3ベンちゃんとクロ
●3ベンちゃんとクロ
四代目の猫マクロ。略されてクロ
歴代猫の中で一番恐ろしい猫だ。
私が拾ってきた猫で普段はいたって普通の猫だった。
ただ気に入らないと感じると本気で噛みついてくるのです。子猫の頃に他の猫と遊んでいないので甘噛みをしないのです。今も私の手にはクロの牙の傷痕があります。
そして必ず報復行為をしました。
実家の廊下は一部分が明かりをつけるのが面倒くさいので夜は壁を伝ってトイレに行ったりします。
そしてクロはからかったりするとその日の夜にトイレに行くと必ず暗い廊下でふくらはぎに噛みついてくるのです。その日でなくても二、三日の間には噛みついてきます。
一番被害にあった人物は酔ってクロに手を出した父でしょう。
気難しい所がわかれば普通の猫、それがクロでした。
ただ一人を除いて…。
父の仕事の同僚にベンちゃんと呼ばれる人がいました。
人のいいおじさんで私が唯一酒を呑んでも好感を持てる凄い人でした。ベンちゃんを知っている人は殆ど悪い気持ちを抱く人はいなかったと思います。
そんなベンちゃんなのですが…なぜかクロに嫌われていたのです。
下に見るとかではありません。蛇蝎を嫌うが如くなのです。
ベンちゃんが何かしたわけでもありません。初めて会ったときから本気の威嚇、触ろうとすると本気の爪あり猫パンチ。
人のいいベンちゃんは仲よくしようとしますが、クロは絶対拒否でした。
それでも父とベンちゃんは仲がいいので家で飲み会をします。
ベンちゃんが来たときはクロは居間から一番離れた仏間の部屋に避難します。
それが何回か続いたあとベンちゃんもうちの両親も他の友人たちも酒を飲んで気が緩んでいたのでしょう。
私はその場にはいなかったので後から聞いた話なのですが、ホラーでした。
飲み会ででベンちゃんがクロに嫌われているの会話に上がり、おそらく猫に舐められるなよといわれ気分上がったのだろう。ベンちゃんは仏間にいるクロを呼んだらしい。みんな酒の席でのお遊びだったのだ。
ただ代償は大きかった。
ここで先に書いた私の実家の廊下は暗いがこの場面にかかってくる。奥の仏間から居間までは少し長めの直線の廊下が通っており居間のドアを開けてクロを呼んだのだ。
真っ暗な仏間に続く廊下に向けて。
それをみんなで見てたらしい。うちの両親はクロの性格をわかっているので来ないと思っていたと聞いた。
何度かベンちゃんが叫ぶと反応があった。
トットットッ軽い何かが歩く音。
そして闇の中にカッ!カッ!と爛々と光る緑色の両目。
今にも噛みついてやると全開に開かれた口。
身体を横向きにして全身を見せながら闇の中からクロが姿を現したのである。
酔いが覚めた人たちは慌ててドアを閉めた。
そのドアを向こう側でカリカリと爪で引っ掻く音が聞こえたらしい。
その場にもうベンちゃんをからかう人はいなかった。
すぐに飲み会はお開きになりベンちゃんは廊下に出るのが怖くて父に靴を取ってきてもらい窓から帰ったそうだ。
なにがクロにベンちゃんを嫌わせるのか今でも謎だった。
ちなみにうちでの飲み会はこの件以降少なくなりあったとしてもベンちゃんはクロが外出しているか私がクロのお守りをしてないと来なかった。
この話を聞いた私は爆笑した。