼ばれた男は、そう言いながら、カウンター席に腰を下ろす。日焼けした肌が、白い制服に映える。俺の目から見ても、カッコ良い男だ。
コーヒーを注文して、俺の方を見る、大河。
「彼は?」
洋子博士は、慌てた口調で、
「あのう、親戚の子よ。今、ウチに下宿していて、この店でもバイトをしているの」
「ずいぶんと大人っぽいけど、大学生?」
「ええ、実は二浪してまして」
と、俺も話を合わせた。
おそらく、大河は、洋子博士の元彼氏だ。あの男性用の香水の匂いがする。
「洋子、話があるんだが、時間をとれないかな」
「今夜なら、いいわよ」
「ありがとう」
その日の夜、洋子博士は外出して戻らなかった。彼女が外泊したのは、俺が、この世界に転生してからは、初めての事である。
翌日。洋子博士が戻らないので、俺は一人で、喫茶店『栗とリス』を開けた。
昼過ぎに『女子高生コマンドー・泉』が姿を見せる。
「ここに大河という、海上自衛隊の男が来なかった?」
「えっ、昨日、来たけど。洋子博士の彼氏みたいだよ」
「大河はジョッガーの超魔人よ」
「ええっ、本当に?」
「彼には不審なところがあって、以前から海自の警務隊が捜査していたのよ」
「それで、彼がジョッガーの超魔人であると判明したのか」
「そうよ」
「それが事実なら、洋子博士が危ない!」
「えっ、洋子さんがどうしたの?」
「たぶん、今、大河と一緒だ」
その時、乱暴にドアが開いた。
県警の『学生刑事』妻藤雪だ。
「洋子さんと大河は『大陸ホテル』にいるよ。県警も大河の事はマークしていたから」
それを聞いて、俺は店から飛び出し、バイクに乗った。
このバイクは改造車で、俺はアンドロイドだ。とんでもない速さでバイクを走らせ、あっという間に、大陸ホテルに到着する。
そして、大陸ホテルでは、一階のカフェ・ラウンジで、洋子博士と大河がコーヒーを飲みながら談笑していた。
幸せそうな横顔の洋子博士。
俺はカフェ・ラウンジに踏み込んだ。
「その男は、超魔人なんだ。洋子博士」
「えっ、何?」
突然の俺の登場に驚く、洋子博士。 白い制服姿の大河は、席に座ったまま、
「栄光は常に孤高だ。苦い味がする」
「何、わけのわからない事、言って、カッコつけているんだ!」
「そう、怒るなよ、偽大学生のアンドロイド君」
「えっ、なに、どうしたの、あなたたち」
と、困惑する洋子博士をチラリと見て、大河は立ち上がり、ゆっくりと俺に歩み寄って来る。
「洋子、話の続きは、このアンドロイドを片付けてからだ」
そう言った大河は、一声、吠えて、
「ガオォォーッ!」
神々しいほど綺麗な、白虎の超魔人に変身した。
「オレはジョッガーの幹部『超魔戦士ハカイ・タイガー』だ」
カフェの客とスタッフが、
「きゃーっ」
と、悲鳴をあげて逃げ出す。
「えっ、嘘。大河さんが、まさか」
洋子博士には、この現実が受け入れられないようだ。
「アサルト・チェンジ!」
俺も『戦闘形態』に変身する。
「やめて、二人とも、戦わないで!」
悲痛な叫びをあげる洋子博士。
誰もいなくなったホテルのカフェ・ラウンジ。俺とハカイ・タイガーは、洋子博士の目の前で、対峙した。