貴女ともう一度の出会い
お待たせしました。週一ペースで公開していこうかな、と思っております。
時を遡ること十一年。
少年は同僚やお屋敷の主人から暴行を振るわれながらも、指折り数え、今日…八月十五日を待っておりました。
(今日だ。ずっと、ずっと待っていた。今度こそ、あの御方を守ってみせる。)
コツコツと屋敷の主人の足音がドアの前まで迫って参りました。少年はピシリと背筋を伸ばします。ガタリゴトリと建てつけのよろしくない引き戸は大きな音を立てました。
開いた戸から、大柄で髭の生えた、赤ら顔の男がズカズカと部屋へ入ってきました。
「文月、分かっておるな。今日はフォルモーント伯爵様がいらっしゃる日だ。隅々まで屋敷を磨き上げた後は、決してそのみすぼらしい姿を見せぬように。」
(そう。あんたは今日、見つかって裁かれる。使用人の人権を侵害している、と告げ口されて。)
「何をぼんやりしている?分かったならさっさと働け!この役立たずがっ!」
「申し訳ございません。」
「ったく。役立たずの穀潰しなんぞ、我が屋敷には必要ない。お前らの替えはいくらでもいるんだ。心して働け。」
少年の白い陶磁器のような頬に赤黒い痣ができてしまいました。それでも彼…文月はただ首を垂れるだけでした。
(痛い、痛い。でも抵抗すれば悪化するだけ。それに、今日は…あの御方と初めて会った日なんだから。耐えるんだ。俺の目的はただ一つ。彼女が幸せになれるよう、過去を変えること。その代償に己の身がどうなったって構わない。だから、たかがこんなことで倒れるわけにはいかない。多少、『過去』よりも酷いことをされているような気がしないでもないが。確か、バレるから、と顔…弱いところを狙われたことはなかったような…。まあ、誤差の範囲だろう。)
赤ら顔の男は満足したのか、再び騒々しく、醜く肩を張って去ってゆきました。残された彼はまた黙々と塵一つない床を磨き上げようと雑巾を手に跪きます。ほんの少しの違和感に顔を背けながら。
次回はやっとヒロイン?が登場します。もう少々お待ちください。