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第二話 諦めの悪さと責任感は違うよ~?

 あの侵略怪獣オメガザウルスとドフールの戦いのことは報道されていません。地震などの大災害として報道されています。ユーキ君がもしかしたら死ぬ、世界が怪獣に征服されていたかもなど、誰も知りえません。

毎日痛ましい現場の様子がホロビデオのニュースなどで映されるので、私は罪悪感が芽生えていました。もっと、ユーキ君を上手に導けたのではと。そうすれば、被害はこんなに広がらなかったのではと。

 そんな自分ではどうすることもできないくせに、私はニュースを、訓練の休憩中に見ていました。ユーキ君と一緒に、彼の胡坐の上で……。

ドフールは充電中です。そう、思考ではなく手動で動かすときは、電気で動いているのです。充電にたくさん電力を使うので、いつも地球防衛団は節電中です。最低限の防衛と衛生装置以外、ほとんど起動していません……。暖房もついていません。世界を守るユーキ君が風邪をひいたらどうするのでしょうか。本当に、ここは世界を守るための国際組織なのでしょうか……。

後で、どこかで資金を無駄遣いしていないかチェックしないといけませんね!

なので、あんまり端末の充電を使うようなことはしたくないのですが、その、ユーキ君と一緒に、休憩中に可笑しな動画を見たり、イヤホンを片方ずつ耳にはめて音楽を聞いたりするのが大好きで、ついやってしまいます……。

狭いコックピットの中で、彼の膝に乗りながら。こうしているとすぐそばに彼がいると安心するので……。あ、あと、とても暖かいです……。ユーキ君の匂いがします……。

……ん、え? うわぁ、今さらですけど、な、何でしょうか、この状況⁉ こ、こんなことができるほどの仲でしたっけ⁉ は、博士とか、他の人とかに見られでもしたら……。


「う~ん。なんか役に立てることないかな……。暴れるだけ暴れちゃったしよぉ」

「え? あ、ええっと、いや、ユーキ君は十分頑張ったよ。だから、復興とかは政府とかの皆さんに任せて。ほら、地球防衛団にも戦いの後、いろいろやる部門もあるし」

「う~ん、そっか。だけど、なんか、やるだけやっちゃってこれはさ……」

「うん、私も同じようなこと考えてたよ……。だけど、いつまた来るかわからないから、休めるときは休もう? みんなと世界のためにね?」


 何より、ユーキ君のために。彼がもし倒れでもしたらイヤですからね。……あ、あと、彼がやられたら世界が元も子もないですから。決して、現を抜かしていたわけではありませんから! 

……私は一体、誰に言い訳してるんでしょうか。

 

 私はユーキ君に銃を持った相手に対抗するための防衛術を教えました。こんな状況にまで陥ったらおしまいですし、私もいざそんな状況になってしまったらその通りに動けるかわかりませんが……。

 ユーキ君は、模造銃で武装したアンドロイド相手に、難なくやっつけてみせました。最高難易度に調整したアンドロイドも同様に倒して見せてくれました。本当に、戦闘が不得意な私が教えたのでしょうか……。こんなに早く習得できるなんて。けど、とても誇らしく感じました。

フフ……。


「すごい、すごいよ。ユーキ君。えへへ……」

「おう! モエコのおかげだぜ。すぐその場でやられてもたぶん平気な気がするぜ」

「へぇ~。それなら、ボクのマグナムがこんなに近くに合っても平気だよね~?」


 いつの間にか、ユーキ君の背後に、精巧な模造銃を突きつけた博士がいらっしゃいました。もし本物なら、引き金を引けばすぐにでも倒されてしまいます……!


「フフ、これが実弾だったら、ウルトラザコ、死んじゃうね!」

「くっ⁉ 俺はこの状況でも負けねぇ⁉」


 ユーキ君は叫ぶと、サッと背後の博士の手からペイント弾が装填されたマグナムガンを蹴り上げて飛ばし、それをサッとキャッチして弾丸を装填、博士に向けます。完璧に私が教えた技をマスターしています……。

 しかし、博士はもう一丁模造マグナムガンを持っており、ユーキ君を見下すようにむけます。

 そして、博士とユーキ君の二人は模造銃を向き合わせます。


「ふうん、大人げないな~。ボクと決闘しようってわけ~? おじさん仕込みのツヨツヨのボクに勝てると思ってるのぉ~?」

「やって見なきゃわからないぜ?」


 すると、二人は訓練場をペイント弾で汚しながら、激しい銃撃戦を繰り広げました! 私はその間、テーブルを盾にしてジッとしていました……。


「ぐへっ⁉」

「あっ、ユーキ君⁉」

 思わず心配して飛び出してみると、ユーキ君の顔がペイント弾で汚れていました……。


「うお、負けた。やっぱ博士は強いな~」

「……。アンタ、わざと負けたでしょ? バカにしないで! ボクがいくら小っちゃくて可愛いからって、本気を出さないなんて許さないわよ!」

「おう、じゃあ、またやるか?」

「あったりまえでしょ!」

「……ええっ⁉」


 私の驚愕を無視して、と、思いきや、ユーキ君は私がテーブルの盾の後ろに隠れるように促して避難したのを確認してくれました。そのあと、ユーキ君も本気を出して、容赦なく反撃に出ます。

 気になってしまい私もテーブルの後ろから、大銃撃戦を覗いて見守ってしまいます……。


「あっ、ユーキ君、そこっ……⁉」

「ひゃうん……⁉」


 一瞬でした。博士の小さな体に白いペイント弾が命中してします……。


「うっわ、なによ、これ、くっさ、ドロドロ……ベトベトするぅっ……⁉」

「おう、これで引き分けだな!」

「はぁ⁉ 逃げるんじゃないわよ、ザコ! 子ども相手に本気になって、謝れ、バカ!」


 私は思わずムッとして出て行きましたが、いざ何か言おうとすると、尻込みしてしまいます……。ですが、言うことにしました。


「あ、あの、は、博士、それはあまりにもユーキ君に対して自分勝手ですよ……」

「うるさい、モエコ犬! ワンちゃんみたいにヘコヘコ隠れちゃって、恥ずかしくないの?」

「そ、そんなぁ……」

「よし、わかった。じゃ、なんかいい感じ食いもの作ってやるよ。それで許して」

「ふぅん、言ったわね~? それじゃあ、ボクの舌を満足させるくらいのテクニックでみせてみてよ、そんなこと言えるくらいの口がついてるなら、ボクのことも理解らせられるでしょ~?」


 そのあとシャワーを浴びて綺麗になった博士は、ユーキ君が作った手作りミルクアイスバーを美味しそうにペロペロ舐めていました……。


「うわぁ、なにこれ、白いしトロトロじゃん、甘~い! シャワー上がりの火照った体にぴったりじゃない!」

「おう、俺のテクニックで作ったぜ」

「ふん、まぁ、いいわよ、ウルトラザコ。大人げないザコなこと、許してあげるわ~」

「イェイ!」

「白くてトロトロ……う、うわぁ。い、いいのでしょうか……」

「はい、モエコもどうぞ」

「あ、ありがとう……」


 彼が作ってくれたそれは冷たくて甘くて、とても美味しかったです。これ、今、復興を頑張っている皆さんに配れたらいいなと思ってしまいました。


「あっ……。お、おいしい。ありがとう」

「あ、これ、頑張ってるみんなにデリバリーできないかな?」

「お、あなたのウルトラザコのヨワヨワ脳にしてはいいこと思いつくじゃない! ボクのツヨツヨドローンならそんなのちょちょいよ!」

「マジかよ、俺、いっぱい作るぜ、よろしく頼むな!」


 すると、二人はドローンで手作りバーを配って、民間人の皆さんを応援しました。

 ドローンのカメラで見てみると、皆さんとても喜んでくださっているようでした。

 ……独り占めしたかったなぁ……うわ、なんてこと考えているのでしょうか、私⁉


「ん? あ、あれ? なによ、これ、ボクのツヨツヨドローンが変な動きしてる⁉」

「え……。ま、まさか⁉」

「モエコ犬! 避難勧告出しなさい! 街にいるヨワヨワおじさんたちには、動けるドローンで避難を呼びかけるわ!」

「は、はい! ユーキ君!」

「おう。俺はドフールに乗り込んでるぜ!」

「ま、待って!」


 ギュっ。抱きしめてしまいました。


「あ、ご、ごめん。頑張ってね?」

「おう!」

「何してんのよ、早くいくわよ!」


 そして、私たちは指令室とドフールに別れました。司令官はもう指令室にやって来ていて、赤いバイザーを光らせていたので驚いてしまいました……。


「ひっ、びっくりした、ここのいるオスガキ二人そろってなんなのよ……」

「モエコ隊員、住民の避難は完了しているか?」

「少々お待ちを……はい! 皆さん、ドローンの誘導に従って、避難完了しました!」

「発進させろ」

「ユーキ君、出動してください!」

『了解。ユーキ、ドフール、発進!』


 ユーキ君の操縦するドフールは発進し、あっという間に現場に辿り着きました。私が誘導しなくても、一度着た場所なのですぐにやってくることが出来ました。


『まだ何もいないけど、なんか出そうな気配がするぜ』

「警戒してください、どこからやってくるかわかりませんから……」

「ん、ちょっと待って! ドフールの真上からエネルギー反応!」

「ユーキ君、上から来ます、気を付けて!」


 すると、ドフールの真上から、巨大な敵影が殴りかかるかのように落ちてきました。ドフールはそれを両手で受け止めました。受け止めたそれは、巨大な銃口のように見えました。


「まずい、それ巨大ビーム砲じゃないの⁉」

「ユーキ君、それ離して、逃げて!」


 ドフールが言われたとおりにその銃口を離した瞬間、そこからビームが放たれて、地面に巨大な穴が開き、砂煙が立ち込めました。


『うお、危ねぇ! 助かったぜ!』

「目の前から電気信号がある、これは、ビームよ! これは、直線でしか来ないわ!」

「ユーキ君、上に避けて!」


 ドフールが避けると、さっきまでいた場所に一筋の光線が放たれて、背後にあったビルが全て貫通されてしまいました。


『おい、見えるか⁉ アイツは……』


 果たして、ドフールと指令室のモニターに映ったのは、機械で失った肉体を補っているオメガザウルスでした。

再びやってきた敵は、明らかに逆上しているようでした。今度こそ汚名返上してやると。


「な、なによ、あれ⁉ やっつけた怪獣をサイボーグとして復活させて、メカ・オメガザウルスになってるぅ⁉ あんなデカいヤツを復活できるなんて、どんな技術力してるのよ! 気を付けなさい、あの巨体を維持できるほどの強力な電力を持ってるのよ。もう手動操縦じゃ動かせないかも! 電磁パルスを持ってる可能性があるわ!」


 相手は、一度倒した相手。だけど、戻ってきたということは、何か倒せるという算段があるに違いありません。私は恐怖してしまいました。

 今度こそ、ユーキ君、負けちゃうかも……。いえ、きっと、そんなことはないはずです!

「ユーキ君、博士によると、ビームと電磁パルスがあるかもしれないから、手動操縦できなかったら、思考で動かすようにして!」

『了解、任せときな!』


 そして、ドフールは警戒しながらナイフとマシンガンで突撃していきました。


「高電力反応! ぜ、全方位から来るわよ!」

「ユーキ君、逃げて! 避けきれないほどのやつがくる!」


 すると、メカ・オメガザウルスが銃口からビームを全方位から放ってきました! しかし、ドフールはそれを全て避けきってしまいました。

 しかし、その動きが急に止まってしまいます。そして、ビームが直撃したドフールは吹き飛ばされてしまいました。


『ぐおわっ⁉』


 通信妨害で、コックピットの中や戦場での映像が見えなくなってしまいました。


「む、電磁パルスよ! 感知できないほどこんなにも早く⁉ もう手動じゃ動かせないわ! それに、思考制御の切り替える前には、どうしても電気が必要なのに……」

「そ、そんな、さ、ユーキ君! 応答して! 思考制御に切り替えて!」


 しかし、応答がありません。ですが、信じて呼びかけ続けました。


「ユーキ君!」

『……おう!』


 すると、電磁パルスでダメになったはずの指令室モニターに、ドフールから見た景色、すなわち、ユーキ君が見ている景色が見えました・

 モニターに映っているメカ・オメガザウルスは、電磁パルスで動けないはずなのに、起き上がっているドフールを見て驚いているように見えました。


「え、嘘でしょ⁉ 何よこれ、電気通ってないのに! 本当に、ドフールから伝わる思考と生命反応だけで動かしてる! マジで気持ちだけでどうとでもできるレベルじゃん!」

「え、えっと、つまり、ユーキ君は、無事なんですか?」

「へへ、そう、あのウルトラザコの気持ちが、ドフールを動かしているの。って、見てよ、あのメカ・オメガザウルスの顔! 本当にザコって感じ! 顎外れそうじゃない、ザ~コ、ザ~コ!」


 ですが、メカ・オメガザウルスは機械音が混じった怒号を上げて、全身の機械の部分からビーム砲を出現させ、放とうとエネルギーをチャージし始めました。


「ひっ⁉ 全方位から来るわよ⁉ 遠くに逃げても、射的距離から逃げらないくらい!」

「そんな、ユーキ君、逃げられないくらいの全方位ビームがまた来ちゃうから、逃げて!」

『いや、心配ねぇぜ。狙撃手は近寄られればどうすることもできないはずだ。モエコが教えてくれようにな!』

「だ、だけど……ううん。分かった。教えるから、頑張って避けて!」

『おう、行くぜ!』


 メカ・オメガザウルスのビーム砲から、全方位に向かってビームが放たれます。

 ですが、ユーキ君の操縦するドフールはメカ・オメガザウルスの放つビームを避けながら少しずつ近づいて行きました。私が教える、コンピュータが計算した弾道に従いながら。こんなに素早く言ってるのに、ユーキ君は従ってくれました。


「右、左、真上、後ろ、下、左、右、下……」

「あ、あんた、めっちゃ早口ね……さすがはオペレーター……好きなことだと饒舌!」

「ユーキ君、もうちょっとだよ!」


 そして、遂に相手を殴れるくらいにまで距離を詰めました。


『おう、もらって行くぜ!』

「え、何する気?」


 それをやられたメカ・オメガザウルスもあまりの出来事に驚いてしまっているようでした。なんと、ユーキ君は先ほど訓練した銃を奪う護身術を、サイボーグ怪獣相手にドフールでやってみせたのです。メカ・オメガザウルスの全身から突き出されたビーム砲をすばやく避けながら、その全身のビーム砲を奪ってしまいました。


『そんでもってコイツをだな……』

「ど、どうするの⁉」

「オレのブツだ、返せ~!」


 メカ・オメガザウルスはそう怒鳴って体当たりしてきました。山も容易に吹き飛ばしてしまうほどの威力です!

 ん? 今、オメガザウルスさん、喋らなかった?


『うるせぇ~!』


 ドフールを操縦するユーキ君は、容赦なく殴り飛ばしました。

 そして、メカ・オメガザウルスは目を回して気絶してしまいました。


「うっわヨワヨワ! そっか~。そのビーム砲はここでの戦闘能力を維持するための宇宙服みたいなものでもあったのね~! そんじゃ、もうそいつは大きいだけのザコだよ~! 銃も持てないヨワヨワおじさんと同じ! やっちゃえ~!」


 そう聞くとケガをして松葉杖をついているかつてのライバルに勝とうとするような罪悪感がして、オメガザウルスが可愛そうな気がしてしまいました。

 けれど、それ以上に、これ以上世界とユーキ君を危険な目に合わせたくありません。早くやっつけてもらって、ここに帰って来てもらわないと!


「ユーキ君、今だよ!」

『了解、ここで倒しきってやる!』

「そうはいかねぇからな~!」


 すると、オメガザウルスの機械で補っていた部分がメキメキと再生し、完全に復活してしまいました……!


「ちょ、なによ、あれ! 超回復能力⁉ そうか、機械に戦闘能力を補わせて、元から持っていたエネルギーは回復に回していたのね! まずい、まずい、完全復活するほどのエネルギーを持ってるなんて! またあの火炎放射が来るわよ!」

「ゆ、ユーキ君、またあの火炎放射が来ちゃう! 逃げて!」


 すると、危惧していた通り、復活したオメガザウルスは喉元に火炎放射に使うエネルギーをチャージし始めました。ですが……!


「ぐはっ! なにすんだ、この……ぐへっ⁉」


 ドフールがその喉元を狙って殴ると、口からはただ火の粉が出るだけで済まされました。ドフールの攻撃はそれだけでは終わりませんでした。訓練で習った格闘技はもちろん、見様見まねでプロレスを彷彿とするチョップや蹴りで、オメガザウルスに攻撃します。


「す、すごい、前より威力が上がってる! 操作技術も向上してるから格闘戦には持ち込ませないし、なにより、あのウルトラザコの思考と命がドフールを強くしているんだわ!」

「……い、今まで頑張った成果で、圧倒してるんですか……」


 ドフールは、もう可哀そうなくらいにオメガザウルスに攻撃してしまっていました。しかし、オメガザウルスも逆上しながら反抗し、火炎放射を放とうとするのですが、そのたびにドフールに喉元を殴られて火の粉だけになってしまいます。


「この野郎、ふっざけやがって! くらえ、火炎ほっ……ぐは⁉」

『二度も同じ手段、使わせるわけかねぇだろ! あと、お前は一度倒されてるんだから、手の内はわかってるぜ! まだメカの時の方がどうなるかとヒヤヒヤしたぞ!』

「うるせぇ、おれにはこの火炎放射しかねぇんだよ!」

『じゃあ、せめてもっと使い方を考えてとか、練習して威力上げてから来いよ!』


 そしてドフールは、遂に十メートルは身長差があるはずのオメガザウルスを持ち上げて、地面にドーンと叩きつけてしまいました。


『わかったら、せめて出直してこい!』

「やだね!」


 すると、博士のモニターにエネルギー反応が表示されました。


「なによ、これ、こんなに手みたいな電磁波……」

「まさか⁉ ユーキ君、後ろ、後ろ!」


 ドフールの背中に、奪って無力化したはずのビーム砲が浮かび上がり、その銃口を突きつけてきました。そして、それを放とうとしてきます!


『危ねぇ⁉』


 ドフールはそれを避けて、浮かび上がっているビーム砲を両手で掴んで、膝に叩きつけて折ってしまいました。


『だから、二回も同じ手は食わねえって言っただろ! あ、これに関しては三度目だ』

「おい待て、さっきのは渾身の作戦だったのに、うわ~、蒸気~⁉」


 そう言って悔しがりながら、また体当たりしてくるオメガザウルスを、ドフールは殴りました。


「じ、蒸気?」

「蒸気……そうか⁉ アイツは生きた炎みたいな生き物なのね! その火力と熱エネルギーで有機体である肉体を構築し、蒸気で発電させてあのビーム砲を操っているんだわ! あいつの弱点は寒さよ! 火がつかないくらいに凍えさせてやれば復活しないわ!」

「ユーキ君! オメガザウルスの弱点は、寒さだそうです!」

『了解!』


 そう言いながら、ドフールはまたオメガザウルスを持ち上げて叩きつけていました。


「あれ、ですけど、冷やすなんて、どうすれば……」

「あ、確かに、ちょ、ちょっと待ってなさい……えっと……あんな意思を持っている火力発電所みたいな存在、どうやって冷やしてやればいいのかしら……」

「え、そ、そんな……」


 私は不安に思いましたが、何とかなりそうな気がしました。なぜなら、そのような作戦や弱点を突かなくても、ドフールがまだあきらめずに立ち上がってくるオメガザウルスを返り討ちにしていました。どっちが悪者なのかわからなくなってくるほどに圧倒しています。このまま諦めて帰ってくれればいいのに……。


「おれは、ここを侵略して金持ちになって、幸せになるんだ~!」

『ふっざけんじゃねぇぞ! お前より弱い人たちを蹂躙して得た幸せで、本当に満足か⁉』

「……? う、うるせぇ~! 死ね~!」


 オメガザウルスがまた突撃したので、山と津波がぶつかり合うような格闘戦が始まりましたが、やっぱりドフールが上手です。しかし、オメガザウルスも諦めません。

 本当に、なかなか終わりそうにありません……。ど、どうしよう……。


「ダメだ、ここの予算と人員じゃ冷凍光線銃なんて作れないわよぉ~!」

「……。ちょっと待ってろ。掛け合ってくる。間に合わなかったら、パイロットに必殺技で吹っ飛ばすように言え。いいな」


 指令室では、司令官はどこかに行ってしまい、設計図と計算式を書き散らしている書類の山を作っている博士と私が残されてしまいました。

 ど、どうしましょう……。この泥沼状態……⁉

 思わず俯いてしまいましたがモニターに向き直ると、そこにはとんでもない光景が映されていました。

 地面に座ってうなだれているオメガザウルスと、その横では動かなくなったアイスをデリバリーするドローンから、溶けたアイスを取り出しているドフールが見えました。

ドフールは、いつの間にかお椀上のように加工したビーム砲に、ドローンから取り出したたくさんのアイスを盛っています……。


『まあ、とりあえず、これでもくらえ!』

「うわ、何をする……⁉ ……うお、うめぇ⁉」


 食らわせるって言って、本当に食べさせるの初めて見ました……。それに、冷やすってそう言うことなのですか⁉


『どうだ、うまいだろ! こういうのをたくさん作れる人がいっぱい住んでるところを侵略するなんてよぉ、恥ずかしいと思わねぇのかのか⁉』

「しょうがないだろ、おれは物を燃やすのと破壊することしかできないんだからよぉ!」

『今、それすらできてねぇじゃねぇか!』

「あっ……。あ~⁉ 蒸気、蒸気~!」

『フハハハハっ! ざまぁないぜ! もう諦めて、転職しろよ! それこそ、そのアイス作れるような人たちを助けられるような感じのヤツにさ!』

「おれ、出来るかな……そんなこと……やり直せるかな……」

『ああ。お前ならできるさ』

「……わかった。おれ、侵略やめて、もっといいことするよ……」

『おう。それはそれとして……連続ロケットパンチ!』

「うごああああああっ⁉」

「ええええええええっ⁉」


 いいこと言うなと聞き入っていた私でしたが、その所業と光景に驚いてしまいました。巨大な怪獣が、ドフールによる強力なパンチで、お煎餅みたいにぺしゃんこになった上に、その分だけドンドン小さくなってしまうのです。

 そしてオメガザウルスは、都市を破壊できないほどに、ドフールの指で摘まめるくらいにまで小さくなってしまいました。


「お、オメガザウルス改め、メカ・オメガザウルス、いや、やっぱりオメガザウルス、無力化、せ、成功しました……!」

「……はぁっ⁉ いつのまに! こんなに巨大冷凍光線銃をコスパよく作れないか頑張ってたのに! なんなのよ、怪獣なら出来上がるまでもっと粘りなさいよぉ、ザ~コ!」

『ドフール大勝利!』

「この屑鉄野郎! あそこまで大きくなるのにすごい時間かかるんだぞ!」

『知るか、悪の炎トカゲ!』


 こうして、二回目の防衛戦はなんとか勝利を納めました……。





 今日もいい天気です。周りを山や荒野で囲まれた地球防衛団基地の着陸場で、空を見上げて彼を待っていました。


「……あっ!」


 すると、ユーキ君の操縦するドフールが、スタッと着地して帰ってきました。ロケットエンジンは使っておらず、命を使っている思考制御による未知の飛行能力で跳んでいたので、周りも安全でした……。

「お、おかえりなさい、ユーキ君。お疲れ様!」

『おう、帰ったぜ! お土産もあるぞ!』


 ドフールが持っているのはビーム砲の残骸、そしてつまんでいるのは二メートルくらいにまで小さくされてしまったオメガザウルスでした……。

 その様子を見た博士も駆け寄ってきました。


「ちょっとちょっと! なに敵を捕虜にして、兵器まで鹵獲して来てるのよ! 勝手に!」

『いや、悪かったってコイツも思ってるからさ! だろ⁉』

「うるせぇ!」


 と、オメガザウルスは凄まじい火力でドフールのメインカメらである顔に火炎放射を浴びせましたが、無傷でした。


「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

「ふむふむ。へ~。いい感じの火力じゃないのよ!」


 すると、博士はタブレットで何かを計算すると、あっという間にその仕事を終えてしまいました。


「おい、ウルトラザコ、そのオメガレベルヨワヨワ怪獣を連れてきなさい!」

『了解、博士!』

「おい、俺をどうする気だ!」


 博士について行った地下施設には、いつの間にか作られていた、いくつもの管に繋がった丸いカプセル状の容器がありました。


「な、なんですか、こんな装置、いつのまに……?」

「ふふん。さっきボクの作った立体構築装置で作った火力発電装置だよ! ド凡人おじさんたちのヨワヨワな頭じゃできないけど、ボクのツヨツヨな頭脳なら楽勝だよ!」

「え、ええっ~⁉」


 大きな冷凍光線銃はすぐに作れなかったのに、そのような装置は作れるとは、どういうことなのでしょうかと、凡人の私には余計に訳が分からなくなりました。もしかしたら、博士の心のどこかで、敵をやっつけるための兵器よりも、人を助ける機械の方が作るのにやる気とかが沸くのではないかと、私は思いました。


『で、コイツをここにぶち込めばいいんだな?』

「うん! そいつにはキツキツだろうけど、ねじ込んじゃって!」

「おい、ふっざっけんな!」


 抵抗するオメガザウルスでしたが、容器の中に入れられてしまいました。そして、容器に入れられたオメガザウルスは、当たり散らすかのように火炎放射をカプセルの中で容赦なく放出して行きます。


「ここから出せ~!」


 すると、発電機のメーターが溜まって行きました。そして、暗かった地下に明かりがともり、暖房もつきました。もう、経費節約のために、節電しなくても余裕なくらいに、秘密基地が電力で満たされていきます!


「うお、すげぇ! 地下なのに明るいぞ! これで時間外でもシャワー浴びれるじゃねぇか! すごいな、博士!」

「まあね~! これでウルトラザコに夜食作らせるためにキッチンも使えるわね!」

「……余計太るよ」

「ボクは太ってないわよ! この白衣の下のプロポーション、理解らせてあげるわ!」


 今は暖房で暖かいからいいですけど、真冬の地下なのに白衣の下はまたほぼ下着みたいな恰好の博士でした。……前から思っていたのですが、外でその格好でいたら、変な趣味の人に攫われたり、勘違いされちゃうんじゃ……。


『……おお。うん』

「……えぇっ? も、もしかして、ユーキ君……」

『おう、健康的な小学校高学年くらいって感じ』

「なんですって? ってどこ見てんのよ、このザコ! ふん、大人なのにこんなので喜んで、恥ずかしくないの~?」

『よ、よ、喜んでねぇし! あと、思い出したかのように俺の幼稚園のクラスメイトみたいなキャラになるのやめろよ。ヘンな気分になるだろ』

「誰がアンタのクラスメイトよ、てかなんで覚えてるのよ! 最低、ヘンタイ、スケベ、ロリコン! そんなことばっか覚えてるから頭ヨワヨワなのよ!」

『へへ、やっぱあの娘に似てる。懐いわ~……』

「よ、喜ぶな! てか、ドフールに乗ったままだと、ホント饒舌ね! 面と向かって言ってみなさいよ、ザ~コ!」

「イチャイチャしてねぇで、ここから出せ~!」


 と、またオメガザウルスが怒って火炎放射でエネルギーを溜めてくれました。


「アンタこそ、ヨワヨワのくせに饒舌ね~! あとで怖い司令官が来るから、それまでそこで引き籠って自家発電がんばってねぇ~! フフフフフッフ~ン!」

『腹減ったら言えよ』


 博士はトコトコと、ユーキ君の操縦するドフールはズシン、ズシンと戻って行きます。

 い、いいのでしょうか、これで? 敵兵の捕虜はもう少し丁重扱わないといけないんじゃ……。労働させてるし、これじゃこっちが悪者のようです……。

 思わずちょっと可哀そうに思ってカプセルに捕まっているオメガザウルスを見てみると、彼は急にキッと睨んで、恨めしそうに炎を吐いてきました。

 私は思わず怖くなって駆け出そうとすると、ユーキ君のおなかに飛び込んでしまいました。


「うわ、ご、ごめん、ユーキ君……あれ、博士と行ったんじゃ……」

「いや、こんな地下で一人にするわけないじゃん。博士にも面と向かってしゃべろって言われたし。あ、よく考えたら、ドフールねぇとあいつに不利じゃん! やべ、もしもがあるから逃げないと! ほら、早く行こうぜ」

「う、うん……」


 私は、手を繋いで地下にいるオメガザウルスと発電機の元を後にしました。


「おい、だから、イチャイチャすんな! てか、そんな小さいやつに、俺は負けたのかよ! どういうことだよ! 何者なんだ、お前らぁ⁉」


 私は、そんな怪獣の怒号も聞こえないほどに緊張してしました。

思えば、ユーキ君と手を繋いで歩くなんて、初めてな気がします……。せっかくの機会なのに、何も話せないでいました……。


「……おい」

「ひっ⁉ 司令官⁉」


 廊下の角を曲がると、赤いバイザーを光らせた司令官がいらっしゃいました。傍らには気まずそうな博士がいらっしゃいました……。


「し、司令官、その、えっと……」

「司令官、お疲れ様です」

「ああ。博士から話は聞いた。次に作戦を立てるとき、鹵獲と敵兵を捕らえるときは報告して許可を得てからやれ。いいな?」

「は、はい……もうしわけございません」

「すいません」

「……。これからオメガザウルスの尋問を行う。お前たちも来い」


 そして、私たちは指令室でカメラ越しに、司令官によるオメガザウルスへの尋問を見学することとなりました。

司令官のような方が尋問すると訊くと、怪獣が相手なのに凄まじい緊張感がカメラ越しに伝わってきます。怪獣相手なのに、司令官だと大丈夫な気がします。


「尋問というより、拷問になりそうな感じがするんだけど……」

「そ、そんなぁ……」


 そして、尋問は始まりました。


「私は、この星を守る地球防衛団司令官だ」

「うげ、お前がアイツらのトップかよ! ふざけやがって、ここから出せ!」

「できん。……それにしても、先の活躍は凄まじかったな。見事だった。これほど我々が追い詰められたのは初めてだ。惑星規模で最大の強敵であった」

「え、マジで! だろ! 俺は故郷の惑星でも最強クラスの怪獣なんだぜ!」

「そうか。それほどのお前を従わせて、ここに遣わしたのは何者なのだ? なぜ侵略をするのだ?」

「なんで侵略するかは、さあな、知らね。テレパシーでしかおれの雇い主とは話してねぇんだ。前金でうまい小惑星たくさんくれてよ、この星を侵略したらもっとくれるってさ。気ぶりのイイ感じだったぜ」

「そうか。他にもお前の様に雇われている者はいるのか?」

「いると思うな、どれくらいかはわからないけどよ。俺の他にもテレパシー送られたやついっぱいいるっぽいからな。マジでよ、凄まじいテレパシーらしいぜ。あの分だと、全宇宙からいろんな奴らがやってくるだろうな」

「なるほど。お前は意志の疎通が可能なようだが、他の者たちもそうなのか?」

「……え? うお、なんだ、なんでおれ、アンタらの言葉分かるんだ⁉」

「……突然話せるようになったと? そうなった理由に心当たりは?」

「お、おう……。テレパシーくらいしかないな。そこのどこかに、テレパシストとかいるんじゃないのか?」

「……心当たりはある」


 心当たり? それは一体なんなのでしょうか……。も、もしかして、ユーキ君がドフールの機能で怪獣さんとの会話を可能にしたのでしょうか……?


「そうか。その強力な存在であるお前に屈辱を与えた、お前の雇い主に対して、やり返そうとは思わないか? そもそも、お前をこんな所に送らなければ、お前はその屈辱を抱えずにすんだのだ」

「……た、確かに。言われてみると」

「そうだ。復讐に我々に協力してくれないだろうか。相応の生活は保障する。そして何より、復讐の機会もな」

「マジかよ! アンタに雇われたかったぜ! よろしくな!」

「……。また何か、黒幕について思い出したら言え。とりあえず、そこで奴を倒すためのエネルギーを溜めていてくれ。培った力が勝利につながる」

 こうして、尋問はあっさり終わってしまいました……。

「え、終わり?」

「まさか、ドフールが、あのヨワヨワ怪獣の言葉を通訳したのかしら……」

「そ、そんなことまでできるのですか⁉」

「さあ、わからないけど……」

「諸君」


 いつの間にか、司令官は指令室にやって来ていました。地下の発電所から指令室まで、結構な距離があるはずなのですが……。


「ひよぇ⁉」

「奴から引き出せることはもうないだろう。奴の保護等については当局に打診しておく。また、兵器の鹵獲と、敵の捕獲が可能場合は、可能な限り行ってほしい。黒幕も、戦力が削がれれば戦意が落ちるやもしれん。また、奴との会話は、もしかするとドフールの機能によるものかもしれないが、脳に対して影響がある可能性があるので控えるように。では、解散」

「あ、お疲れ様で~す!」


 司令官はユーキ君の労いに手を振って、指令室を出て行きました。きっと、これからあちこちに出張して話をつけていくのでしょう。

 お疲れ様です……。


「ぐえええん、おじさん、怖かったぁ……! 勝手にいろいろやっちゃったから、どうなるかと思ったよぉ……」

「なんだ、博士も司令官のこと、怖いんじゃねぇか! 同じ仲間がいて安心したぜ」

「……なっ、はぁっ⁉ ヨワヨワなウルトラザコと同じにしないで! ボクはツヨツヨだから、ぜ、全然怖くないし! それに、そのヨワヨワ頭、調べさせてもらうわよ!」

「おう、診察な?」


 診察室の前。

 私は、博士によって戦闘後の精密検査を行われるユーキ君を待っていました。

 カルテを整理しているのは私なのでユーキ君がどんな診察をされているのかはよくわかっています。なので、こうして診察室の外で待っていると、どうしても、ヘンなことを創造してしまいます……。見えないというのが、余計に……!

 やまない想像に顔を赤くしていると、こんな会話が聞こえてきました……。


「ねぇ、ウルトラザコ。またアンタ、これ、一段と大きくなった?」

「え? 気のせいだろ」

「だけど、相変わらず大きいわね。どんだけ激しかったのよ?」

「そこまでじゃねぇよ。まあ、博士じゃ耐えられないだろうけどな~」

「そこまで言うならもっとみせなさいよ。うわ、でっか。こんなでよく耐えられたわね」

「いや、まだ行けるだろ、これくらい」

「もう、あんまり無理すんじゃないわよ……」

「博士もな」

「はぁ? こんな目になんて合わないわよ! ボクはツヨツヨなんだからね!」


 もう、我慢できません! ですが、どうすればいいのかわかりません。私はただ、頭を抱えて座り込んでしまいました……。

 すると、診察? を、終えたユーキ君が出てきたので飛ぶように立ってしまいました。


「ゆ、ユーキ君⁉ だ、大丈夫だった?」

「お、おう。問題ないぜ。へへ、司令官はともかく、だんだん博士の元気づけ方が分かる気がしてきたぜ! なんか生意気なこととか言ってみたら、やる気が出て元気になると思ったら、本当にそうだったとはなぁ~」

「え、博士を元気づけるために……わざと怒られたり、なんか、挑発的なことを?」

「おう。まあな」

「そんなぁ。いくら博士を助けるとはいえ……」

「俺は気にしてないし、博士が元気ならいいわ」


 そんなに人のことわかるのに、怒られちゃうなんて……待ってください。私は気づきました。そんなに人のことを理解しているのなら、私の気持ちもバレているのではないでしょうか⁉ 私は、急に顔が真っ赤になって行くのを感じました。

 それに、何か変なことしているわけではなさそうだったのでよかったです。


「どうした、モエコ、疲れたの? 顔赤いよ?」

「ほぇ⁉ な、何でもないよぉ! だ、暖房が効きすぎてるのかな……」


 そのあと、手を繋いで、一緒にドフールのところに行くことにしました。

 顔を近づけたり、こうして手を繋いでいる時の距離間といい、私の気持ち、気づいてませんね……。ホッとしたような、がっかりしたような、複雑な気分です……。

 




 そのあと、ドフールをユーキ君と一緒に整備して、すっかりきれいになりました。


「ふふ、きれいになってよかった」

「おう、ドフールもありがとうだってさ」


 すると、ドフールがお礼を言う様に、ひとりでに手を振ってきました!


「え、ええっ⁉」

「おう。乗ってなくても、遠隔操作で日常的な簡単な動きくらいならできるようになったんだよな。これでさっきもここに帰らせたんだよ」

「そ、そうなんだ……ドンドン出来ることが増えて、すごいよ」

「おう、ありがとう……はぁ」

「……どうしたの?」

「いやさ、褒められたら、こんなに嬉しいってこと、久しぶりに思い出したぜ……。俺、それまで褒められるようなこと、ほとんど出来てなかったからさ」

「そ、そんなぁ……けど、そうだとしても、仕方なかったんでしょ? 生きるために?」

「……おう。俺の秘密、聞いてもらってもいいか?」

「うん。話せば、楽になるかもよ?」


 ドフールのコックピットに座ったユーキ君は話してくれました。

 私はそんな彼の膝の上に座って、腰の前に回した腕に抱き寄せられていました。安心します。お腹の前で組まれた彼の手を、思わず掴んでしまいました。硬くて傷跡だらけ。色んな事があったんだろうなぁ……。


「俺さ、今まで生きるためとはいえ、ひどいことしてきたんだ。人のことを殴ったり、物を壊したり、人のこと殴ったり蹴ったりな。マジでその時は正しいことだと考えてやってたんだ。褒められることじゃないって、後になってわかったんだよ」

「……そう、だったの。うん。私も、そのえっと、ちょっとあなたの比じゃないけど、友達のテストの点数が悪くて、それで不憫だなって思って、本当に悪気はなくて、わざと間違えて点数落としてた時があったんだ……。今思えば、本当酷いことしたよね……」

「けど、モエコのことだから、どうにかして謝ったんだろ?」

「う、うん。一緒に勉強教えてあげたんだ。だけど、やっぱり……侮辱だったなって」

「そうか、偉いじゃん。謝れて、力になってあげていて」


 ユーキ君はそう言って、私の頭を撫でてくれました……。

 もっとしてほしいけど、そんなことしてもらっている場合でも年齢でもありません!


「わ、私のことはいいから、ユーキ君のこと、お、教えてよぉ……」

「そうか。だよな。けど、俺がそう思い始めた時は取り返しがつかなくなっちまった時だったからよ。けど、もし何かで償えるなら、それをしたいと思ってたんだ。悪いことをしたら帳消しとはいかないけど、それくらいの善行をしないといけないと思ってたんだ。けど、どうしたらいいかわからなくてさ……。そんなこと考えながら惰性的に過ごしてきた。そしたら、モエコが声を掛けてくれたんだ」

「……! そういうこともあって、パイロットになってくれたの?」

「そんな気がするんだ。今さっきそんな気がしてきた。引き受けたのも、だぶんその罪悪感もあったんだと思うぜ。頭の片隅でそう考えてたんだと思う」

「……そうだったんだね。……私たち、ちょっと似てたのかな?」

「ああ、そうだな、そうかも。モエコがパイロットにしてくれてよかったよ」

「そ、そうなの? うん、それなら、よかったかな……? ユーキ君は、すごいがんばってるよ。きっと、その、えっと、許してもらえるよ」

「そうかな、ありがとう。モエコに言われると、そんな気がするぜ」

「うん……。あ、あのさ、もしかしてオメガザウルスくんを仲間にしたの、彼がやり直せるようにしてあげたかったからなの?」

「いや、アイツのことはそんな深いことは考えてないよ。なんとなく連れてきちまった」

「ええっ……。だけど、きっとそうなんだよ。……ねぇ、そんなにいい人なのに、その、後悔があるくらいに悪いことしないといけないくらい追い詰められてたなんて、その、私なんかが分かる気になっちゃダメだろうけど……大変だったんだね?」

「ああ、うん。だけど、今はモエコや博士がいるし、ドフールに乗って世界を救ってるから、人間として生きてるって感じがするぜ」

「本当? う、うん……」


 私は、ユーキ君がこの怖い責任のある使命に生きがいや幸せを感じてくれてよかったと思いました。彼は、私とは比べ物にならないくらいの苦労と罪悪感を背負って、苦しみながらも頑張って生きて来たに違いありません。そんな彼が、少しでも幸せを感じられることに手を貸すことができて、嬉しく思いました。

 私の『死んでほしい』と言っているも同然のお願いが、彼の幸せにつながっていると思うと、頭の中がこんがらがって、耐えきれないようなほどの気持ちになります。本当なら、死んでいるのに、彼は生きて戻って来てくれて、幸せだと言ってくれました。

 彼が生きて幸せを感じてくれています。それが私も嬉しくて、だけど、やっぱり、彼をこんな危ないことに巻き込んでしまったことに、やっぱりまだ罪悪感があって……。


「う、ううっ……」

「モエコ、どうしたの?」


 私は、彼の膝の上で彼の顔に向き直って、抱きしめてしまいました。


「モエコ……?」

「……ユーキ君、偉いよ。誇っていいよ。生きててくれて、ありがとう。あと、あと、ごめんね。こんな危ないことに巻き込んで……」

「まだそんなこと気にしてたのかよ。まあ、俺もこの罪悪感は生まれてからほどんと忘れないで凝縮してんだから、人のこと言えないか。よし、わかった。俺、もっと強くなるよ」

「……え?」

「モエコが罪悪感なんて忘れるくらい、どんな相手も楽勝なくらいに強くなってな、侵略者から世界を救うんだ。それで俺もアンタも幸せになるんだ。今までの悪いことや罪悪感も吹っ飛ぶくらいにな」

「……うん。一緒に頑張ろう?」

「おう」


 私は、また、気持ちの揺れ動くままに、彼を抱きしめていました。そんな私を彼も優しく抱きしめてくれました。暖かいです……。安心します。

 あれ、ちょっと、待ってください。こ、この体勢、傍から見たら、いろいろ大変です! 私は恥ずかしさのあまり、赤面して頭が回り、何も考えられなくなってしまいました……。


「あわわわわわ……」

「も、モエコ⁉ 大丈夫⁉」


 復活した怪獣をやっつけて、捕虜にし、敵の正体が分かりかけたその日は、こうして終わりました。


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