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狛犬

「神流さん、私の話を聞いて、ドブ川に沈められていたA君、あの子も『狛犬』にお参りして産まれた子では、と思ったでしょう」

 中川の言う通りだ。

 同じ魔物が、シェパードに取り憑いていたに違いない。


「SNSを調べてみました。A君の母親が書いていたブログが残っていました。記事は妊娠には触れていません。だが、『狛犬』の写真はありました」

 中川は、また自分の携帯の画像を見せる。

 同じ『狛犬』だ。

 

「そしてね、A君が産まれた時の日記に『お礼参りも行かなきゃね、上等のちくわ供えなきゃ。意味不明でしょ。笑』ってあるんです」

「ちくわ……間違い無いですね。あの長屋に引っ越してきた経緯は、書いていますか?」


「『我が家をリフォーム中。完成するまでS市に居ます。狭い家。誰も呼べない。短い間の我慢』これだけですね」

 リフォームは嘘だ。

 借金で豪邸を手放したと聞いている。

「何故、あの長屋かは分かりませんね」

「ええ。しかしA家とS市との接点が『狛犬』以外に無ければ、導かれたと言えますね」

 犬捨池と繋がるドブ川に面した家。

 狛犬イコール魔物とすれば

 その力が及ぶエリアに引き寄せたのか。


「石仏は、あちこち欠けていて狛犬のようだが原形が分からない。古くから置かれているのは間違い無いと思いましたけどね」

「写真をみた処では、石仏の周りに石碑も祠の跡もないですね。元は神社に在った狛犬で、廃棄された風にも見えます」

「成る程。実は犬捨池にまつわる伝説でも出てこないかと、ネットで調べたんです。(動物霊園の事務所番は超暇なのだ)何も出ませんでしたけどね」

 犬の姿をした魔物か妖怪の

 言い伝えがあれば、

 納得出来るという口ぶりだ。


 中川は、超自然世界の存在に疑いは無いようだ。

 だから、怯えている。


「中川さん。有り難うございました。続きは自分が調べます。もう関わらない方がいいです」

 犬に取り憑いた化け物の正体は不明。

 どれ程邪悪か、どれほどの力か計り知れない。

 中川の身に危険が及ばないとは限らない。


「はい。ありがとうございます」

 では、コレでと、戸口に向かう。

 途中、剥製が並んだ棚の前で足が止まる。


「はい?」

 呼び止められたように返事をして棚を振り返った。

 中川の視線の先には犬の剥製。

 元は柴犬のアリスだが、もう一匹の犬の霊が憑いている。

 毛色が変化して小熊のような外観。


……アリス、どうした?

……お前、今、ちょっと動いたか?

聖は「秘密の剥製」の不意の活性化に、あせる。


(おっさん、俺を連れて行け、守ってやる)

 

 久しぶりに聞こえたアリスの声。

 もしや中川にも聞こえているのか?


中川はアリスを凝視。

恐れと言うより感激の眼差し。

聖の存在など忘れたように魅入っている。


聖は、

どうしたものかと早急に考える。

戸惑っていたら

「ワン、ワン、ワン」

とシロが吠えた。

(アリスは退屈。アリスは気に入った)

と言っているみたい。

そっか、アリスは退屈していたのか。そんで中川さんを気に入った。

中川さんを守りたいんだな。


「その子、良かったら、差し上げます。ご面倒をかけたお礼に」

中川はアリスを見つめたままの姿勢で頷いた。

最初にふかふかの前足にそっと触れ

何度か優しく撫でてから

胸にしっかり抱いた。




中川が去ると同時に、マユが出現した


「犬の石像に、犬捨池だったわね」

話は聴いている。

(パソコンの側に在る白いオウムにマユの魂は宿っている)


「ネットに上がっている筈だ。見てみよう」

犬捨池を検索する。

数は少ないが画像は見付かった。


 <流れる子も助かる>

これはヒットしない。

とてもマイナーな情報、あるいは噂、らしい。


「中川さんの言う通り、この池に纏わる言い伝えは出てこないな」

「伝承を検索しているのね。……ねえ、犬捨池、だけで検索してみて」

「……どうして?」

「事件、或いは事故があったかも」

 マユは、狛犬は古いモノだが

 池の畔に設置されたのは数百年前では無い、と推理した。


「土の上に無造作に置かれている。池が増水すれば水に浸る場所よ。土砂崩れで流されちゃうかも、そんなところに道祖神でもお地蔵様でも、置かないでしょ」

 不安定な場所すぎると言う。 

 古い信仰と無関係ではないか、と。

 



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