第4話 夕日のガンマン超魔人トカゲンダー
この日も、俺はジョッガーの超魔人と戦った。
カメの姿をした『超魔人カメ・カメン』は、硬い甲羅で防御力の高い強敵である。必殺技の、
「アサルト・レッグ・ラリアット!」
も、甲羅に首を引っ込めて、防がれた。
「ガハハハーッ、どうしたアサルト・ソルジャー。このカメ・カメン様が相手では、手も足も出ないか」
「こうなれば、新必殺技だ」
「無駄な事を」
俺はジャンプして、
「アサルト・ハリケーン・ソバット!」
グルグルと激しく回転しながら、後ろ回し蹴りを決めた。
バギイィーン!
けたたましい音を発て、カメ・カメンの甲羅が割れる。
「ぐあぁーっ!」
悲鳴を上げたカメ・カメンは、
ドカアァァーン!
爆発した。
悪の秘密結社ジョッガーは、人類抹殺計画を企ている。
ジョッガーの思想では、人類は、地球の生態系を著しく破壊する『凶悪な存在』であるらしい。
だから、ジョッガーは人類を滅亡させ、地球の生態系を守ると主張しているのだ。
また、ジョッガーの超魔人や戦闘員になれば、地球の生態系を壊さないために、食料は摂らずに、太陽エネルギーで活動できるようになるという。
そして翌週。その日は月曜日だったが、盛高知里が一日、オフだったので、俺は知里をバイクの後ろに乗せて、ツーリングに出掛けた。
一日、バイクで走り、夕方。
高台にバイクを停めて、夕暮れの街を見下ろす、俺と知里。
一日の終わり、西の地平に太陽が沈む。赤く染まる街。東の空から静かに夜が侵食する。毎日、繰り返される光景だが、なぜかドラマチックに感じた。
「綺麗ね」
「知里ちゃんの方が綺麗だよ」
「またまた、そんなこと言って」
楽しい。楽しすぎる。転生前、令和時代の俺は『三十歳、独身、無職』で、どうしようもない人間だった。
それが、この世界では、人気アイドルの盛高知里とデートをしてしまう、無双の正義のヒーローである。
まるで夢のような世界だ!
「あなたは、なぜアンドロイドなの。わたしは、こんなにも、あなたの事を想っているのに」
なんという台詞。こんな事を、こんな可愛い娘から言われるなんて。イケメンに造られて良かった。洋子博士、ありがとう!
「俺は『悪』と戦い、人類を守るために造られた人造人間なんだ。戦うことが俺の使命なんだよ」
俺は、やや哀愁を醸し出して言った後、知里の目を見つめ、言葉を続ける。
「だが、俺が、心から愛しているのは、知里ちゃん、君だけだ」
クサい台詞を決めた。 良い感じになる二人。この後はラブホか。ラブホなのか?
と、その時、
「イチャイチャしているところを、悪いな」
トカゲの超魔人が現れた。ガンマンの格好をしている。
「なんだ、お前は」
「おれは、『超魔人トカゲンダー』だ」
俺は知里を背中の後ろに隠して、庇った。
「心配するな、おれは女には危害は加えない。正々堂々、一対一の勝負だ」
「トカゲンダー、超魔人にしては男前な奴だな」
「女を下がらせろ」
「わかった、勝負だ」
知里が不安な表情で、俺の顔を見る。
「大丈夫?」
「大丈夫だ。離れていてくれ」
俺とトカゲンダーは、10メートルほどの距離をとって、向かい合った。
「親友のカメ・カメンの仇をとらせてもらうぞ。アサルト・ソルジャー」
夕日の赤い光に照らされる、トカゲンダー。影を長く延ばしている。
「アサルト・チェンジ!」
俺は赤を基調とした『全身装甲の戦闘形態』に変身した。それを見て、トカゲンダーは余裕のある声で言う。
「日が沈む前に決着をつけようか」
「そうだな」
トカゲンダーなんかは早く倒して、知里とラブホへ行きたいと、俺は心の中で思った。
「いくぞ、アサルト・ソルジャー!」
早く来いよ。と、思った瞬間。トカゲンダーが腰の二丁拳銃を抜いて、撃つ。
バン、バーン。
俺は、ジャンプして、弾丸から逃れた。早く決着をつけたくて、そのまま、
「アサルト・レッグ・ラリアット!」
必殺技で、トカゲンダーの喉元を蹴ったが、
奴は両手をクロスさせて防御する。
「喰らうかよ」
しかし、必殺技の威力で、
ブヂッリ!
トカゲンダーの左腕がちぎれて宙を舞った。
「く、くそうっ」
それでも、トカゲンダーは右手の銃を撃ってくる。
バーン。
弾丸は俺の額に当たった。
「うあっ」
と、真後ろに倒れる、俺。
「ついに殺ったか!」
と、トカゲンダーは歓喜の声をあげる。しかし、俺は立ちあがった。
「惜しかったな、額は一番、装甲が厚い部分だ」
「な、なんだと」
「胸を撃たれていれば、即死だったかもしれないが」
「おのれ!」
銃を撃つ、トカゲンダー。
バーン。
ジャンプして、銃撃を避ける俺。
「アサルト・ハリケーン・ソバット!」
空中で激しく回転して、後ろ回し蹴りを決める。
バチコーン!
「ぐあぁーっ」
トカゲンダーは、ぶっ飛び、空中で、
ドカアァァーン!
爆発した。これで、ラブホに行ける!
トカゲンダーとの死闘は終わったのだが、人間形態に戻った俺の顔を見て、知里は、驚きの声をあげた。
「か、顔が歪んでるわ!」
無理もない。至近距離から額に弾丸を受けたのだ。
こうなってしまえば、もう、今日はラブホには行けない。研究室に帰って、洋子博士に修理をしてもらうしかない。
「だ、大丈夫なの?」
「ああ。これくらいなら、平気さ」
だが『知里とラブホ』の夢は消えた。俺はバイクの後ろに知里を乗せて、煌めく街のなかを、残念な気持ちで疾駆した。