第1話 突撃戦士アサルト・ソルジャー
令和時代。世界的なパンデミックが起こった。俺も、この病気に感染して入院する。しかし、治療法もないまま、後は死を待つばかりだ。
三十年の人生は短いかもしれない。だが、独身で無職の俺は、この先、生きていても、良い事はないだろう。 ここで死んでも、
「まあ、それは、それで良いか」
と、思いながら、俺は死んだ。
だか、病院で死んだはずの俺は、研究室で目を覚ます。
「ついに、成功したのね」
と、よろこんでいる女性がいた。
「私は蒔洋子。あなたを造ったのは私よ」
と、彼女は言う。蒔洋子は美人で巨乳だが、俺より年上だろう。
彼女の話しによると、どうやら俺は、人造人間として転生してしまったらしい。
「洋子博士は何歳ですか?」
「失礼ね。女性に年齢を訊くなんて」
と、洋子博士は不機嫌な口調で言った。
「失敗作かしら、このアンドロイドは」
俺の見たところ洋子博士は、三十五~六歳だろうか。
「あのう、それで、俺は何をするために、造られた、アンドロイドなのですか?」
「人類抹殺計画を企む、悪の秘密結社『ジョッガー』と戦って、人類を守ることが、あなたの使命よ」
「それで、俺の名前は?」
「突撃戦士アサルト・ソルジャー」
『カッコ良い』のか『カッコ悪い』のか、微妙なネーミングだ。
窓から外を見ると、そこは昭和後期のような風景だった。工場は煙を吐き出し、建設途中のビルが乱立している。人々は忙しそうに行き交い、騒音と喧騒にあふれた『街』だが、令和の『街』より活気があった。
この研究室は、一般的なマンションの一室にあるようだ。高さは四階くらいか。
自分の姿を鏡で見ると、俺は、かなりのイケメンに造られていた。これは洋子博士の趣味らしい。戦うときには、赤を基調とした全身装甲の戦闘体形に変身できるという(まだ変身は試していない)
そんな俺に、早速、戦う機会が訪れた。テレビのニュースで、女性アイドルの『盛高知里』が、歌番組のリハーサル中に、何者かに誘拐されたと報じられたのだ。
因みに盛高知里は令和時代も、五十代のタレントとして、芸能界に生き残っている。
「ジョッガーの『超魔人ヤモリンガー』の仕業よ」
と、洋子博士は断言した。
「なぜ、そうと、わかるのですか?」
「奴は盛高知里のファンらしいから」
「そうなんですか」
「すぐに、アジトに向かうのよ」
「えっ、アジトって、どこに?」
「この場所よ」
そう言いながら、洋子博士は俺に地図を手渡した。ヤモリンガーのことは、以前から調査していたらしい。
俺は研究室を出て、バイクに乗り、地図に記された郊外の山荘を目指す。
このバイクは当然、改造車である。かなりのスピードで公道を走ったので、
「そこの二輪車、止まりなさい」
と、白バイに追われたが、正義のヒーローの俺が捕まるはずもなく、さらにスピードを上げて、逃げ切ることができた。
山荘に到着すると、窓があったので、室内を覗き見る。
ステージ衣装の盛高知里が鎖に手足を繋がれて、床に『大の字』に固定されていた。
その知里の美脚を、ヤモリの怪物が、長い舌で舐める。
「い、嫌あ、やめてーッ」
知里の悲痛な叫び声が響いた。
「ワシは美女の身体を舐めるが、唯一の生き甲斐なのじゃ~」
ペロペロリ~ン。
気持ち悪すぎるヤモリンガー。
そして、その不気味で長い舌が、知里の太ももの内側を舐め上げて、脚の付け根から、下着の内側に入っていく。
「あぁーっ、そこはダメ!」
「ジョリッときたぞ。剃っているか?」
乙女のピンチだ。俺は窓ガラスを叩き割り、小屋のなかに飛び込んだ。
「止めろ。ヤモリンガー」
「なんだ、お前は!」
と、立ち上がるヤモリンガー。
「正義の突撃戦士アサルト・ソルジャー」
「アホか!」
ヤモリンガーは俺を殴り、蹴った。
バジッ、ドカッ、バシン!
人間形態の俺は、あまり強くない。ボコボコにされ、あっという間に窮地に陥る。
「どうだ。超魔人ヤモリンガー様の強さは」
「う、うぁ、止めてくれ」
だが、俺は正義のヒーローだ。
「アサルト・チェンジ!」
一声叫べば変身する。赤を基調とした『全身装甲の戦闘形態』に姿を変えた。
こうなれば俺は無双。ヤモリンガーを捕まえて、
「おりゃあーっ」
持ち上げてからの、床に叩きつける。
ドスン!
「うぎゃー」
悲鳴をあげるヤモリンガー。止めに腹を、おもいっきり踏みつけた。
グシャリッ!
腹が潰れ、口から血と内臓を吐き出す、ヤモリンガー。
「アガッ、アガァァ」
奴は、数秒、苦しんでから絶命する。嫌な臭気が山荘の中に充満した。
知里は顔面蒼白になっている。無理もない。ショッキングでグロテスクな場面を目の当たりにしたのだ。
「うっ、うえっ」
嗚咽して嘔吐してしまった。
だが、とりあえず俺は、盛高知里の救出に成功した。
「ありがとうございます」
「いえ、これが俺の使命ですから」
帰りは、ステージ衣装姿の知里をバイクの後ろに乗せ、俺は意気揚々と昭和風の世界のなかを疾走した。