パラレルライフ
「カオル、作り話じゃないのか? 色々偽装工作やってのけた人なんだし」
「戸籍は確認した。弟は実在した。4才で亡くなっている」
死因はまだ確認出来ていないという。
「E妻は弟が大きな犬に襲われるのを見た。それ以来、犬嫌い、というより大型犬は恐怖の対象やった。A家のシェパードもな」
Aの事は
初めて見た時、弟に似ていると驚いた。
接する程に似ているどころではない、生まれ変わりではないかと思えてきた。
記憶に焼き付いた恐ろしい情景が蘇る。
大きな犬に突然襲われ、弟は恐怖で悲鳴を上げる事も出来なかった。
あの犬は弟に懐いていたのに。
吠えも唸りもせず不意に、噛んだ。
……シェパードもAを噛むかも知れない。
「Aを守りたかったと供述している」
「殺してしまったくせに」
「守りたかったが、運命には逆らえなかったんやて」
(ほら、あれと同じですよ。こんな映画、知りませんか?
過去にタイムスリップして何回やり直しても結果は変えられない。
あの子は4才で犬に殺される運命だったのです)
「妄想だよ。妄想に囚われて余計なコトして、結果殺しちゃったんだ」
生まれ変わりで
同じ運命なんて怖い。
怖いから犯人の妄想と思いたい。
「妄想は予言にも繋がってるようやで」
「予言?」
「うん。早死にした弟はこの世に未練がありAとなって生まれ変わったが、再び短い現世やった。ほんで3度目の挑戦や。今度は梅本さんとこに生まれてきた。だが運命には逆らえない。あの子も犬が殺すだろう、と」
「嫌な予言だな」
E妻の妄想だと思いたい。
だが、同じ特徴を持つ男児が3人(E妻の弟、A、梅本の子)となると
果たして、偶然で済まされるのか
<生まれ変わり同じ運命を辿る>
そんな事が現実にあるのだろうか?
「マユはどう思う?」
霊界の住人に聞いてみる。
「弟も指が欠けていたのね……それで生まれ変わりと」
「うん」
「わざわざ同じ姿で二度も転生した……どうしてかしら」
<生まれ変わり>に容姿の一致は
必然条件では無いらしい。
「Eさんは『弟の生まれ変わり』に2度も出会えた。……出来すぎた話だわ」
「弟は姉さんに会いたくて、凄く頑張ったとか」
「お姉さんへの愛が現世への執着?……それなら飼っている猫にでも取り憑くでしょ」
「……(そういうものなのか)」
マユの魂は鳥の剥製に宿っている。
聖が作った白いオウムに。
「たった4才でしょ。まだ死の意味もわからない。生に執着する欲もないでしょう。幼い子どもが生まれ変わったとしたら、本人の意思では無いと思うの。……何か別の大きな力が、哀れんでもう一度命を与えてくれたと」
「神の慈悲? だったら、また同じように早死には無いだろう。やっと物心が付いた頃に殺される、それを繰り返すなんて残酷すぎる」
「そうよね。前世で犬に殺された恐怖はどこかに残る。生まれ変わっていたら、きっと犬嫌いよ」
「偶然と思いたいな。似た子どもが犯人の近くに出現したのは」
「似た子どもと大きな犬ね」
「犬もか。今のところ梅本さんの家に犬はいないけど」
「家に居なくても、どこかで接点があるかも」
「そうか。嫌な想像だけど、梅本さんの子が犬がらみで死んだら怖いな」
「そうね。今4才位なんでしょ……犯人の弟とA君が死んだ年よね。セイ、梅本さんに犬を飼ってはいけないと、アドバイスしてあげたら?」
「何それ?」
「霊能力者なんでしょ。守護霊の声を聞いたとか、言えば聞いてくれるかも」
「どうかな。梅本さんは、そういうの信じない人だと思ったけど」
「大げさに伝えたら、胡散臭いと思われちゃうわね。さりげなく中川さんルートでそれとなく、はどう?」
「うん。考えてみる」
梅本の息子も
犬がらみで殺されるなんて
余計な心配かもしれない。
否、もしかしたら
本当に転生しては殺されているのかも知れない。
強い憎悪で呪われているとか。
後者なら逃げ道が有るのかさえ怪しい。
聖が出来る事は何も無いかも知れない。
それでも全く何もせずにはおられない。
まず、中川に接触かと
電話しようか山田動物霊園事務所に行こうかと
迷っていた。
丁度その時、虫が知らせたように中川からの電話。
「神流さん、今梅本さんが、ご家族と一緒に来られているんです、けどね、」
「えっ、家族と?」
梅本の息子に会えるのか。
すぐにでも行こう。
<現物>が見たい。
「突然のお願いで申し訳ないんですが、神流さんに犬を見て欲しいと、来られたんです」
「えッ?」