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第四話 泣きたいのは、親御さんじゃない?

 早朝。

 私は戦闘報告書のまとめなど、いつもの事務作業を行っていました。

 昨日の夜は、久しぶりに自室で眠りました。彼が眠ってしまった後、彼が二度と目が覚めなかったらと怖くなって、逃げるように出て行ってしまいました。

こうして作業をしながら思い返すとそんなことはありえないのですが、その時は本当に怖かったのです。その恐怖に負けずに、そんなときのためにそばに居るべきだったのに。

 なぜ、彼といると幸せなはずなのに、こんなにもつらい思いをするのでしょうか? この矛盾した感覚に、これからどうやって耐え抜こうか、わからないでしました。

 私は、報告書に昨日の戦闘結果と、司令官が行ったワットラット君の尋問をまとめていました。

 ワットラット君は、本当に地球に宣戦布告を送ることをテレパシーで依頼されて、直接黒幕と会ったわけではないそうです。その次は、今度はオメガザウルス君の義体に忍び込んで、彼がやられた時のための、いわゆる保険のために遣わされたのでした。報酬は、特になし。


「何の報酬もないのに、承諾したのか?」と、司令官。

「ビギャいや、頼まれたらするものだろ、仕事って……」

「ワットラット、お前はただ命令に従って、仕事をするだけの存在でよかったのか?」

「……。……。ビギャアああああああ~……⁉」


 オメガザウルス君やワットラット君のような強力な存在を簡単に従わせることが出来る侵略の黒幕とは、本当に何者なのでしょうか……。せっかくその敵の一人とも話せるのに、その敵でさえ黒幕のことを知らないなんて、もどかしく感じます……。





「へへっ、うわ~。バッカだな~……」


 ワットラット君は、司令官にどんな説得をされたのでしょうか、電子機器のデータ管理やデスクワークの手伝い、基地の設備を管理するお仕事を任されていました……。

世界中に拡散されているネコ動画を見ながら、簡単にタスクをやってのけるので、私も助かっていますが、本当にいいのでしょうか……。それに、ネズミなのにネコがお気に入りみたいです。


「いや~。あの野蛮人がオレサマをこき使ってる時に教えてくれたのだから、どんなえげつない内容かと思ったら、こんな愛くるしいなんてな~」


 ワットラット君によると、ユーキ君は彼を無理やり従わせながら、『どれだけ自分の労働が尊い命を救っているかをあとで教えてやる』と言いながら、ネコなどの可愛らしい生物のことを教えたそうです……。

 ユーキ君、ネコとか好きなんだ……。私には話さなかったのに……。なんか悔しい。


「……ネコちゃん、好きになったの?」

「ああ、こんなにかわいい生物が住んでる星を滅ぼしてデータ化するなんて、オレサマもバカなことをしちまったぜ……」

「……この星には、もっといいものがいっぱいあるから、亡ぼしたりしないでね。……ごめん、じゃあ、あとはお願いできる?」

「おう、任せとけ~。うお、なんだサーバル? 何が違うんだ……うお、スゲっ……」


 オメガザウルス君もワットラット君も、ユーキ君に影響を受けている気がします……。

 動物好きですっかり働き者になったワットラット君が手伝ってくれているとはいえ、やっぱり疲れます……。


「おはよう、お疲れ様! モエコもネズ公も朝からありがとうな」

「あ、ユーキ君! へへ、おはよう……!」


 思わず立ち上がって、彼の元に歩いてしまいました……。彼は、作ってくれた朝食を持ってきてくれました。どうしよう、彼がいるだけで、疲れが吹っ飛んじゃうなんて……。


「仕事、どう?」

「うん。あとは、その、ワットラット君がやってくれるから、もうユーキ君といられるよ?」

「マジか、お疲れさま。あ、そうだ。おう、ネズ公、世界一有名なネズミで検索してみな」

「なんじゃそりゃ……。うお、オレサマと似たような奴いるじゃねぇか! へへ、すげ」

「そっちかよ……まあ、いいや。じゃあ、行こうぜ、モエコ?」

「うん!」





 今日は、もしもドフールで飛行中に海に落ちてしまった時のための、水泳訓練です。以前から行っていましたが、改めて行うことにしました。

 この支給された水着、む、胸とお尻が、やっぱりキツイ……。なんだろう、だけど、これ以上大きくしたら、私の身長のサイズないし……。特注とかなんか嫌だし……。

 すごい、記録更新してる……。泳ぎも早いし、潜水時間も長いです。もしかしたら、プロの選手になれていたかも……。フフ、へへ……。

 私はカリキュラムや訓練を組んで指導するだけです。彼に合わせて、自分で言うのも何ですが、完璧で過酷な訓練を組んでいます。ですが、自分がそれを行うとしたら、絶対に出来ないと思います……ユーキ君だからできるのです。自分でもできないことを訓練でも強いるのは、やっぱり、なんだかひどい気がします……。

 彼がプールから上がってきました。


「……お疲れ様! はい、タオル。へへ、記録更新だよ!」

「おう、ありがとう! これで海に落ちても平気だな!」

「やめてよ、縁起でもないなぁ……」


 彼の引き締まった肉体には、あまり目立ってはいませんが、無数の傷跡があります。明らかに修羅場を潜り抜けてきた感じものです。初めて見た時には気づきませんでしたが、一緒にいて面倒をよく見ていくうちに、些細な変化や特徴にも気づくようになってしまいました……。

この傷が、増えないようにしないと……。

 きっと、私の指導能力が高いから彼が優秀なんじゃなくて、彼が今までいろいろな経験をしてきたから強いのだと思いました。それなら、もっと優しくしてあげないといけないんじゃ……。そう思ってしまいますが、世界だって大事なので、彼にはそれなりに厳しく接しないと……。

だけど……。


「……ね、ねぇ、ユーキ君。その、訓練、大変じゃない?」

「いや、全然。モエコが組んでくれたんだから意味があることだろうし、大変でもやるぜ」

「そ、そっかぁ……。うん、それならいいんだけど……。その、つらいこと、ない?」

「え、つらいって?」

「その、ほら、今までずっと世界中を旅してたんでしょ? だから、その、この基地に閉じ込めるようなことしちゃって、その、イヤじゃないかなって……」

「あいや、むしろ落ち着ける場所が出来てよかったと思ってるぜ」

「……ほ、本当⁉」

「おう。俺、世界中フラフラして、いろんな人と繋がり持てたけど、どこにも居付けなかったからさ。そんなだから、そこであった人とももっと親密になれなかったんだよ。どうせ、別れちゃうからな。だから、落ち着いて居付ける場所とか、仲良くできる人とか、憧れてたんだ。だから、今、モエコたちとここで暮らしているの、満足だぜ?」

「そ、そっか……」


 その本心からの言葉を聞いて、私はホッと安心してしまいました。

よかった、彼をここでの生活を気に入っていんだ。

 ですが、彼と私の感覚は真逆だと感じてしまいました。彼は自分の気持ちがハッキリしているのに、私と来たら……。彼との間に、漠然とした距離のようなものを感じてしまいました。こんなに近くにいるのに……。


「そう言うモエコは、どうなの?」

「わ、私?」

「おう。外に遊びに行きたいな~。とか、ないの?」

「私は、その、別に……平気だよ? お父さんとお母さんとも、連絡取れてるし」

「おお、そうか。けど、本当? ちょっと違うけど、似たような感覚だったりするのか?」

「わ、私は、私は……その……えっと……話しても、いいかな?」

「おう。……よかったら、座る?」

「座る? ……⁉ うん、じゃあ……」


 気が付いたら私は、いつものように彼の胡坐に座って腕に包まれました……。どうしよう、落ち着いてしまいます……。


「……で、聞かせてくれよ、モエコのこと」

「……うん。わ、私はね、むしろ、その、人と話すのが苦手で、あんまり外には出ない方だったんだ。だ、だけど、人の役には立ちたいって考えてたの。へ、変だよね……誰かと関わるのが、何があったわけでもないのに、苦手だなんて……」

「いや、そんなことねぇよ。それでこそ、人それぞれだし、俺とも博士とも司令官とでも話してるじゃん。ほら、俺のこと探して世界中渡り歩いてたんだろ?」

「う、うん……。だ、だから、どちらかと言えば、私はあんまり、その、嫌いなわけじゃないけど、ここにいても平気かなって……」

「おう、そうか。それならいいんだけどよ、話してくれてよかった」

「う、うん。私も聞いてもらえて、よかった……」

「おう。……けど、俺はちょっと変わったわ。俺、モエコとならまた旅してみたいな……」

「た……旅⁉ 一緒に……?」

「おう、モエコとならいい旅できそうな気がするぜ」

「う、うん……。わ、私も、ユーキ君と一緒に、旅、したい!」


 気が付くと、私は気持ちの勢いのまま、ユーキ君を押し倒してしまっていました。そして、彼をジッと見つめてしまいます……。

 な、なんてことをしているのでしょうか、私は……⁉ こ、こんな格好のまま! 今までで一番危ない感じじゃないですか! 


「ご、ごめんなさい! わ、私、その……あのっ、ううっ……」

「へへ、博士に見られたらまずいな……」

「うあああああああああっ⁉」


 するとそこに、博士が走り込んできたので、私たちは慌てて立ち上がりました。

 ですが、博士はそのままこちらの様子も気にしない勢いで突っ込んできたので、ユーキ君が優しく受け止めてあげました。そして、抱き着いている博士を撫でてあげます……。


「おう、博士、どうしたの?」

「切り替えが早いぃ……。ほ、本当にどうしたんですか、博士?」

「どうしたもこうしたもないわよ! うううん~!」

「なんだよ、司令官が遊んでくれなかったりするの?」

「そうよ! ずっと帰ってこないし! 連絡しか寄こさないし! おじさんならおじさんらしく、長ったらしくて絵文字が無駄についた文章くらい寄こしなさいよ! 既読スルーで、返事来たかと思ったら、何が『まだ帰れん』よ! うえへ~ん……」

「そうか~。それは寂しいなぁ……」

「も、元はと言えば、アンタのせいよ!」

「俺ぇ⁉ まあ、確かにそうかもな……めっちゃ街も壊したし、世界中の機械弄っちゃったし。よし、わかった。俺が遊んでやるよ! モエコもするだろ?」

「え、あ、う、うん……」

「ふん! じゃあ、付き合ってもらうわよ、ザコたち!」


 そうして、水着から着替えてあと、始まったのは、ゲーム大会でした。オメガザウルス君もカプセルの中から、彼の手に合わせた専用コントローラーで、ワットラット君も壊れない程度にコントローラーに入って参加します。


「おい、なんじゃこりゃ!」

「おい、オレサマは直接入り込んでんのに⁉ どういうことだよ!」

「すげ、はじめてやったけど奥深いな~」

「へへっ、ザコ、ザ~コ! 開発者の私に勝てるわけないでしょ~!」

「ウソだろ、このゲームの神じゃねぇか、マジで勝てるわけねぇじゃん!」

「クソ、ハッキング出来ねぇぞ、ビギャギャ~!」

「うわっ、負けた⁉ ふざけやがって、ガオガ~!」

「へっへ~ん! ザコ、ザコ、ヨワヨワ~! 不得意分野だとアンタたちザコね!」

「うお、くらえ、博士! 大人のパイロットのすごさを、理解らせてやるぜ!」

「そうはいかないわよ! フウ~、ペロッ、ハムっ……!」

「……⁉ な、なにすんだよ、現実での攻撃はナシだろ!」

「へっへ~ん、コショコショとペロペロと甘噛みだけで最下位まで急落なんて、さすが童貞!」

「……⁉ い、いえ、本番はここからです!」


 その様子を見てしまった私は気が付くと、画面を凝視してコントローラーのボタンを叩きながら、黙って集中してゲームを楽しんでしまっていました。


「え、う、ウソ⁉ これ、ボク死んじゃうやつじゃん……いや、デカすぎる、耐えられないってぇ! で、でちゃう、もう、壊れりゅう……! や、やめっ、らめっ~……」


 私が優勝しました。我ながら、お、大人げない……。


「へへへ、すごい、やるじゃん、モエコ!」

「う、うん……ふふっ、へへっ……」


 さりげなく、ちょっとユーキ君と距離詰めてみちゃいます……。フフッ……。


「ビギャっ⁉ オレサマ、最下位かい⁉」

「ガハハハハっ! ハッキングまでしてやられるとか、マジで、アナログ? だな!」

「うるせぇ、お前だってこの野蛮人にまた負けて四位じゃねぇか!」

「ぬぎぎぎぎぎっ~! 次は本気だやるわよ! 負けたやつは脱げ!」

「おい、博士、精神攻撃してもそうはいかねぇからな。あと、博士ほとんど脱ぐものねぇじゃん」

「アンタは効いたでしょ! ……って、うわ、ふうん、よく見てんじゃん、ホント、素直ねぇ~! 子どもに本気になって、恥ずかしくないの~?」

「おう。こんなに本気にさせてくれる子どもと戦えるなんて誇りだぜ」

「……なっ⁉ ふ、ふうん。そ、そう……あっそ! じゃ、二回戦行っちゃうわよ~!」


 こんな日がずっと続けばいいなと思ったその時、私は悪寒がしました……。

 な、何か良からぬことが起こっている気がします……。

 すると、警報音が鳴り響きました。どこかに侵略者が現れたようです!


「シャアッ! モエコ、博士、俺はドフールで行く!」


 切り替えが早いです……。感心してる場合じゃありません!


「う、うん! 頑張ってね!」

「ウルトラザコ、とっととやっつけて来るのよ! そのあと、またやるからね!」

「おう!」


 そして、私たちはあっという間にそれぞれの位置につきました。もう、こんな緊急事態にも慣れてしまいました……。

 すぐにどの位置に侵略者が現れ、何が巻き起こっているのか確認し、モニターに映し出します。

 街に大津波が押し寄せて、建物という建物を飲み込んで破壊しています……!


「モエコ隊員、状況説明」と、いつの間にかやって来ていた司令官。

「うわっ、は、はい! 地震でもないのに、原因不明の大津波が巻き起こって街が洪水、激流が街を押し流して破壊しています! ですが、怪獣らしきものは見当たりません……。ですが、このままだと、世界中が海に沈んでしまいます!」

「おそらく、奴は海中にいるに違いないわ。そこから何らかの能力で津波を巻き起こしてる! だけど、ドフールに潜水能力はないし、水に入ったら沈んじゃう……」

『けど、俺は行くぜ』


 ユーキ君は、いつもどおりもうドフールに乗り込んで、指示を待っていました。


「ゆ、ユーキ君⁉」

「……出撃させろ。敵が来たら姿を現すかもしれん」

「り、了解! ユーキ君! 発進して!」

『了解! ユーキ、ドフール、出撃!』





 そして、ユーキ君の操るドフールは発進しました。津波に襲われ、破壊されていく大都市に。

 ドフールが体力温存のためにロケットエンジンで飛行していると、突然、あたりの気温が下がり始めました。かと思いきや、真冬のような寒さと強風と雨やあられが巻き起こります! そして、街を飲み込んでいた津波が凍ってしまいました……!


「……気温、一気に氷点下に到達! このままだと、飛行不可能なほどです! このまま飛び続けたら、墜落しちゃいます! ゆ、ユーキ君……!」

「ドフールのロケットエンジンが凍っちゃうわ! 敵は、空気中の水分も操れるのね! けど、ドフールの中の暖房は限界だし、凍って動けなくなるかも……撤退した方がいいわ!」

「は、はい! ユーキ君……」

「いや、ダメだ。行かせろ」

「し、司令官⁉」「何言ってんのよ⁉」

「彼はまだ出来ないと言っていないだろ?」

「そんな……。ゆ、ユーキ君……エンジンが凍って、飛行できなくなっちゃうの。敵の様子も分からないし、見えない。だから、帰還して!」

『……え、じゃあ、泳いで探せばいいと思ってたんだけど……』

「だから、そんな構造になってないって言ってるでしょ! 機械工学的にも物理学的にも、化学的にも無理なのよ! 不可能なの! 凍死してもおかしくないのよ!」

『けど、このままだと、世界中が飲み込まれるかもなんだろ?』

「だ、だけど……」

『あ、凍った! 寒い! 南極にアトランティス文明の発掘調査のバイトに行った時と同じくらい寒い! それ以上だ!』


 ドフールの温度が低くなっていくのが、モニターで分かります……。ドフールが、凍って行きます……⁉


「そんな⁉ ゆ、ユーキ君! 戻ってきて!」

「そんな! 早すぎるわ! 今回の敵は、意志の力で水分の温度まで変えられるというの!」

『あ、落ちる⁉ ……うおおおおおおあっ⁉』


 ユーキ君の登場するドフールが真っ逆さまに津波に沈んだ都市に落ちて行きます……!


「ゆ、ユーキ君⁉」


 しかし、ドフールは凍っているはずなのに、サッと地響きを鳴り響かせて体操選手のように着地しました。そして、それらしいポーズをとっています……。


「ゆ、ユーキ君……」

「いや、まずいわよ! そんな勢いで着地したら、割れちゃうわ!」


 博士の発言にハッとしていると、ドフールの足元の氷が割れて、ザバンと、水に沈むあっという間に何もかもを凍らせてしまうほどの都市に落ちて、沈んでしまいました……!


「ゆ、ユーキ君⁉ へ、返事して!」


 すると、とんでもないことが起こりました。どんな機械も圧倒間に凍ってしまうはずなのに、ドフールはそのまま余裕な様子で動いて、開いてしまって穴の外にあがってきたのです……!


『ふう、ドフールじゃなかった凍死してたぜ……』

「ゆ、ユーキ君⁉ 動けるの⁉ 大丈夫なの?」

「ウソでしょ⁉ 絶対零度の環境下よ! 全ての物質が凍ってしまうくらいなのに!」

『おう。だけど、意外と暖かいぜ。ちょっと寒いくらいだよ』


 私は、少し笑いがこもっているユーキ君の声に安心してしまいました。彼の声を聞くと、自然に笑顔になって安心して、ホッとしてしまいます……。


「うわああああん! ひどい、凍れよ! なんなんだよ~!」


 その悲しそうな声が、突然聞こえてきました……。


「……だ、誰⁉ もしかして、怪獣⁉」

「は? 何言ってんの、ヨワヨワモエコ犬?」


 すると、凍っていた大都市の津波が急に液体になって溶けて、再び世界中を飲み込んでしまうほどの勢いの津波や渦潮が巻き起こりました。

 それに、ドフールは飲み込まれて、どこまでも押し流されてしまいます……!


『うおわあああっ⁉ 流される~!』

「ゆ、ユーキ君……そんな、このままだと、水びだしになって、死んじゃう! ユーキ君、脱出して!」

「待ちなさい、このまま外に出ても、その水圧と水流に、ウルトラザコもドフールも砕かれてしまうわ! 早く、本体を探さないと……な、なによこれ! この水流、何もかもデタラメ! 計算しても、どこからどう人為的に起こしているのか、自然現象だとしても矛盾が出るわ! 本当に、何者かの意志の力で起こしている現象なんだわ! なんなのよ、計算できない! まるで、生きた水だわ! 名づけるなら、ライブリキッド」

「そんな、じゃあ、敵の位置とか、わからないんですか?」

「ぬぐぐぐぐぐぐぐっ! そ、そうよ……。う、うわああああん!」


 可愛そうな博士の泣き声に勝るとも劣らず、また誰かの泣き声が聞こえてきました……。


「怖くて凍りつきそうだったのに、頑張って凍らせて封印してやったと思ったのに、ひどい、ぼくの頑張りを無下にした! ひどいよ~!」


 間違いありません! 発言からして、この声の主がこの状況を引き起こしている、今回の侵略者です! 

 ですが、どこに居るのかわかりません……。見つけられたとしても、ユーキ君をこれ以上危険な目に遭わせるわけには……それに、今以上に危険な状況があるでしょうか⁉


「え、ゆ、ユーキ君?」


 その様子に、私は驚いてしまいました。

 ドフールが、激流に逆らいながら、滝を登るコイのように、いえ、そこから昇華して竜になるかのような勢いで、泳いでいるのです! まるで、大きくなったオリンピアンの水泳選手のようでした!


「ゆ、ユーキ君……⁉」

「ぐすっ、ううっ……うえぇ⁉ ウソ⁉ そこまで人体的な構造してないわよ! てか、人間に例えても、そんなことできるわけないのに!」

『うおおおおおおっ! 俺は社会と物理的な荒波にも負けねぇ~!』

「ひぃ~! まだ来るよ~! いいかげん、溺れじねぇよ~! 凍れよ~!」


 その声とともに、また津波がやって来て、水分を凍らせ、さらに激流が襲い掛かりますが、ドフールはその勢いを止めません……!

 ですが、敵の姿も見えないのにどうすれば……。


「モエコ隊員、何か感じているのか?」と、司令官。

「……は、はい?」

「その直感で、パイロットを導け。なぜ君が選ばれたのか、よく考えろ」

「わ、私が、なんで、選ばれたって……」

「君は、良くも悪くも、他人のことをよく考え、察知する力に優れている。だから、君をオペレーターに選んだのだ。……やれ、君の本当の実力を発揮しろ」

「は、はい……やってみます……や、やります!」


 私は、どこかで叫んでいる生きた水の怪獣、ライブリキッドの声に耳を傾けました。


「うわああああっ! すごいしつこいよ! なんなんだよ~! 街を沈めて自分のモノにしていいんじゃなかったのかよ~!」


 彼の不安の声が聞こえて、彼の場所が分かったような気がしました。私は、その座標のデータを、ドフールで頑張って泳いでいるユーキ君に送りました。


『お、なんだ? ここに、奴がいるのか⁉』

「う、うん! 行ってみて!」

『よっしゃ!』

「ちょっと、待ちなさい、ぐすっ……! ドフールは潜水艦じゃないんだから、そんなに一気に行ったら、深海の水圧に押しつぶされちゃうわよ!」

『わかった、頑張ってみるぜ!』


 はたして、ユーキ君の思考に呼応して、ドフールは深海の水圧に耐えながら潜り泳ぎ、ライブリキッドの元へ向かうのでした!


「た、耐えてる~! やった! すごい、ツヨツヨ!」


 モニターには、その座標に向かうドフールから見た深海の様子が映し出されます。

 そして、ライブリキッドの真の姿が明らかになりました。まるで氷の結晶のような姿をしています……。顕微鏡で見るような結晶をそのまま巨大化したようです……。


『お前か! よくも都市を洪水で沈めてくれたな!』

「うわああああ! ぼくじゃないよ~!」

『じゃあ、他に誰がいるんだよ!』

「ぼくに命令した奴がやったんだよ~! 実行しているのは確かにぼくだけど、ぼくじゃないよ~! なんなんだよ~! みんなが侵略してるから、ぼくもやったのに、がんばったのに~! ひどいよ~!」

『頑張りどころが違うだろうが! その周りに流されやすい精神、俺が叩き直してやる!』

 そして、ドフールはその拳で何度も平手打ちを繰り返しました……。

「うわ~! 親父にも殴られたことないのに! あ、だけど、親父を殴ったことはある」

『なんだと、この、親不孝者が~!』


 ドフールは、今までで一番強い勢いで、ロケットパンチを与えました。

すると、ライブリキッドはロケットが発射するかのような勢いで、海面へふきとばされてしまいました! あんな巨大な生き物が、あんな勢いで跳び出したら津波が起こりそうですが、それもドフールの機能なのか、起こりませんでした……。

 そして、海面に飛び出したライブリキッドもどのような原理なのか、空にプカプカと浮かんで泣き叫んでいます……。


「きっと、空気中の水分を固定させて、浮いているように見えるんだわ……、アイツの感覚からしたら、水分の上に立っているって感じかしら……」

「な、なるほど……」

『俺はコイツの態度に腹が立ってるぜ……』


 そう言うユーキ君が登場しているドフールは、海面にメインカメラであるヘッドを出して、頭上のライブリキッドを見上げていました。


『なんで自分の父親を殴った? 言え!』

「いや、ぼくも流行に乗って、魔女さんが広める侵略ブームに乗ろうとしたんだよ、そしたら、親父、普段なんでも賛成してくれるのに、あの時だけ反対したんだ! だから、殴って、無理やりここに来たんだ! うわああああああっ!」

『あ~! くらえ~!』

「ギャアああああ~⁉」


 ユーキ君の叫びと共に飛び出したドフールにライブリキッドは殴られて、地上にある高層ビルにドーンとめり込むほどに叩きつけられました。それでこそ、隕石みたいな勢いで……なのに、影響を受けたのは高層ビルだけ……。


「な、なんで殴るんだよ! 関係ないだろ!」

『うるせぇ、この愚息が! 自分の子どもが悪いことしようとしたら止めるに決まってるだろ、バカが! お前のことを思って叱ったんだよ、バカ!』


 その様子をモニター越しに見ていた博士がサッと立ち上がりました。


「ちょっと、人間のヨワヨワザコザコ童貞お兄さんにも通用しないそんな説教が、宇宙から来た怪獣に通用するとでも思ってんの? これだから童貞は! 態度は一人前だけど、道徳の理解らせ方はヨワヨワね……」

「……ううっ、や、やっぱりそうかな……?」

「通じた~⁉ な、なんで!」


 水没した都市から頭を出すドフール越しに、ユーキ君のライブリキッドに対するお説教は続きます……。


『おう、心のどこかではわかってたんじゃねぇか』

「ぼく、謝りに行ってもいいかな? 許してもらえるかな?」

『おう。きっと許してもらえると思うぜ。それはそれとして……』 


 すると、ドフールはロケットエンジンもなしに飛行して、ライブリキッドを殴って津波に沈んだ都に叩きつけて、サーフボードの様に乗りました。


「イデっ⁉ な、なにするんだよ!」

『家に帰らせる前に、親に顔向けできるようにその精神を叩き直してやる! まずは俺の言う通りにしろ!』

「ひいいいいいいいいいいっ⁉」


 すると、ドフールは波のような動力源もないのに、ライブリキッドをサーフボードの様に乗りこなして、津波に沈んだ街を周りました。


「よし、今周ったお前が沈めた街の水、全部元通りにしろ! 都市を壊さないようにな!」

『ええええっ、そんな無茶な……』

「黙れ、やれ~!」

「ひひひひひひひひひひひひひ~! 彼、何者~⁉」

『フー・イズ・ヒーってか?』

「うん、それ」

『フハハハハハハッハ!』「あはははははははは~!」

『ごまかすな、やれ~!』

「はいぃぃぃぃ~!」


 すると、ドフールは空中でサーフィンでもするかのように、ライブリキッドを乗りこなしました……。

 すると、モニターではとんでもない様子が映し出されていました……。


「つ、津波が、街を水没させていた水が、引いて行きます! 元通りに……」


 それだけでなく、まるで水没していたことが嘘かのように、カラッと乾いてしまいました。しかも、巻き込まれた海の動物たちまで丁寧に帰らせています……。


「ふわはあ~、助かった! ありがとう~!」


 地上に打ち上げられましたが、海に戻された綺麗な人魚の女の子も、手を振って帰って行きました……。

 ……ん? え? 何あれ? え?


「はぁ、終わった……」

『終わってねぇよ。何後片付けしただけでいい気になってんだ!』

「え、まだ何かあるんですかぁ⁉」


 すると、ドフールはライブリキッドに乗って、世界中を飛び回り始めました……。

ライブリキッドの能力で、洪水や天災に悩む地域から、家の中にまで浸水するような水をひかせ、逆に干上がってしまった地域に水を持って行きます。雨季が来なくて困っている地域に赴いて雨を降らせたり、全てを燃やし尽くす山火事を消していきます。水道が整備されておらず、キレイな水が手に入らないところでは、汚い水をろ過して、十分な水分を持って行きます。北極や南極の溶けてしまった氷河を元通りにして温暖化の傷跡を癒します……。

 水に関する様々なことで困っている全ての地域を跳び回って、その事態を解決して、人々や動植物、世界を完璧に助けていったのです……。

 救われた人々は、巨大な氷の結晶に乗る、謎のロボットに感謝して、手を振るのでした。

 はたして、人助けを終えたドフールは基地に戻ってきました……。そして、ユーキ君がサッと降りてきました!

 私は、あまりの凄まじい活躍に呆然としていましたが、ハッとしてユーキ君を迎えに行きました。


「……ユーキ君!」

「おう、ただいま!」


 また、いつものように彼に抱き着いてしまいます……。

そして、私は感情が押さえきれなくなって、泣きながらポンポンと力ない拳でその硬いお腹を叩いてしまいます……。無事だった彼を見ると、今日のことを振り返ってしまいます。そして、もしかしたら、彼が死んでいたかもしれないことを思うと、怖くて怖くて、仕方がありません……。


「ど、どうしたの?」

「て、撤退って、言ったら、撤退なんです……なのに、なんで行っちゃうの……」

「あ、ご、ごめん! マジで、心配かけちゃって……いてもたっても、いられなかったんだ。言い訳にしかならねぇけど、みんなが津波でやられちまうのが怖かったんだよ……」

「……⁉ う、うん。そう、だよね。わ、わかってくれるなら、もういいよ。お疲れ様。……おかえり」

「……ただいま」


 そのあと、私たちはまた二人きりで抱き合ってしまいました……。二人だけの時間……。


「やめて、熱い、と、溶ける、なくなる、暑苦しい……⁉」

「うわぁっ⁉ あ、ええっ……⁉」

「あ、ごめん、今日も連れてきちまったぜ」


 そう言ってユーキ君がパイロットスーツの胸元から金属チェーンについた認識証を出してきました。

 なんか、ちょっとセクシー……じゃないです! そこには、すっかり小さくなってしまった氷の結晶が、まるでペンダントのようについていました。

 先ほどまで世界を水浸しにしようとしていたライブリキッドです……。


「し、死ぬかと思った……ねぇ、そろそろ、帰ってもいいかな……?」

「あん? 帰すわけないだろ、これから司令官の尋問が待ってるぞ!」

「え、い、イヤだぁ~! 人と対面で話すのも苦手なのに、じ、尋問だなんて~!」


 こうして、今日も世界を守る戦いは終わりました……。





 その後、ライブリキッド君は司令官からの尋問を受けることになりました。博士が作った特注冷蔵庫の中で……。特殊能力が使えない程度の大きさに止めて閉じ込めています。

 私はユーキ君を博士に任せている間に、録音と記録映像を基に文章化した報告書を書きました。

……もうちょっといてあげたい……。


「さて、お前の雇い主について話してもらおう。その後、我々が課す労働を行えば、故郷に返してやろう」

「は、はい! 話します! 話します! ぼくら侵略宇宙人や怪獣をここに派遣したのは、魔女です! 魔女なんです! 逆らえないくらい強いんです、はい!」

「……それは通称か? それとも、そのような種族名か?」

「魔女は、種族の名前に決まっているじゃないですか! 魔女ですよ、魔女! この地球にも一人くらいいるでしょ! ……あ、はい!」

「……ああ。して、その魔女の目的は、侵略と。何故この星を狙うか、わかるか?」

「わ、わかりません……。けど、あのロボット君と回りましたけど、ホント、この星いいところですね! 環境は容赦ないけど、住んでる人たちはなんか、みんなイイ人そうだし」

「……そうかもな。他に、何か知っていることは?」

「魔女さんは、えっと、ウワサによると、この地球くらいは征服できるくらいの力は余裕であるはずです。ですけど、他の魔女さんたちのように、きっと、他人を操って戦ったり、遊ぶのが好きみたいで……あ、なんか、はい。子どもっぽい残酷さを感じましたね、はい。そんな気がします、はい。受け取ったテレパシーだと、そんな印象でした。……はい」

「そうか。凄まじい力を持ちながら、遊んでいると。して、お前もその魔女とやらに直接会ったわけではないのだな?」

「はい、そうです、はい……」

「テレパシーはこちらからは送れないのか?」

「どうでしょうかね……。出来る人は出来るんじゃないでしょうか、はい。素養がある人なら。詳しくは、ぼくもわかりませんけど。人によってはテレパシーを受信しただけで狂っちゃう人とかいますし、はい」

「そうか。居場所はわかるか?」

「えっと、ウワサですけど、水星に住んでるとかって言われてます、はい」

「……。そこから、太陽系外はおろか、銀河系外からお前たちのようなが異星人を呼び寄せていると?」

「はい。ワームホールなのかな~って、思いましたけど、なんか、それとは違う感じがしましたね、はい。なんか、科学的な感じじゃなかった気がします。……はい」


 ライブリキッド君への尋問は続きましたが、これ以上知っていることはなさそうです。

 しかし、黒幕のことは少しわかりました。魔女。一体、何者なのでしょうか……。

 尋問の後、ライブリキッド君は、オメガザウルス君たちと同じところに入れられ、司令官は、各所に話をつけに行ってしまいました。





 尋問の様子を、ユーキ君の診察を終えた、博士にも見てもらいます。

 博士は、納得いかないような様子で、顔を真っ赤にしていました。


「な、なによ、それ! そんなデタラメなことあるわけないわ! 調べに調べてやるわよ! 科学のすごさ、理解らせてやるわ! モエコ犬、付き合いなさい!」

「え、は、はい! もちろんです!」

「ええ。じゃあ、まずは、あなたの頭をね!」

「え……わ、私ですか⁉ ど、どうして……」

「……はぁ、アンタ、本当に頭ヨワヨワなザコね~! アンタ、自分の力にも気づいてないの?」

「ち、力?」


 そんな特別な力があったら、私も嬉しいです。ですが、そんな力はありません……。だから、ここにいるユーキ君に頑張ってもらうしかないのです……。


「……そうか。やっぱり、モエコのおかげだったんだ……。俺たちが、あいつらの言葉が分かったのは。モエコの特殊な力が、会話できるようにしてくれたんだ!」

「え? な、なに言ってるの? ゆ、ユーキ君……?」

「モエコがそばに居ると、なぜか、あいつらの思っていることが分かった。ドフールが君の力を介して、あいつらの気持ちを分からせてくれたんだ。君のおかげで、あいつらと無駄に戦わないで、済んだんだ……」


 彼が、手を握って見つめてきます。恥ずかしいです……。それに、そんな自覚、ありません……。私に、そんな力があるなんて……。


「そう、そういうこと。どういうわけかわからないけど、アンタには、異星人や怪獣とボクたちの会話を成立させる力がある。ボクの予想だけど、魔女があのヨワヨワ侵略者たちに送っているような、テレパシーのようなことが使えるのよ……。だから、アンタのそのテレパシーが自由に使えるようになれば、黒幕の魔女ともコンタクトが取れる、かも、知れないわね……まあ、心配ないわ。そんな危険なことは最終手段だし」

「わ、私が、魔女と、お、同じ……」

「モエコ、怖がらないでいいよ。その、魔女とかいう奴のテレパシーは、あいつらを従わせるためのものだぜ、きっと。だけど、モエコが会話を成立させたときは、あいつらのことを理解したいって思ったからなんじゃないか?」

「……⁉ あ、ああっ……! そ、そんな、気が、するような……」

「そうだよ。君の敵でさえ思いやってあげられる、優しい心の力なんだぜ。だから、怖がることなんてねぇよ。俺たちもいるしな!」

「ゆ、ユーキ君……!」


 テレパシー……。私に、そんなことが出来る力なんて、本当にあるのでしょうか? ですが、もし本当にそんなことが出来るのなら、もっと、ユーキ君のこと、助けられるかもしれません。


「あ、あの、うん! わかりました、博士! 私の能力について、調べてください!」

「うん、このツヨツヨ頭脳でアンタもツヨツヨテレパシストにしてやるからね!」


 そのあと、ユーキ君には出て行ってもらって、博士による精密検査を受けました……。


「あ、あの、その、頭の検査なんじゃ……」

「ダメよ、もしかしたら頭じゃないかもしれないんだから……うわ、アンタの胸、デカっ!」

「や、やめてくださいよぉ……」


 そして、口では言えないような検査の後、やっと本題である脳波の検査になりました。

 ですが、博士の顔はすぐれません……。


「ど、どうしましたか? 何か、異常でも……」

「ううん。正常も正常。むしろ、アンタ、なんかヨワヨワな気が……フフッ、さてはアンタ、テストとか丸暗記でやってきた口でしょ~? せっかく物事覚えてもそれを応用して自分で考えられないなんて、モエコ犬の頭脳は本当にザコね~」

「ええっ⁉ そ、そんな……」

「おい、ちょっと、待て! 忘れ物取りに来たら、聞き捨てならない言葉が聞こえるじゃねぇか!」

「うわ、ゆ、ユーキ君……⁉」


 私は、精密検査のため、下着も同然の姿です。思わず身をかがめてしまいました……。


「お、かかった、どうだ⁉」


 恐る恐る立ち上がってみると、ユーキ君の姿は見当たりません。一方、博士は機器で何かを調べています……。


「あ、やっぱり、脳波があがった! うお、すごい、すごい! ふう~ん」

「あ、あの、ユーキ君は……?」

「ああ、あれはただの音声データから構成した自動生成音声よ。ドフールは声でも反応するかの実験のための物だったんだけどね、ドフールは声だけじゃ無反応だったわ。けど、アンタはやっぱり別だったようね……」

「そ、そんな……あ、あんまりですよぉ……」

「おお、すごい、また脳波が上がってる! ふふん、なるほどね~。大体わかったわ!」

「え、わかったって、何がですか?」

「アンタは、正真正銘、テレパシストよ」

「て……え? テレパシスト……?」

「そう。相手の気持ちを感じ取ったり、心を読んだりできる。アンタの場合、一番目立っている能力は、やっぱり会話ができないはずのあのヨワヨワ怪獣たちの意志を通訳させたことね。だから、あいつら自分が思っていることが全部言葉に出ちゃうし、おじさんの尋問にもポンポン答えちゃうのよ。まあ、それはアイツらがヨワヨワなこともあるからかもね~。アンタは相手の思ったことを直接言葉にさせちゃうテレパシストなのよ」

「そ、そんな……」


 本当に、私なんかがそんな力を持ってしまってよかったのでしょうか? とても怖いです。相手の思っていることを、そのまま言葉にして、他のみんなにも聞こえるようにさせてしまうだなんて……。


「と、いうわけで、アンタとウルトラザコ、ヨワヨワザコどうし、今度、デートしなさい!」

「……? は、はい⁉ な、なに言ってるんですかぁ……⁉」

「モエコ犬のテレパスはウルトラザコのことで頭がいっぱいになったことで覚醒して、あのヨワヨワ怪獣たちとの対話を可能にしたと思われるわ。なら、アンタのパワーはウルトラザコのことを守りたい、とか、一緒にいたいとか、アイツのことを思いやれば思いやるほど力が上がるのよ!」

「わ、わからないような、わかるような……」


 だ、だけど、ユーキ君とデートできるなら、もう、なんでもいいかな……。じゃ、ありません! そんなこと、私たち秘密組織なのに、出来るわけがありません!


「つ、つまり、私の力を訓練するには、もっとユーキ君と一緒じゃないといけないと……」

「そうよ! ん? なに、イヤなの? アイツと一緒にいるの?」

「そ、そんなわけないじゃないですか!」

「あ、脳波が上がった! ふふん、アンタのテレパシーがもっとツヨツヨになれば、これからの戦いにおいてもっとツヨツヨになれるに違いないわ。だから、世界のためにも、もっとアイツのことを大事にすることね!」


 彼に対する気持ちなら、誰にも負けていないつもりです。ですが、自分の力を上げるために、世界のためとはいえ、彼をまた利用するようなことになってしまう気がして、なんだかまた罪悪感が芽生えてしまいました……。


「モエコ犬、アンタ、本当にヨワヨワザコ頭ね!」

「……え⁉ そ、そんな……」

「アイツに悪いんじゃないかとか、思ってるんでしょ? ボクの頭脳はツヨツヨで、アンタの頭はヨワヨワだから、テレパシストでもないのにわかるわよ」

「だ、だって、これ以上、彼に頼ったりしたら……」

「はぁ。いい、今まで、アンタ一人で何とかしてきたわけじゃないでしょ? それに、アンタの力を上げること、アイツが嫌がると思うの? 人助けが嫌いなワルワルお兄さんだと思ってるの?」

「ゆ、ユーキ君は、そんな人じゃないですよぉ!」

「お、ふふん、そうでしょ? それにさっきも言ったでしょ、アンタがアイツのことを思うから、能力が覚醒したって。アンタのそのパワーはアイツへの愛情の現れなのよ」

「あ、ああっ、愛情の現れ……」

「それに、アイツは愛情に飢えてる感じがあるわ」

「え、えっ……?」

「……アイツの他者への優しさや接し方は、飢えているものを他人も欲しがるからだろうっていう、一種の善意から来ているわ。自分は愛されたいから、誰かを愛してあげようって言う……。アイツと同じ……。だ、だから、今までの日々を一緒に過ごしてきたアンタが、そのパワーで世界とアイツを助けることは、アンタが愛情を返してあげたり、与えてやることになるのよ!」

「は、博士……。あ、あの、博士も、もしかして……」

「は、はぁ⁉ そんなわけないでしょ! はいはい、アンタはテレパシスト! はい、アンタの検査はおしまい! アイツのところに行け、ゴー!」


 私は、博士の小さな手で押されて、検査室から追い出されてしまいました。

 私の頭の中で、様々な思考や感覚が混濁していました。

自分がテレパシストという人とは違うという新たなアイデンティティと、同じ思いを抱いているかもしれない博士への罪悪感と共にシンパシー、そして、これから世界を守らないといけないというプレッシャー、そしてそして、なにより、ユーキ君への愛情と恋心がさらに強くなっていく気がします。


「あっ……。私、ユーキ君のこと、好きだったんだ……」


 今さら自覚してしまいました……。せっかく自分の気持ちがハッキリしたのに、余計に何だか苦しい気がしてきます……。


「……ちょっと、ちょっと、ちょっと、このザコモエコ! なんて格好してんのよ!」


 追いかけてきた博士の方を振り向くと、博士は私の服を持ってきていました。え、と、言うことは、今の私は……下着姿でした。そのことに今さら気づいて、顔から体中真っ赤にして泣き出しそうになり、うずくまってしまいました……。


「いやぁっあ……⁉」

「こっちが叫びたいわよ、自分で脱いだの忘れるなんて、バカなの、ヘンタイなの⁉」

「だ、だって、博士が検査のためって……ううっ……」

「泣くんじゃないわよ、ボクが悪者みたいじゃん!」

「あっ、ご、ごめんなさい……」


 そして、気を取り直した私は博士が持ってきてくれた忘れ物の服を着て、やっと急速につこうとするのでした……。

 ああ、なんか、体中熱くなったら毒素が抜けたみたいにスッキリした……かな? なんだかまだ恥ずかしさの余韻と、ユーキ君への感覚でまだフワフワしたような感覚が……。


「ねぇ、スカート、パンツにひっかかってるわよ……」

「……。……。……え?」

「もう、ボクよりあざといとか許さないわよ!」





 すっかり、彼の部屋で一緒に映画やアニメを見たりするのが日課になっていました。


「大丈夫、モエコ? 疲れてない?」

「ううん。その、えっと、疲れすぎちゃって、逆に寝れないかな……」

「そうか~。お疲れ様、いつもありがとうな」


 そう言うと、彼は頭を優しくなでてくれました。こ、こういうのって、私が本来やってあげるべきなんじゃないでしょうか……? ですが、思わず彼の体に頭を預けてしまいます……。私って、こんなに子どもっぽかったっけ……。

 私がテレパシストだなんて。そんな力に私自身、耐えきれるでしょうか? ユーキ君と見た映画に出てくるエスパーさんたちの苦悩を思い出します。あんな力を持っていたら、自分だったら耐えられそうにありません……。自分が怖くなってきました。あんなに力を求めていたのに、特別であることを望んでいたのに、いざそうなったら、こんなに漠然とした不安に駆られるだなんて、私はなんて自分勝手なんでしょうか……?


「……俺の友達、モエコとは違うけど、一種の能力者だったんだ」

「……え?」

「そいつは別にいいって言ってはいたけど……いや、ごめん、とにかく、何かあったら、俺が出来る限りのことするぜ!」


 もっと聞くか、冗談だと受け流すべきだと思いますが、その時の私は、彼が励まして助けようとしていることが嬉しくてたまりませんでした。ですが、逆にその優しさが苦しいです。私は、そんな資格ないかもしれないのに、私が本当なら彼を助けないといけないのに、これ以上助けてもらうなんて。そして、自分がこの力を悪いことに使ってしまうのではという恐怖と相まって、怖くて辛くて、堪らなくなってしまいました。そして、思わず彼に身を委ねようとしてしまいます……。


「ああっ……。じゃあ、わ、私のこと、怖くないの? もしかしたら、あなたの心も、他のみんなの心も、勝手に見ちゃうかもしれないのに……」

「おう、モエコになら別に、心の声でも本音でもさらけ出してもいいかなって思ってるぜ。たぶん、モエコはその人の心を見たり、会話が出来るようにする力を持つのにふさわしいから、そんな力があるんだよ。それでこそ、博士が凄い知能を持ってたり、あの阿呆どもが世界レベルで脅威的な力を持っていたりな。本当なら、みんなその力にふさわしいことが出来るはずなんだと思うぜ。モエコみたいないい人ならなおさらな」

「わ、私に、なんて、そんな……それでこそ、ユーキ君の方が……」

「ほら、そうやって謙遜して、自分の力のヤバさを自覚できるところとかよ。それなら、きっと大丈夫だよ。使いこなせるぜ、モエコなら」

「あ、ありがとう、ユーキ君……」


 ユーキ君が言うのなら、テレパシーについてもっと頑張ろうとも思えました。ですがやっぱり、私は、ユーキ君にとって、『いい人』で、しかないのでしょうか……。

 せっかく励ましてくれて、今回も秘密を教えてくれたのに、こんなことを思ってしまうなんて……私は、面倒くさい女です……。もっと大人にならないと……。

 いつの間にか、夜も更けて明日になっていました……。


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