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中川のメモ

「大きな月やなあ。月明かりに梅が浮き上がって、なんと、綺麗やなあ」

 と、結月薫からライン。

 今夜あたり、来ると待っていたが、

 橋を渡るオートバイの音はしなかった。

 でも、工房の近くに居るらしい。


外に出る。

薫は居た。

酒臭い。


「飲み会の帰り?……タクシーで来たのか?」

 知らせてくれたら迎えに行ったのに、と思う。

 でも、そうではなかった。


「動物霊園に先に寄った。ほんで中川さんと飲んでた」

 と、上機嫌。

「中川さん、こんな時間まで居るんだ」

 22時を過ぎている。

「時々泊まっているらしいで」

「そうなんだ」

「上等の日本酒と、柿の葉寿司、貰った」

 と、持っていた手提げ袋を渡す。

 

なんで、先に中川と会ったのか?

事件の事と関係があるに違いない。


「うん。中川さんは元保険会社の調査員らしい。山田社長から聞いた。それでな、現場で何か情報を得なかったか、聞いてみた」

「……調査のプロだったのか」

 意外でも、無いかと、

 無駄も隙もない佇まいを、思い浮かべる。


「猫のぬいぐるみを回収し、梅本さんの奥さんに報告に行った。そこに親しい隣人が居合わせた」

 

(隣の奥さんが支えになってくれています。いなくなった子を一番知っていた人です。少しも似ていないと、言って呉れています)

 梅本が話していた人にちがいない。


「45才前後の、よお喋るオバチャンで小学4年生の子がおる。女の子や。そのオバチャンに、夜逃げした一家のこと、連棟住宅の住人の事まで、聴取できたんやて。コレが中川さんがくれたメモや」


左端よりABCDE、と致します。

尚、この住宅に最初から居住しているのはE家のみで他は10年から8年前に中古で購入。

B~Eは現在も居住。

A家:行方不明事件の1年前に入居。(一番後に入った)

 引っ越しの挨拶無し。

 近所付き合い無し。

 A君は一人で家の前にある公園で遊び、母親が窓から眺めていた。

 時折、窓から声かけをしていた。

 父親は不規則に外出。職業不明。


 B家:夫は家電メーカーの正社員。

    自分は専業主婦。小学4年の女児がいる。

 C家:中学2年と小学4年生の子が居るシングルマザー。介護施設で働いている。

 D家:小学5年の子が居る。夫は運送業。妻はスーパーマーケットでパート。

 E家:(民生・児童相談所の表札有り)

    70夫婦子ども無し。


「E家の妻が、梅本の子をAの生まれ変わりと言い出したんやて。顔がそっくりで手の指が欠けていると、近所に言いふらした」

「近所って、この連棟住宅以外の近所、なのかな」

 聖は空屋ばかりの、近所を思い浮かべる。


「E家は、古くから住んでいるから顔が広い。老人会の友達と梅本さんの家に来て、A君にそっくりやと、涙流してたんやて」


「でも……似てないんだろ? 偶然、指の特徴が一致していた、それだけなんだろう?」

「と、俺も思っていた。でもな……見てみ、中川さんが盗み撮りした梅本の息子、コレや」

「へえ。何と言うか……子どもなのに、おっさん顔、かな」


顔がデカイ。

えらが張っていて太い眉。

4才にしては貫禄のある顔

(なんだろうか……この既視感は……どっかで見た顔)


「おっさん顔? 俺はええ顔やと思うで。管理職顔や」

 そう言ってる顔に……似ているではないか。

 そうだ、薫が子どもの頃の顔に似ているのだと、気付く。

「でな、これが、行方不明のA」

 別の画像を見せる。

 またしても、おっさん臭い顔の幼児。


「似てるじゃん」

「そうやろ。顔のパーツは、別物やけど、デカイ顔と太い眉がインパクトあるやろ。指がどうのより、ぱっと見が」

「うん。誰が見たって似てる。その上、指の特徴が一緒。生まれ変わり、は飛躍しすぎでも、似ているのは、Eだけの思い過ごしではないよな」

「そうやろ。二人の子が似ているのが事実や。Bは梅本さんを気遣って嘘を付いてるんかな」

「それも理解出来る。いい人だから梅本さんの為に嘘を付いてるんだと」

「善意の隣人の行為として納得出来る。6年前の行方不明事件に無関係であるという前提でだけど」

 

「カオルはどう思う?……事件当時、A家の悪口あんなに喋ってるのに、迷惑に違いないシェパードの事に触れてないのは気にならない?」


「セイ、事件当時の事を調べてみた。誘拐、事故を想定して警察犬も使い大規模な捜索をしたが、結局手がかりは見付からなかった。母親の証言が曖昧やった事もあり、両親が殺害した可能性も、考えられた。そして徹底的に家の中、車の中も調べた。だが何も証拠は出なかった」

「疑われて、結局夜逃げしたんだよね」

「夜逃げではない。近所に黙って引っ越しただけや。ちゃんと住民票移してる」

「……そうなんだ」

「それに、疑われたけれど、両親は犯人では無い」

「違うの?」

「シロやった」

「じゃあ、他に犯人が居るのか」

「そうや。何者かに連れ去られた可能性が強い。だが不審者の目撃情報は出なかった。近所の証言は両親犯人説を臭わすばっかりやった」

「……3人の証言だな」

「そして、この3人は当時、事件の関係者としてはノーマークやった」

「怪しく無かったって事だろ?」

「記録では、そうなっている。3人は事件当日のAとその両親の行動に関しての情報提供者にすぎない」

 3人から聴取した内容にズレはなかった。

 矛盾もなかった。

 よって捜査の手がかりとした。


「俺は今、もしも3人の言った事が嘘やったらと、ぞっと、してるんや」

 


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