6父の可愛い猫
●6父の可愛い猫
父は家族に対して感情を出すことは殆ど無かった。
昭和初期のオヤジでたまに喋ると何言ってんだコイツと家族全員にドン引きさせる困った父だ。
そんな父だが息子の私と同じく猫好きである。
ただ基本酔って猫を可愛がろうするので普段は猫に嫌われている可哀想な猫好きであった。
そんな父がある日、仕事中にもかかわらず家に電話してきたのである。(平成初期)
母が電話にでたのが最初何かあったのかと真剣な顔だったのだが、次第に呆れ顔になっていた。
「今からお父さん猫を連れてくるって」
「はあ?」
母の言葉に私が呆れた。
父との会話の内容を詳しく聞くと、父は仕事で外回り中に昼食になり海水浴場の駐車場でご飯を食べていたらしい。
そこに猫が寄ってきたのでおかずをあげたそうだ。
その猫はとても人懐っこく可愛いくて父は飼いたくなったらしい。
その頃の私の家には猫はおらず、母も珍しく父が必死に訴えてくるので電話越しで渋々了承した。(ちなみに飼い猫の拾ってきた猫は全て私である)
私は久ぶりの猫だと嬉しくて母と一緒に家の前で父が猫を連れてくるの待っていた。
さて、ここで聞きたい人懐っこく可愛い猫と聞いてどんな猫を想像するだろうか。
ミーミー泣いて必死に飼ってとしがみついてくる子猫?それともウニャンと腹を出してくる若い猫?
私の想像はそれだった。おそらく母も同様だったろう。
父の車が家に着いた。
満面の笑み(超珍しい)で車を降りる父。
人懐っこく可愛い目が綺麗おとなしく車に乗ってくれたなど言いながら助手席側にまわる父。
そんなに可愛い猫なのか期待を膨らます私と母。
そして父が車内から猫を抱きかかえてこちらに見せてきた。
ピシッと固まる私と母。
あの時の衝撃はいまだに母と話すことがある。
父に両脇を持たれこちらに腹を見せた猫の最初の印象はボスだった。
ヤクザのような怖い目つき、少しも緊張していないデブ顔、通常の猫の一回りどころか二回りありそうな立派なでぶの体。
どこからどうみても野良猫界のキングオブザボス。
その猫を絶賛している父に母が下した判決は。
「元の場所に置いて来なさい」であった。
必死に抵抗する父。
悲しそうな顔をしている。いや、用意していたエサをモリモリ食べてますよ。
野良の中で生きていけそうにない。どうみても野良猫生活を満喫している体格ですよ。
最終的な決定権は母が持っていたので父は泣く泣く元の場所に連れて行った。
その猫は緊張も動揺も一切無くエサを食べ車に乗せられ帰っていった。
父よあなたの猫に対しての優しさは私を遥かに凌駕するものであった。
後日、この話を人に話すと大爆笑された。
おそらく私が闘ったら負けたかもしれない。それくらいボスのオーラも纏っていた猫であった。