1猫の暴走
●1猫の暴走
これは私にとって二代目に飼った猫の話である。
この猫は私の猫飼い人生の中で最も猫らしく猫の中の猫であった。
名前は洋介。
兄がはまっていた某暴走族漫画の主人公の名前から名付けられた。
私が小学低学年時代の頃に飼わせていただいた猫で家族の誰かがもらってきたと覚えている。多分…?
その洋介は田舎の家で飼われているので外には自由に出て人生を謳歌していた。
家ではおそらく私を弟分と思っていたらしく何をしても怒ることもなく逃げることもなく小学生の私に付き合ってくれていた。外では野良猫達相手に真っ正面から縄張り争いしまくりでボス猫になっていた。
だから私にとって洋介は歴代猫の中で兄貴分で猫というものを教えてくれた猫だった。
ただその洋介が家の中で猫としての本能全開になることがあった。
それは母が仕事場で義理で買ってきた動物シリーズのぬいぐるみに出会ったときだ。
安物丸出しのぬいぐるみはライオン、シマウマ(後数体いたがなんだったか忘れた)で手より少し大きいぐらいサイズで初めに見せてもらったときにイラネーと感じたこと覚えている。
母と一緒にびみょーびみょーと話していた時、洋介が外から帰ってきた。
「おかえり洋介。これいるかー」
ライオンのぬいぐるみを洋介に見せた。
その瞬間、洋介の顔は険しくなり全身の毛を逆立てて顔はこちらを向いたまま体を横向き(nの字みたいに)に全身を見せてウゥゥゥゥッ!と吠え始めた。
私と母は今まで見たことのない洋介の態度に驚いていると、洋介はそれを隙とみたのか間髪入れずにライオンのぬいぐるみに噛みついてきた。
ぬいぐるみを持っている私の手も一緒に。
「アーーッ!」
初めての猫の洗礼は前足の爪と上半身でぬいぐるみとと私の手をガッチリホールドして全力の噛みつき!ぬいぐるみだけでなく手にまで血が出るほどの噛みつき!
そして後ろ足は腕に対して猫キック!こちらも血が出る掠り傷を量産していく。
「止めてー!洋介止めてー!」
泣き叫ぶ私。
そしてそれを見て爆笑する母。
低学年の私の阿鼻叫喚の姿を見て笑う母は鬼かと今は思っている。
母によって解放された私の手は血まみれ。腕はものすごい数の縦線の擦り傷が。しばらく私の手と腕は包帯で巻かれた中二病になっていた。(当時は中二病なんて言葉はなかった)
どうやら洋介はライオンのぬいぐるみを見て家の中に外猫が入ってきたと思ったようだ。推測でしかないが解放した母が取り上げたライオンのぬいぐるみを見ながら威嚇していた。
ちなみにシマウマのぬいぐるみを見せたら一度身を隠してからジリジリ近づいてきて一気に襲ってきた。首筋を咥えこみ人間にどうだ!獲物を取ったぞ!と自慢しているようであった。
ライオンは敵、シマウマは獲物と洋介は判断していたらしい。当時の私は頭いいなさすがうちの猫だと思っていたがぬいぐるみなんですよ…。
他のぬいぐるみには全く興味持たなかった。
幸い二体のぬいぐるみは少しほつれがあったぐらいで(私の手のほうが重傷)無事で、洋介が見るたび襲うのでタバコ臭くて猫が近づかない父の寝室に置かれることになった。
ただし、クーラーがあるのがその部屋だけだったので夏になると洋介も暑さに我慢できないときは部屋に入ったのでその時はタンスに隠された。
そのあとの歴代猫達にもぬいぐるみを見せたが遊び道具にしかしていなかった。
なにが洋介の琴線に触れたのかいまでもわからない。
だがそれ以外でカッコいい兄貴肌の猫洋介であった。