今度こそは貴女と笑い合えますように。
不定期更新です。
語り部は無垢なる子ども達に笑いかけます。
「この国の平和は先日お亡くなりになった皇太子殿下がもたらしたんだ。君たちが生まれる前、とてもとても恐ろしい令嬢が居たんだ。彼女は魔性の女だったそうだ。にこやかに話しかけ、魅了し、必要でなくなった途端に首を刎ねた。おかげで沢山の尊い命が失われた。それに、彼女は着飾るのが大好きで、ブランド物に目がなく、贅沢の限りを尽くし、民の生活を圧迫するばかりだった。今の皇女殿下だって命を狙われた被害者のうちの一人だ。皇女殿下に痺れる毒を盛り、動けなくさせようとしたんだ。それに気づいた皇太子殿下はその場で彼女の心臓に聖なる剣を突き刺した。彼女は婚約者であったため、彼は国が彼女によって傾いてしまうのではないかと以前から心配していたから、躊躇いなんかなかったんだよ。そして、待ちに待った機会を逃さなかったんだから、素晴らしい御方だよ。いいかい、君たち。悪いことをしたら彼女のようになってしまうからね。人が嫌がるようなことをしてはいけないよ。」
黒い服に身を包んだ青年は心の内で舌打ちしました。
『あの御方は決して暴君なぞではなかった。許すまじ。許すまじ。あの御方が最も嫌う、武具で未来を奪ったこと、死しても尚忘るること勿れ。あの御方が最も嘆く、醜い誘惑に負けて生命を摘んだこと、忘るること勿れ。私は片時も忘れたことなぞなかった。あの御方と過ごした日々を。あの御方を失った時の苦しみを。あの御方が笑みを浮かべつ、涙を流し、冷たく横たわっていたあの姿を。この半生、これほど人を恨んだことはなし。何故、何故誰より平民に歩み寄らんと尽力なさっていたあの御方が、このように悪人として語り継がれねばならぬのだ。あの日、非業の死を遂げたのは、何故罪なきあの御方であったのか。』
夕闇に金の瞳が輝きました。青年の足元には赤黒い魔法陣が描かれております。
『目には目を歯には歯を。お許しを。貴女様を今度こそは守りぬきとうございます。いざ。』
黒い光が辺りを埋め尽くし、カラカラと時計の針は逆さに廻り始めました。クルクルと人々は渦に飲み込まれ、ぐにゃりと歪み、消えてゆきます。かの青年も黒に飲まれ、いずれ見えなくなりました。
のんびり更新します。よろしくお願い致します。