おばあちゃんとのカセットテープ交換
社会人3年目の僕は都会の目まぐるしさに疲れ切っていた。
キラキラした都会に憧れを抱き、大学進学と共に上京してそのまま東京で就職したが、僕には田舎が合っていたのかもしれない。
思えば、僕は小学校が終わるとそのままおばあちゃんの家に帰って夕飯の時間まで遊んでいる、所謂おばあちゃんっ子だった。
上京時見送りに来てくれたおばあちゃんに「向こうに行っても電話するからね!」と言って僕は新幹線に乗り込んだ。
おばあちゃんは「頑張るんだよ」「体に気をつけてね」と笑顔で送り出してくれたがやはりお互い寂しさは隠せなかった。
大学生の頃は2週間に1回くらいの頻度でおばあちゃんと電話で他愛もない話をしていた。だが、社会人になり忙しくなった僕はおばあちゃんとの生活リズムが合わなくなり電話をかける回数がだんだん減ってきていた。
おばあちゃんは携帯を持っていないからメールは出来ないし、何よりおばあちゃんの声が聴きたかった。
そんなことをふと考えながら電器屋さんの前を通るとカセットテープが目に飛び込んできた。
これだ!と思った僕はその勢いで一式購入し早足でアパートへ戻った。
そして高鳴る心臓を落ち着かせながらカセットテープへ声を吹き込む。
「おばあちゃん、元気にしていますか?
突然びっくりした?ちゃんと録れてるかなこれ…
最近電話できなくてごめんね、仕事が終わるの遅くてさ…」録音完了のボタンを押す。
「よし!できた!」
試しにカセットテープを再生してみると違和感のある僕の声がしっかり聞こえてきたので大丈夫だとすぐに止めた。
「早く届きますように。」丁寧に梱包したカセットテープをポストに入れる。
2週間後大きな段ボールが届いた。差出人はおばあちゃんだ。
段ボールには沢山の食料とカセットテープが1つ入っていた。
僕はすぐにカセットテープを再生する。
「素敵な贈り物をありがとう。頑張ってるのね。最近寒くなってきたから…」
ああ、おばあちゃんの声だ。僕の目から自然と涙がこぼれ落ちた。おばあちゃんの声は昔から不思議な力があって、僕を温かく包み込み聴くだけで元気が湧いてくる。
「ありがとう。もう少し頑張れる気がするよ。」
僕は聴き終えたカセットテープに向かって呟き、涙を拭った。
この日を境に僕とおばあちゃんのカセットテープ交換は7年経った今もなお続いている。