表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

犬殺しなら

Aの小さな亡骸は

70リットルポリ袋に入れられていた。

市販されている中で一番厚いタイプ。

空気を抜いて三重に重ねてあった。

金槌や石を入れた鞄が3つ、重りになっていた。


上には壊れた家電、沢山のガラス瓶が乗って、

遺体の浮上を妨げていた。


遺体発見は大きく報道された。

近所の主婦3人から事情をきいている、とも。

ネットでは既に犯人扱いで

個人情報も晒されていた。


「白骨化してドロドロや。ほんでも、元あったモンは揃ってる。良かったんや。袋に入ってなかったら骨しか拾えなかったで」

結月薫は上機嫌だ。

またしても迷宮入りだった事件を解決しそうなのだ。


どこかで貰ったビーフシチュー(冷凍保存袋入り・大量)

赤ワイン、ビール、チーズ、ローストビーフ……。

バックバッグに詰め込んで、

昼間に、来た。


「ドロドロやったで、ちょうど、こんな感じ」

ビーフシチューを食べながら、言う。


「例の、3人のオバサン、参考人なのか?」

「遺体は、連棟住宅の2階ベランダから投棄されたと推測、しかも重りに使われた鞄3つにB、C、D、それぞれの子どもの名前があったんや」

 通園、通学用のサブバッグだったと言う。


「そっか。証拠が出たんだ」

 しかし、あの3人に<人殺しの徴>はない。

 やはり子どもが関与しているのかと

 聖は考えた。

「死因はまだ結果待ちや。死体遺棄は3人でやった事やろ。当日の供述も嘘やな。まんまと騙されていたのかも」

 そのうちに、3人のうち誰かが口を割る。

 と、楽観。


……だが、その後、進展は滞った。

桜が咲き

散り尽くしても

薫からの連絡は無い。

事件の報道もない。


4月が終わろうとする頃

やっと

薫から電話がきた。


「アカン。例の3人、事件当時の供述に嘘はない、出た鞄に心当たりはない、と」

 家宅捜査からは何も出なかった。

 数年過ぎてしまっている。

 証拠隠滅には充分な時間だ。


「それとな、死因は毒やった。農薬や」

「……農薬」

 意外だった。

 聖は(子ども絡みの)、外傷だと、推測していた。



「農薬で殺したのね。計画的な犯行、かしら」

マユは事件当時のインタビューを、また見ている。

3人でA殺害計画を練り、Aの母親が寝込んでいるチャンスに決行したのだろうか?


「子どもを殺し、母親を犯人に仕立て上げようとした……インタビューに答えた内容も嘘で、完全犯罪の計画の一部だって事?」

「ママ友3人で計画したのかな。恐ろしいな」

「残酷すぎる。この世の中に、そんな凶悪な人間がいるなんてね」

「動悸が嫉妬ってヤバすぎる。病んでるな」

「理解出来ないほどの悪人だったなら、絶対自供しないと思うわ」

「どうして? 証拠の鞄が出ているし、『虐め』の証言もあるのに」

「鞄から指紋採取は無理でしょう」

「それは無理だろうな。鞄の所有者である事にはちがいないけど」

「立証できないわ」

「なんで?」

「学校、幼稚園指定のサブバッグよ。持っている人が大勢いる、ってこと。名前なんて誰でも書けるじゃない」

「……そっか」

「証拠として弱いわよ。本当に3人が犯人だとしたら、わざわざ子どもの鞄を使ったのは謎ね」

「事件は春休み中だった。不要になったサブバッグが手元にあった。重りを入れるのに丁度よかっただけかも」


「Eさんの話では、初めは3人とA親子と犬は友好的な関係だった。次第に嫉妬が芽生え、Aを虐めるようになった……そこまでは有りそうな事かもと思う。虐めた上に殺すなんて、やっぱり考えられない。毒ではなく他の死因ならね、虐めがエスカレートした結果と、まだ有りそうだけど」

「子どもを殺しただけじゃない。母親に罪を被せようとした。インタビューで3人、同じ悪口喋って。やはり、希に見る極悪人かな」

「犬の悪口言ってないのが、気になるわ。A家が非常識と世間に思わせたいなら、一番分かりやすい材料なのに」

「あえて言わなかったのか。何か理由があって」

「子犬の時には子ども達が可愛がっていた、だけど大きくなって怖い存在になった、って話だったわね」

「うん。レアなケースだな」

「そうなの?」

「連棟住宅の子ども達は毎日犬を見ていた筈。家で飼っているのと変わりない。それに、シェパードだろ。子犬でも、子どもから見たら、大きいよ」

「犬の事は言う理由が無かったのね。Eさんが思うほど犬は問題では無かったのね」

「あり得るよ。Eは猫を飼っている。猫好きで犬は苦手というタイプはいるよ。猫が犬を怖がるからね。大型犬は特に」

「Eさんは自分が嫌なように、皆も嫌がっていると思ったのね」

「……もし殺されたのが犬だったなら、Eには動機があるけどね」

Eの家に猫がいると知った時

聖は、そう思った。

殺されたのは子どもなのに

何故か

犬殺しなら、この人だと。


「セイ……農薬入りのエサが撒かれて犬が死んだ……そんな事件、あったよね」

 マユは遠くに視線をやり、何か考えている。

 多分、聖と同じ事を。


「Eさんの犬への憎悪は大きかったとして。毒で始末しようと考える。でも、犬嫌いは、犬にも嫌われている。自分の手からエサは食べない……A君を使おうと考える。……あり得るんじゃ無いかしら?」

「……Aは犬に食べさせないで自分で食べちゃった、という結末もあり得る」


Eの手に<人殺しの徴>は無かった。

Aが自分で犬の替わりに食べてしまったのであれば、

<人殺し>は存在しない。


「ママ友3人の犯行ではなく、Eさんの犬殺しが発端と仮定してみましょう」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ