第五話 そもそも、キモいからモテないんだよ?
次の日。
今朝もユーキ君と目覚めて、一緒に身支度して、朝食を食べて、訓練をしました。
今日は、ドフールでの戦闘でも応用できる、白兵戦についてでした。ユーキ君は、もう、私なんていらないんじゃないかと思うくらいに、戦闘能力が上達していました。
どうしましょう、私、いらなくなっちゃうんじゃ……。そんな不安がしました。こうなったら、新たな力を得て彼の役に立つために、テレパスについてもっと訓練しないと……。ですが、どうやったらいいか、わかりません……。
「どうしたの、モエコ」
「え⁉ ゆ、ユーキ君⁉ あ、あの、うん。ユーキ君、もう、私が教えなくても、強いなって……私、いらないかなって……」
「何言ってるんだよ、そんなことねぇよ。モエコは一緒にいてくれるだけでも励まされる人なんだぜ。いらないなんて言うなよ」
「だ、だけど! それだけじゃダメなの! 私、もっと、その……あ……。ご、ごめん、大きな声出しちゃって……怒ってるわけじゃないよ、その……」
「そうか。モエコが言うんなら、仕方ないな。じゃあ、出来ることを伸ばして行こうぜ」
「で、出来ること……怪獣さんたちの通訳?」
「おう、それだ。あいつらのこと心配だし、一緒に見に行かない? 不安なら、博士も一緒に」
「あ……。う、うん!」
嬉しかったです。けど、二人きりがよかったかな……。それに、私が指導してあげないといけないのに、彼に教えてもらっているみたいです……。
博士を尋ねてみましたが、彼女は既に怪獣たちのところにいらっしゃいました。案の定、言葉が通じないはずの怪獣さんたち相手に威張っていらっしゃいます……。
「あ、モエコ犬、ウルトラザコ、よく来たわね! 一緒にこいつらイジるわよ!」
「な、なんですかそれ⁉ ……ぼ、ぼく、なんか悪いことした……?」
「したわよ、この文句たらたらヨワヨワ液! ふん、大人なのに自分のしたこともわからないの~? ダッサ、気温よりさきに自分のそのヨワヨワ脳を冷やしたら~?」
「うわっはぁ、ひどい、怒ってないのに冷やせだなんて無茶な、泣きたいのに~⁉」
「うわ、ザコザコ液くん泣いちゃった? アハハハハ、そのまま飲み込まれちゃえ!」
「うわああああああああああん⁉ 帰りたいよ~!」
「ワルワルヨワヨワ液くんは大変だね~! じゃ、その調子でもっと綺麗な水をいっぱい浄水するのよ、ほら、まだこんなにろ過しないといけない汚水がいっぱい、ほらほら~っ!」
「うわ、汚ね、なんだよ、これ~!」
「ほらほら、頑張れ、頑張れ~! 自分より小さい人類に飼われて可哀そ~う。同じく泣いてるなら、まだネコちゃんたちの方が役に立つよ~?」
ライブリキッド君は、その水分を温度変化から津波まで起こしてしまうほどの超常的な力を利用し、壊してしまった水道のようなライフラインの代わりはもちろん、食品工場などでの冷凍や冷蔵、各施設の冷房や暖房、ミストによる除菌など、様々なことで世界と人々のために働かされていました……。
なお、雪の結晶のような姿をした本体は、基地の一番下にある冷蔵庫に閉じ込められて、博士に管理されています。今までの侵略者さんたちと一緒に。
「ガオガハハハハハ、アイツ、あんなチビにこき使われてるぜ!」
「ビギャギャ! 深海に引き籠りながら征服なんてするからそうなるんだ、間抜け!」
「いや、お前らもだろうが。テメェらが奪おうとした命に貢献して謝れ、間抜け」
「ゆ、ユーキ君……」
私も口には出しませんでしたが、ちょっと乱暴な言い方をしたユーキ君には同感です。
彼らの罪滅ぼしのような行いのおかげで、復興も思っていた以上に進み、前よりも発展した都市、さらにライフラインが充実した地方や田舎などもあるようです。熱、電気、そして、水。彼らの生み出すエネルギーのおかげで、地球はもっと豊かになりつつありました。そこは少し感謝したいと思ってしまいます。
「け、けど、少しは反省しているんじゃないかな。みんなも、もう悪いことしないで、その、えっと、えっと、これくらいしか言えないけど、無理しない程度に、ね……?」
いるだけで、彼らにたいする罵倒に貢献してしまいました……。私の力は仲よくするためのものだと思っていたのに……。
それを察したかのような視線を、ユーキ君から感じました。
「……⁉ あ。ああ、おう、そうだ!」
「……。あ、おい、てめぇ! そこのメス地球人に便乗してんじゃねぇぞ! 道具使って勝ったくせに!」
どうしよう、ユーキ君からの心遣いが嬉しいです……。ですが、ユーキ君はオメガザウルス君の言い分に怒っていました。
「はいはい、卑怯でごめんなさいね。どうせ俺なんかドフールがいなかったら、役立たずの無職だよ! じゃあな、バイバイ。思ってたより元気そうでよかったぜ、じゃあな!」
「じゃあな、を、二回も言うな! しつこい、生産的じゃない、ビギャ~!」
「あの電子ネズ公、『生産的』とか言って急にデータキャラになり始めたぞ」
「う、うん……」
「あ~、ザコザコ怪獣たちイジるの楽しかった~! じゃ、ヨワヨワザコたち、これからもお仕事頑張ってねぇ~。あ、アンタたち無職よりひどい、捕虜だったね! じゃあ、ニートも同然か~。じゃあね、引きこもりヨワヨワおじさ~ん!」
そのあと、三人で部屋を出て行こうとしましたが、こんな会話が結構離れているのに聞こえてきました……。
「おい、ヒエヒエ野郎、お前も何か言え!」
「ビギャ~! そうだ、そうだ、言われっぱなしでいいのか⁉」
「は、はい、おい、この、えっと、あ~……あっ! もう十回以上恋愛に失敗してる人!」
「ガハハハハ! 当てつけだとしてもすごくいい感じだぞ!」
「ビギャガガガガ! 陰キャのくせにやるじゃねぇか!」
「いいだろ、別に。気持ち伝えないで後悔したり、ヤルことまでやった上で、そのあと、ああ、この人とは合わないな~ってしっかり考えた後に別れた方がマシだろうが、まったく。……行こうぜ、モエコ、博士」
「え……?」
私たちは、背を向けて歩いて行く彼の後姿を見て止まってしまいました……。
ユーキ君、今までスルことまでシて、ヤルことまで本当にやってきたのでしょうか。今まで、誰か恋愛関係になった方々が少なくとも十人以上いたのでしょうか……。少し驚いてしまい、ショックではありませんが、なんだか悔しいような、悲しいような、寂しいような、形容しがたいむずがゆい感覚がして、何も考えられなくなり、体が熱くなってゾワゾワします……。
一方、博士は床に頭を突っ伏して、腕をダランと垂らしてうなだれていました……。
「ウソだ、このボクが、童貞か非童貞か見極められなかったなんて……⁉」
「は、博士、何を言ってるんですか……⁉」
「おい、どうしたんだよ、みんな?」
ユーキ君は何食わぬ顔で、みんながついてきてくれないので心配して引き返してくれました。あっさり話して衝撃を受けているのは私たちだけで、彼にとってはもう終わってしまったことなのでしょう……。
それならば、気にはなりますが割り切って、彼の過去ではなく今を受け入れないと行かないと思いました……。
「さ、ユーキ君、な、なんでもないよ……」
「そうか? なんかあったら言えよな。もう昼だし、なんか作るよ」
「わ、私も手伝う!」
「……ぐぬぬぬ。じゃあ、ボクは味見する」
私たちは怪獣たちの部屋を後にしました。
「お前、さっきのはひどいぞ……。おれも何回か経験あるわかるけど、失恋の傷だけはバカにするのはねぇわ~……」
「ビギャ! ふざけやがって、お前らには出来てオレサマには出来ないんだよ……⁉ ふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがって……」
「いや、煽ったの皆さんでしょ……! ぼくは悪くねぇ!」
そのあと、ドフールの前にやってきて、三人でお昼を食べることにしました。
「おじさん、今日もいないわねぇ~。せっかく作ったのに……」
「いや、作ったのは俺らだよ」
「いいじゃない、ボクが設計したキッチンで作ったんだから、ボクが作ったも同然!」
「ああ、そう考えればそうかも」
「え、あ……ふ、ふん、理解ればいいのよ!」
さきほど思い直したはずなのに、私はずっとユーキ君が今までどんな方々とお付き合いをしてきたのか気になって、ずっと考え込んでしまっていました。彼の恋愛遍歴のことが気になって仕方がありません……。アンナことやソンナこともしてきたのでしょうか……。優しくて強い彼なのだから、モテるに違いありません。モテない方がおかしいんです。
そんな方々でも別れてしまいここにいるのに、彼と私はうまくやって行けるのでしょうか?
……って、何を考えているのですか、私は⁉ 付き合えること前提で! 告白すらしてないのに……!
ですが、そんなこと気にしない様子で、ユーキ君と博士は話していました。
「なあ、博士。前にも聞いたけど、本当にアイツらのこと任せちゃっていいのか? なんか、捨て猫を拾ったわいいけど、世話は親に任せてるみたいでなんかイヤなんだけど」
「はぁん? あんな面白いヨワヨワ怪獣たち、アンタなんかに任せられるわけないでしょ。ボクがひとりじめしてやるわ! あ、だけど、本当にヤバい時は、ヨワヨワで役立たずなアンタにお仕事あげちゃうから。盾くらいにはなってくれるでしょ?」
「博士、アイツらより強いんじゃないのかよ。まあいいや、その時は任せときな!」
「ふん! まあ、そんなときは来ないだろうけどね~!」
いつの間に、二人だけでそんなお話していたんですか……。うわ、博士にさえこんな嫉妬みたいな感情を抱いちゃうなんて……私は中学生ですか!
うわぁ、大人になるまで恋愛とかしてないと、こんな感じになっちゃうんですね……。
そんなこと、博士ならなさそうだし、それに仲よさそうだし、付き合うとしたらお似合いのカップルになっちゃうんじゃないでしょうか……。
うわ、ああっ……。お二人が恋人同士で恋人らしいことをしている様子を想像してしまいました、ど、どうしましょう⁉ いえ、自分が勝手に想像しただけなのに……⁉
すると、侵略者出現を知らせる警報音が鳴り響きました。
はぁ、これ以上はどうなることかと……。じゃありません!
「よし、俺はこのままいくぜ! 二人とも、今回もよろしくな!」
「う、うん!」「任せなさい!」
私と博士は指令室に、ユーキ君はドフールに搭乗して、それぞれの持ち場に向かいました。
指令室にはやっぱり司令官がいらっしゃいました。
「モエコ隊員、状況説明」
「はい!」
分析して、モニターに映し出します。
今回の侵略者は……巨大な植物でした。都市に落ちたきた途端に、成層圏にまで到達するほどにまでぐんぐんと成長した巨大な大木。
その巨大な植物は、大都市に根を下ろし、そこを中心に根やツタをウネウネと伸ばして、そこら中に不気味で巨大な花々を咲かせながら都市を飲み込んで、樹海のようにして侵略して行きます!
さらに、そこにいた人々の様子がおかしいです。まるで、何かに操られているかのよう……。その花弁から、毒性の花粉などが放たれているようです……。
さらには、食虫植物を思わせる凶暴な口が、周りのものに食いついて、さらにはその中から溶解液を出して溶かし、そこに根を張って吸収しようとしています……!
植物という植物が、まるで文明への復讐のように暴れまわっていました……!
「なるほど、今回も厄介だな……」
「住民の避難が完了していません。こ、この調子だと、あと数分で地球全土が、あの植物に飲み込まれてしまいます! み、みんなが……」
「植物が進化したのね……名づけるなら、ウォープラント。その生殖能力で養分を吸いつくして、自分自身を樹海や森として拡大させていくつもりだわ。けど、この分子構造と数と密度……炎で燃やそうとしても無理、刃も通りそうにない。冷凍光線でもすぐに再生する……それに、ここにいたヨワヨワ一般人たちも、この雑草怪獣が放出している花粉でやられてしまっているわ!」
「人々の体から、様々な木々や花々が生えてきています! 花粉がまき散らされて、まるでウイルスのように……」
「他の生物に花粉や花粉を入り込ませて体内に種を植え付けて、養分を吸い取っているようね……。それに、なによこれ、どの系統にも属さない植物じゃない! 本当に、地球上、どの種類にも当てはまらない、今から対策を考えないと……」
博士はそう言うと、クレヨンとわら半紙でいつものように計算しました……。
「どうもこうも、この調子だと、この世界がウォープラントの養分にされちゃうわよ!」
このまま放っておけば、地球上がこのウォープラントの養分にされて、世界がこの外政植物に飲み込まれて征服されてしまいます……。
『そんなら、伐採するしかないだろ。斧かなんかくれ。行ってくるぜ!』
「ユーキ君⁉」
「無理よ! さっき計算したけど、炎もビームサーベルも通用しない、それに、この生命力だと、伐ったところですぐに再生しちゃうわ! それに、体内に毒物を持って、伐ったらあなたに返り血みたいに樹液がかかって来て、アンタのこと溶かしちゃうわよ! あとあと、そこの花粉も花粉も、メチャクチャ細かくて、アンタまでドフールもヘルメットも透過して感染しちゃうのよ! 待ってなさい、今、な、何とかするから!」
「……博士」と、司令官。「ドフール用の斧を今すぐ用意しろ。資金とここの設備ならばなら出来るはずだ」
「結局は全部、ボクの力だよ! 設備作ったのも大半がボクの特許だし! 資金は確かにおじさんだけど! もう、わかったわよ!」
すると、博士は司令官の命令を素直に聞いて、すぐにドフール専用の巨大な斧を設計して、設備を使って製造してみせました!
「完成、ツヨツヨアックス!」
そして、すぐさま工場からドフールの格納庫にまるでスライダーで滑っているかのように運ばれます。
「ドフールの格納庫に、ツヨツヨアックスの輸送を確認、ユーキ君、どう?」
『出来立てホヤホヤで暑いぜ!』
「美味しそうな料理みたいに言うんじゃないわよ!」
「では、それを持って出撃させろ」
「だから、おじさん! 勢いで作っちゃったけど、あれじゃ伐れないくらいアイツの幹、ツヨツヨなんだって! いちおう、ボクのツヨツヨアックスなら空母だってバターみたいに斬れるけど……けど、あのウォープラントは……」
「モエコ隊員、君はどう思うか?」
「えっ……。ゆ、ユーキ君とドフールなら、どんな相手でも、か、勝てると思います!」
「……そうか。では、出動させろ」
「ちょっと、おじさん⁉」
何の根拠もありません。いえ、根拠はあります。ユーキ君なら大丈夫。そう考えてしまいます。彼なら勝てるんです!
「……。……! ユーキ君、行ける?」
『おう、勝手に行っちまうところを我慢して待ってたぜ。見送ってほしいからな』
「……うん。ユーキ君、ドフール、出撃お願いします!」
「シャアッ! ドフール、出撃!」
ユーキ君のドフールはツヨツヨアックスを担いで、大都市を襲う生きた樹海ウォープラントを倒しに向かいました。
「アイツ、もう、ボクのツヨツヨロケットエンジン使ってない……ううっ……」
「は、博士……」
涙目でショボンとしている博士を放っておけず背中を撫でていると、あっと言う間にドフールは現場にやって来ていました。
巨木の根やツタが入り組んで転びやすく、藻や苔で滑りやすい足場が非常に悪い、樹海と化した大都市を、ドフールは器用に忍者のようにピョンピョンと飛び跳ねて行きます。
そして、一本の巨木を見上げました。真上の枝からは、一見砂嵐のように見えるほどの花粉がたくさん放たれています。
『よし、この木が一番花粉バラまいてるきがするぜ、どう?』
「今分析するね! ちょっと待っててね……うん、それだよ! どうしてわかったの?」
『昔、林業手伝ってた時期があって、何となくわかるようになったんだよ』
「じゃあ、私が分析して、そっちに花粉を撒いている木の位置を教えるね! 人工衛星やドローンからじゃ確認しにくいのもあるから、目視でも確認してね。大変だけど、頑張って!」
「おっしゃ!」
「ちょ、ちょっと、待ちなさい、いくらボクのツヨツヨアックスでも、そんな大きいのは、ムリだよ……ただでさえ、カチカチなのに……」
『フン!』
スパーン! ガガガガ……ド~ン!
ウォープラントが花粉をバラまいている巨木の一本を、ドフールはツヨツヨアックス一振りで伐り落として見せました!
「ウソでしょ⁉ 思考制御で、ウルトラザコの伐採力を応用して強化したのね! ……ううっ、なんなのよ、何でもありじゃん……」
『モエコ、次は?』
「う、うん!」
「……これで本当に倒せるか、博士? 分析しろ」
「え、ぐすっ……えっと、多分、いずれにしろ、花粉をバラまいている奴は伐らないと……。だけど、きっと本体がいると思う。これは竹藪みたいなもの。あれ全体で一つの生命体と言えるんわ。根で繋がっているの。だから、もしコイツに意志があるとしたら、頭脳がある本体があるはず……もしかしたら、そのままただ伐採を続けていたら、気づかれて攻撃されるかも……?」
「そ、そんな⁉ ユーキ君、木の根や食虫植物が攻撃してくるかも!」
『マジかよ⁉』
「……ハッ⁉ ユーキ君、後ろ!」
次々と花粉の木を伐採するドフールの背後から、戦車や戦闘機を丸呑みしてしまうほどの巨大な食虫植物が噛みつこうとしましたが、振り向きざまに素早く常備しているナイフで切り裂いて見せました。しかし、また生え変わったり、他の場所から伸びてきたりと、次々と襲い掛かってきます……!
「右、後ろ、左、下、下……!」
『オラ~!』
私がナビゲートすると、ユーキ君はドフールを完璧に操って、襲い掛かるツタや食虫植物を倒して、さらに花粉を撒き散らしている巨木も伐採して行きます……。
「アンタたち、息ぴったりだけど、どっちがドフール操縦してるのかわからないわね……」
「ユーキ君、花粉が機内に侵入してる! そのままじゃ、あなたにも植物が生えちゃうから、いったん撤退して……」
『心配ないぜ!』
すると、本当に大丈夫な様子でした。モニターに映っているユーキ君の生体反応には全く異常が見られません。彼の体が異常なのか、それともドフールの機能なのでしょうか?
それも大事ですが、今はユーキ君と世界のために、ナビゲートしないと!
「ユーキ君、ツタが一斉に束になって襲い掛かってくるよ! 避けて!」
『いや、コイツなら出来るはずだ!』
「ど、どうする気⁉ ……? これは⁉」
レーダーが何かを捉えたので調べてみると、根で歩行する巨木の怪物の軍団が襲い掛かって来ていました。
「他の地球産の植物に受粉させて自立させた眷属ね! 意志を共有して連携して襲い掛かってくるわよ! ソルジャーウォープラントだわ!」
「ユーキ君! ソルジャーの大軍も、四方から襲ってくるよ! やっぱり、撤退……」
『了解!』
すると、ドフールはツヨツヨアックスを持って、竜巻のようにグルグルと回転してソルジャーウォープラントを吹き飛ばし、切り裂いていきました……。まるで、竜巻が木々を吹き飛ばしたり吸い込んだりするかのようです……。
『俺の借りてた家と畑吹き飛ばしやがって! 野菜じゃなくてお前らが吹き飛べよ!』
「うわ、いつの八つ当たりよ……。軍団に自然災害をぶつけるなんてツヨツヨね……」
「……! ユーキ君! ツタが襲い掛かってくる!」
すると、ドフールに向かって、束になってさらに太く強靭になったツタが襲い掛かってきました。しかし、ドフールはそれに飛び乗ってそこに走って行き、ツタの根元に辿り着いて見せました。そして、その剛腕でツタを抱き込むように掴みます……。
『根菜を採るときは、根元から引き抜くといいんだ!』
すると、ドフールはその怪力で、ツタを根元から引き抜いて持ち上げ、新たに襲い掛かってきたソルジャーウォープラントたちにぶつけました!
そして、まるで仕切り直すかのように、花粉の大木をツヨツヨアックスで伐り倒そうとします……。
『林業の時は他の木とかに気を付けながらやってたけど、これだったら容赦なくやれるぜ! 環境破壊はともかく、外来種除去は楽しいぞい!』
ですが、ウォープラントは、そんな容赦ない様子のユーキ君とドフールの頑張りをよそに、地球への浸食ともいえる根を、文字通り伸ばしていきます……。
「このままだと、本当に地球が飲み込まれてしまいます……」
「博士、本体の位置は?」
「ううっ、コイツ、本体を別のところに移動させてるみたい……全部一気に燃やしてやるしかないわ……。けど、あの様子だと、ツタや幹より丈夫なはずの種からまた進化してアイツになるわ。そして、他の地球産の植物を受粉させたり、意識を移動して、また復活する……不死身よ、地球を吸いつくすまで、アイツは終わらないわ……ぐすっ……」
「そ、そんな……」
『博士、また泣いてるのか?』
「……あ! ユーキ君、その、本体を特定できないんだけど、目視でそれらしいもの、確認できない?」
『ない! だが、おびき出す方法はあるぜ……こうして、奴が生み出してる可愛い分身どもを伐採しまくることだ~!』
すると、ドフールに異常が見られました。検査してみると、機体を浸食して苔やツタが生えてきています! まるで、何百年もだって閉まったかのようです……!
「ユーキ君! 機体がウォープラントを浸食してる! 撤退して!」
『うお、本当だ、酷使したんだ! 了解!』
ですが、なんということでしょう。ユーキ君は花粉が蔓延している外にハッチを開いて飛び降りてしまいました!
「ちょ、ちょっと、ユーキ君! 感染しちゃうよ!」
「は、はやく、戻りなさい! あ、アンタまで木になっちゃうわ!」
『おら、出てこい! 種を植え付けてみろや、おら~! お前はボロ雑巾みないな奴だ~!』
「なんだと、このガキが~!」
すると、ウォープラントの本体が地面から現れました!
巨大な幹に薔薇のような鋭い棘が生えて、巨大な花のつぼみ三見えましたが、それはバッと開いて、花弁の中心に巨大な目玉があるという、おどろおどろしい見た目をしていました……!
花弁からは唾液のように毒性のある溶解液がダラダラ垂れています……。
そして、手のように伸ばしている枝の先にある花弁からは大量の花粉が煙のようにモクモクと放たれていました!
「ウォープラント、本体顕現!」
「ま、まさか、意志があることを信じて、煽って出現させるなんて……」
「なるほど、侵略なんぞするやつはチンピラも同然と踏んだわけか。参考にしよう」
「おじさん、そんなの、いつ、なんの参考にする気よ⁉」
その時、ユーキ君は生身で巨大なウォープラントと対峙していました……。
私は黙って彼らの会話をテレパシーで通訳していました。その能力を自覚したのはそのときでした……。
こうやって、今まで会話、で、いいのでしょうか? 意志疎通を、可能にさせていたんですね……。
『出たな、この畜生が!』
「畜生だと⁉ ワガハイは偉大なる植物だぞ! お前も土に帰らせて養分にしてやる!」
「ゆ、ユーキ君! アイツ、攻撃してくるよ!」
しかし、ユーキ君は忍者のように、襲い掛かってくるツタや食虫植物を避けて、絡ませて動けなくしてしまいました……!
「ぬあああああっ! ちょこまかと、ピョンピョン跳ねやがって、お前はワガハイを喰らいつくそうとする害虫か!」
『野菜は苦手だ!』
「なんだと~! じゃあ、お前も野菜にしてやる! 大嫌いな食いものになって食べられてしまえ! ワガハイのわずらわしさを思い知れ!」
すると、ユーキ君は容赦なく花粉を当てられてしまいました!
「ユーキ君⁉」
「ダハハハハハハハハッハハハハっ……ハッ⁉」
『何すんだ、この野郎! 花粉症になるだろ!』
ユーキ君は砂場に作った山のような花粉から飛び出してきて、無事でした!
「な、なぜ効かないんだ⁉」
『知らねぇ! そもそもなぁ、なんでこんなことするんだよ!』
「そんなの、ワガハイの優れた遺伝子を後世まで残すために決まっているだろ! ここの植物はいいぞ! 勝手にワガハイの花粉を受粉してくれるんだからな! しかも、お前らみたいないい養分もたくさんあるからな~!」
『ふっざけやがって! 無理やりやってるだけだろうが!』
「うるさい! 抵抗などの意志を持つほど進化してないんだからいいだろ! ハハハ! わざわざ人格排他させなくてもこんなに思う存分ヤレるとは思ってもみなかったわい!」
『抵抗してないんじゃなくて、出来ないんだよ! ん? ちょっと待て、お、お前、実質、子種まき散らして無理やり孕ませてるんじゃねぇか!』
指令室は、思わず静まり返りました。司令官の咳払いがそれを破りました。
「……ハッ⁉ た、確かに、フフ、他の植物や生物に無理やり自分の遺伝子を埋め込んで繫栄させるとしたら……た、確かに、その通りよ! 強制孕ませ変態おじさんよ……!」
「は、博士⁉ な、なんでテンション上がってるんですか⁉」
すると、ウォープラントはウネウネとツタや根っこを蠢かせて大笑いしました。
「そうだ! 楽しいぞ~! ワガハイの遺伝子を残せるのだ! 感謝しろ! そのくだらない命をワガハイの優れた生命力の母体に出来るのだからな~!」
『ふっざけんじゃねぇぞ! ドフール、気合を入れろ! もうひと頑張りだ!』
「まって、今、ドフールは苔に……」
すると、ドフールの全身を覆って、細部まで生え渡って動けないようにしていた苔とツタがはじけ飛んで、綺麗なドフールが現れました!
「な、なに! あんなに厳重に隅々まで張り巡らせたのに……⁉」
『おお、心なしか、植物のビタミンと食物繊維で綺麗になった気がするぞ!』
「そんなわけあるか、機械だぞ! それならば、お前の方を食い尽くしてやる!」
しかし、ドフールは飛び上がり、ユーキ君を掴み上げて、彼を搭乗させました!
『よくもコケにしやがったな~! 俺たちの方がツヨツヨなのを理解らせてやるぜ!』
「そうはいくか! 間抜けが!」
すると、飛行しているドフールに向かって、容赦なく毒性のある花粉の一撃が発射され、ツタの鞭が自由を奪ってやろうと伸ばしてきました。
しかし、ドフールは空中で駒のように回転して、花粉を吹き飛ばし、ツヨツヨアックスで襲い掛かるツタを粉々にしていきます。
「それ、かかったな!」
すると、ウォープラントは地面や天井の枝に紛れ込ませていた木の実を爆発させて、巨大な種の弾幕を避けきれないほど放ってきました!
「ユーキ君! 避けきれないほどの弾幕が来るよ! あ、下からツタで捕まえてくる!」
『了解!』
しかし、ユーキ君はいい返事をしたのに、巨大種弾幕を避けている隙を狙われて、巨大なツタに四肢を掴まれてしまいました……!
「かかったな、この売れ残り童貞が! そのまま引き裂いてダルマにしてやる! ギャハハッハ! 女体にやるのには抵抗あるが、野郎なら別にどうとでも殺せるぞ~!」
『かかったのはお前だ、拗らせ野郎!』
「なんだと……ぉっ⁉ あ、あちィ~⁉ ワガハイの体が、も、燃える~⁉」
モニターを見ると、ドフールの温度が上がって行きます……。まるで太陽みたいに!
「こ、こうなったら、その熱を利用して光合成して、復活するまでだ……!」
『そうはいかせねぇぜ!』
「あちちちちちいちいち⁉ な、なんだ、これは~⁉」
指令室では博士が分析していました。
「光合成してやろうとしたのに、温度が高すぎて適応できないのね! しかも、なによ、これ、ドフール、アイツだけを蒸発させて、地球には影響を与えない気だわ! 相手だけを燃やし尽くす、太陽にも匹敵する純粋なエネルギーになってる……! 強力なのに正確、ドフールの本領を引き出しているわ……!」
「ユーキ君……そんなことして……すごいことして、大丈夫なの……⁉」
モニターに映されているドフールの状態、何よりユーキ君のバイタルも安定しています。太陽そのものとなって操っているも同然なのに、大丈夫なようです……。
ウォープラントはあまりの熱さに思わずツタを離そうとしたようですが、ドフールはそうはさせまいと自分を捕えていたツタを強く握って離しませんでした。
『ったく、いい歳して焦って無理やりヤルとか、ふざけんじゃねぇぞ!』
「いい歳だと⁉ ワガハイはまだ地球人換算で、えっと……二十七だ!」
『え、マジかよ、老けてんな……』
「老けてない、枯れてない! 見ろ、こんなに青々として真緑だろうが!」
『じゃあ、その葉は乾燥させて茶葉にして、幹はわざと海に流して流木にして、芸術家が使う材料にしてやる、それとあれだ、あの、金持ちの家にある置物! あれにしてやる!』
さらに火力を強めて、ウォープラントを苦しめます……。生き地獄では……?
「なんじゃ、そりゃ! おい、ふざけるな! あちちち、乾く、枯れる、燃える……⁉」
『くらえ、お前を根こそぎ燃やし尽くしてやる! ドフール・サンファイア!』
「ギャアアアア~っ! や、やめろ、許してくれ~! 次から合意の上でヤルから!」
『おう、やっとわかったか』
ドフールはサンファイアを解いて、うなだれているように花を下ろしているウォープラントを見下ろしました。
『そもそもなぁ、無理やり大人数とスルより、何時間でもかけてよぉ、お互いに思いやった相手とヤッタ方がいいだろ! そっちの方が時間かけて苦労した分、幸せじゃないか⁉ そんくらい、お前くらい強いヤツなら出来るだろうが、アホが~! もっと強いところを見せれば、振り向いてくれる誰かがいるかもだろ!』
「ぬぐ、そう言われれば、た、確かに……そうだな。ワガハイは受粉させて自分の遺伝子を残すことしか考えていなかった……。幸せについてなど考えていなかった……。うむ、ワガハイはこれから、合意の上でヤレる相手を探すとしよう……」
『おう、わかったか。それはそれとして……サンファイアアアアアアア~!』
ユーキ君がそう唱えると、ドフールの体から凄まじい量の熱風と波のような炎が吹き荒れました。それは、太陽のプロミネンスのようでした……!
「ぬぐああああああああっ⁉」
「……や、やっぱりやるんだ⁉」「結局燃やすんかい!」
そして、ドフールの必殺技により、ウォープラントは塵も残さずに燃やし尽くされてしまいました……。もうすぐで世界中を養分にしてしまうところだった禍々しい木々や花々がなくなり、ツタや木の根に食い破られてボロボロにされた都市が露になります……。
「こ、こ、この、この、えっと……ああああああ~!」
『よぉ、ずいぶんと伸びしろがありそうな姿になったな!』
そう言って地上に降りたドフールが抱えたのは、その両手で抱えられるほどの大きさの巨大な種でした……。燃やされて種にまでなってしまったウォープラントです……。
『さて贖罪の手始めに、お前が辱めてきたこの地球の植物の手助けをさせてやる!』
「は⁉ 意志も持たないこいつらの役になんざ……」
『黙れ、いいからやれ~!』
「わかったわかった、いや、するとして、何をだ⁉」
ドフールは種になってしまったウォープラントを連れて世界中を飛び回ります。
『よし、お前の植物を操るパワーで、畑や燃やされた森林の育ちをよくするんだ、あと、防虫も頼んだぞ!』
「はぁ⁉ だからな、言葉も話せない輩なんかにそんなことが……」
『いいから分かり合ってやれ~!』
「ぬあ~⁉」
そして、ドフールはウォープラントの能力で、世界中の畑や森林などを助けて回ったのでした……。
災害で破壊された農園、害虫に食べつくされた畑、心無い人によって燃やされた山々や森を、従わせたウォープラントの力とドフールの謎の機能で治し、救って行きます……。
さらには、食べきれない量にまで実った食物を、それが必要な人々や生物のところに配って回るのでした……。
さらにさらに、花粉を感染させて眷属に改造してしまった人々や動植物を、逆改造して元に戻してあげていました……。
「うわ、特に生態系とかにもしっかり問題や不具合がないように調整しているわ……」
「す、すごいよ、ユーキ君、ウォープラント君……」
「あ、本当か⁉ じゃあ、ぜひ、ワガハイのタネを……」
『ふざけんなっ!』
ド~ン! と、基地中に地響きが鳴り響きました。
モニターで確認してみると、地上の着陸台に、ウォープラントが叩きつけられてめり込んでいたのです……。
「ちょ、ちょっと! なにすんのよ、ウルトラザコ! ちょっと見直したと思ったのに!」
『あ、ご、ごめん、博士……床壊しちゃった……』
「……ま、まずワガハイに謝れ~!」
ユーキ君は、今日も無事に世界を救って帰って来てくれました……!
今日も、ユーキ君の元に迎えに行きます。そして、思わず抱き着いてしまいました。
「お、おかえりなさい、ユーキ君……」
「おう、ただいま。正直どうなるかと思ったぜ」
「う、うん……お疲れ様……」
彼の顔を見上げて、見つめてしまいます……。
「おおっ、やはり、君がコイツと話させるために、ワガハイの中に入ってくれて褒めてもくれた方ですな! じゃあ、今度はワガハイが……」
すると、ドフールが遠隔操作で何か言っていたウォープラントを蹴り上げました……。
「うごあっ……す、すいません……」
「あ……ツヨツヨアックス忘れた! ごめんね、またすぐ帰ってくるから!」
「え、あ、う、うん! だけど、その、隊員さんに……」
「いや、自分の失敗は自分で挽回させてくれよ。じゃ、すぐ戻ってくるから!」
「う、うん……」
そして、またユーキ君はドフールに乗って、ツヨツヨアックスを取りに戻って行きました……。忘れ物を取りに行くだけなのに、もう寂しく感じます……。
「……。あ、ま、待って、ユーキ君……!」
我慢できず、もっと何か話したくて飛び立とうとするドフールを止めようとしましたが、ユーキ君の操縦するドフールはフワっと飛び立ってしまいました……。
一時間くらいでしょうか?
私はソワソワしながら空を見上げて、ドフールが帰ってくるのをまっていました……。そのすぐそばでは何か怒鳴っているウォープラントが、博士の操っているロボットたちに運ばれていますが、私はきにしてませんでした……。
「……あっ⁉」
すると、ツヨツヨアックスを持ち帰ってきたドフールが帰って来て、ユーキ君がサッと降りてきました。
「いや~。ドフールなら世界一周もあっという間だな……」
私は後ろから駆け寄って、ギュッと彼に抱き着いてしまいました……。彼に頬ずりしてしまいます……。
「おい、なんだよ、五分も経ってないぜ?」
「た、体感、一時間だったんだもん……」
「おい、なんだよ、そんなに俺のことが恋しかったのかよ?」
「うん……」
「え……。マジか、嬉しいぜ……」
視線を感じますが、気にしないで向き直った彼に抱き着きます。
博士とウォープラントが見ていました……。
「なあ、ワガハイたちは何を見せられてるんだ? ……まあ、それはそれとして、そこの小さくて可愛いお嬢さん、ワガハイの葉っぱで紅茶でもいかがかな……な、なっ⁉」
ボー! 博士が発明の一つである小さなライターから凄まじい炎を飛び出させます。
「あちちちちいちちちちっ⁉」
「うるさい、ヨワヨワザコ子種おじさん! ナンパがあからさますぎるわよ! ……もう、なんでエレベーター動かないの……! ボクだってあんなイチャイチャ見たくないわよ!」