表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

猫もいた

「結局、セイがEさんに会う事になったのね」

 マユは面白がっていた。

「うん。カオルは中川さんと相談して、俺を使おうかと、なったらしい」

 聖が承諾したので

 中川は梅本の妻を通じ

 Eと連絡をとった。

「梅本さんはEに『息子がA君の生まれ変わりなのか、気になって霊能者を頼んだ』って言ったんだって」

「一人で会いに行くの?」

「いいや。中川さんも一緒だよ。山田動物霊園事務所で会う」

「Eさん、こんな山奥に、わざわざ来てくれるのね」

「中川さんが車で送迎する。Eの希望らしい。家から遠い場所で霊能者に会いたいって」

「どうして?」

「怖いから……、だって」

「セイがA君の霊を呼ぶかもと思って、それが怖いのかしら? それとも、恐れているのは近所の、あの3人かしら」

 マユは事の成り行きに興味深げ。

「どうかな。Eの話を聞けば、Aの失踪の真相に近づける気はするけど」

 聖は、あの3人の関与が炙り出てくることを期待していた。


「梅本さんの坊やを初めて見たとき、そりゃあ、驚きましたよ。Aちゃんが生きていた、帰ってきたと、そんな筈はないのにね……。指が欠けているのも偶然だと、言う人もいます……私は、あの子は生まれ変わって、自分が死んだ場所に戻ってきたんだと思うんです。神様がね、あんまり可哀想だから、もう1回人生を下さったと……違うでしょうか?」

 Eは聖に、涙ながらに語った。


シルバーヘアで、白い麻のワンピースに黒のレギンス。

大ぶりのシルバーのアクセサリー。

小ぶりのバッグはハンドメイドで手の込んだ刺繍が施されている。

おしゃれなシニア、という雰囲気。


「見て下さい。Aちゃんです」

 携帯電話の画像を見せる。

 Eの家で撮ったという写真。


「神流さん、これは似ていますね」

 梅本の息子と面識がある中川が言う。


「……一緒に映っている女性は、どなたですか?」

 Aを抱くようにしている女。

 母親ですか、と聞くところだろうが、

 主婦にも母にも見えない若くて綺麗な女だったので

(ベリーショートヘアで薄化粧。黒のTシャツ。それでも綺麗)

 Eの知人かもしれないと思った。


「お母さんですよ。垢抜けしてるでしょ。元、読者モデルで雑誌に載ったことがあるって、ご主人が自慢していましたよ」


「そりゃあ、旦那は自慢したくもなりますね。奥さん連中には、やっかまれる、かな」

 中川の言葉に、Eは頷いた。


「嫉妬ですよ。結局。犬の事とか、色々悪口言っていたけど、綺麗な奥さんへの嫉妬です。張り合ったって自分たちが勝てるものなんて何もないくせに。……あの3人、A君を虐めていたんですよ」

「虐めていた?」

 聖と中川は同時に聞いた。

「ええ。陰湿なやり方でね。仲間はずれにしていましたよ。誰もA君と口を利かないように……無視するように……子どもに指図していましたよ。Aちゃんのお母さんには見えない所で」

 Eの声が低くなる。

(行方不明のAが近所の母親達に虐められていた)

 軽々しく口に出来る事では無い。

 Eは、おおきな決心をして、今自分の前に居るのだと

 聖は身を引き締めた。


「引っ越してきた最初はね、子犬は子ども達のオモチャだったし、Aちゃんの家が遊び場になっていました。あの人たち、厚かましいからね。……そのうち、犬が大きくなって、子ども達は怖がって、親たちは文句を言うようになって……虐めが始まったのは秋頃ですよ。それも嫉妬ね。AちゃんがM大附属幼稚園に行くって分かってからよ」


「M大附属か。エスカレーター式の、ミッションスクールで金持ちが行くイメージですな」

「腐っても鯛、って言うでしょ。Aちゃんの家は元々裕福だからね、事業に失敗して芦屋の家(高級住宅街)を売ったとはいっても、長屋の連中より生活レベルが上だったってこと」


「この話、警察にはしなかったんですか?」

 聖は聞いた。

 最後の目撃者達が、被害者を虐めていたという事実は重要だろう?


「言っていません。主人に止められました。関わり合いになってはいけないと」


「……言ってないんだ(何で、言わない?)」

 子どもが殺されているかもしれないのに

 情報、出せよ、

 と内心腹が立つ。


「並びの家ですからな。毎日顔を合わせるし。だれが喋ったか相手にすぐバレる。ご主人は逆恨みされるのを心配したんですね。事件に無関係なら余計な事を喋ったと恨まれる。恨まれるだけならまだいいが、もしも3人が事件に関係していたら……奥さんの身が危険だ」


「ええ、そうなんです。あの時、主人も同じ事を言いました。余計な事は言わなくても、警察が、ちゃんと調べる。警察が来たら、聞かれた事だけ答えなさいと」

 でも。

 結局Aは見付からなかった。


「奥さん、正直なところ、どうです? A君の失踪は、普段虐めていた3人組の仕業だと、思いますか?」

 中川が本題に入る。

 もはや<霊能者>の出る幕はない。

 生まれ変わり云々より

 事件の話をする為に、Eは来たのだ。


「私はあの日、朝から出かけていたんです。……家に居たらね、台所の窓から公園で子ども達が遊ぶのが見えたんですけどね。滅多に一日留守にしないのに……あの日に限って、家に居なかった。ですからね、見ていないんですよ。Aちゃんも、あの人たちも」

 失踪当日不在。

 3人の証言を覆す切り札は持っていなかった。


「何も見ていないんですけどね……夜遅くに、ドボンと言う音を聞いたんですよ」


「ドボン?」

 また中川と一緒に聞き返す。


「川に何かが落ちる音、ですかね?」

 何でも無い事のように中川が聞く。

「多分。後から思えば、そうです。夜中でした。Aちゃんが居なくなったと聞いて寝付けなかったんです」

「奥さん、それも警察に言ってないんですね」

「はい。誰かがゴミを川に捨てるのはよく有る事です。夜中にこっそり。お互い様だから、お互い見て見ぬ振りを……」


どぶ川の底に積もったゴミ。

皆が不法投棄した結果。

Eもおそらく、やっている。

それで、警察に言えなかった。


Aが3人に虐められていた事実と

あの日川に何かが落ちる音を聞いた。

Eは自分が知っている2つのことを話し終えると

おおきなため息をついた。

警察に話せなかった事実だが、

警察には黙っていて欲しい、とは言わない。

証言の結果を背負う覚悟を感じた。



「裏のドブ川なんて、灯台元暗らし、じゃない」

 と、マユ。

「川には塀があった。地上から(水面に死体が浮かばないように)細工するのは難しいが、2階のベランダなら、簡単だと思う(BCD宅のベランダから可能)」

「それで、カオルさんは、動いてくれるのね」

「うん。電話したら、明日にでも、Eに会うって言ってた。もちろんEに了解済み」

「Eさん、A君の生まれ変わりが現れたので、勇気を出して証言する気になってくれたのね。で、やっぱり、A君母に嫉妬していた3人のママ友の犯行?」

「ドブ川から遺体が上がれば、それもはっきりするさ」


「嫉妬で子供殺しって……恐ろしすぎるわ」

「嫉妬だと、Eが、そう決めつけてた訳だけど。確かに……女優みたいな人ではある」

 Eから携帯電話に転送して貰った画像を見せる。


「顔ちっちゃくって、首が長いね。ホントにテレビに出ている人みたい。子供はお父さん似なんだね。……Eさんの家、だよね。猫を飼ってるんだ」

「……猫?」

 マユの指摘に聖は


頭の奥がピクンとした。


「柱に、ひっかき傷があるじゃない。コレは、絶対猫でしょ」

 言われて画像を確かめる。

 マユの言う通り。

 E家には、画像撮影当時か、少なくとも、撮影前に猫がいた。


「そうか。……猫も、いたのか」

聖は瞬間、ある疑惑に捕らわれる。

だが、

全ては、Aの遺体を発見してからだと、

今の時点では

無意味な推理を止めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ