印
「何かが、子犬に取り憑いている、そういう事?」
マユは新たな謎に目を輝かせた。
聖は、怖いのに。
「あんなの、初めて見たよ。だけどさ、他の人には普通の犬に見えてるんだよな」
「ソレは、子どもにも取り憑いているの?」
「いや、多分違う。憑いてない……あの子は、中身が空っぽ……魂が無いよ」
「心が、無いって事?」
「……不気味だったよ。この前、猫の死骸を回収に行ったよね。あれはリアルなぬいぐるみだった。遠目でも、ちゃんと見れば誰にでも分かった。本当の猫か人形かなんて分かる。あの子は、まるで、あの時のぬいぐるみのようだった」
「でも……他の人には普通に見えているのね」
「……なんでだか、知らないけど、俺にだけ、化け物が憑いた犬と、魂の無い子どもに見えたって事」
この世のものではないマユと
今、こうやって
誰よりも一番
心を全開にして語り合えている。
マユは
白いドレスに赤い振り袖を羽織っている。
着物に施された細かな刺繍もくっきり見えている。
纏っている全てが綺麗だ。
白い肌の横顔は、それにも増して美しい。
これが幻覚でないのなら
さっき見た恐ろしいモノも
幻覚では無いだろう。
「マユ……、俺が見たモノは一体何だと思う?」
「人間の霊ではなさそうかな……話を聞いて、そう思ったわ」
「魔物?……妖怪?」
「呼び方は色々あるけど、セイが怖いと感じたのだから邪悪なモノには違いない。邪悪で、強い力を持っている。人間の子を操っている位だから」
「あの子の心は何処へ行ったんだろう? 魔物が封じ込めているのか?」
「どうかしら。……もしかしたら、死んでしまった子どもかも知れないわ」
子どもの寿命は既に尽きている。
魔物の力で、生者に化けている。
「セイ、例えば……西洋で昔取られた死者の写真、あれなんか、生きているように綺麗にメイクしてポーズを作っていても死者だと一目瞭然よね。セイには、梅本さんの子が、あんな風に見えたのかも知れない」
「あれは死体なのか……」
「梅本さん夫婦は、自分たちの子に、違和感は無かったのかしら?」
「……そう言えば、育てにくい、みたいな話を聞いたような」
「梅本さんが、言っていたの?」
「うん。最初会った時に、奥さんが子育てに悩んでいて、生まれ変わりなら仕方ない、とか。……さっきも『犬を手放したら、この子が、きっと、前よりおかしくなっちゃう』と、言っていた」
「ねえ、A君も、協調性が無い性質だったと、聞いた気がするんだけど」
「そうだよ。関係者はみな、そんな風な事……あ、そう言えば、Eも『弟は意思疎通がスムーズでない、一人遊びが好きな子』と供述したって、カオルから聞いた」
3人の男児は
指が一本欠けている特徴だけで無く
顔つきも性質も似ていた。
二人は4才で犬がらみで死んだ。
三人目の側にも犬が現れた。
その犬には
魔物が取り憑いていた。
「まるで生まれ変わりのように、そっくりの子が同じ運命を辿ったのは、偶然では無かったかも。魔物が介入しているとしたら、ね」
「……三人の子どもの側に居た犬に、同じ魔物が取り憑いていた、って事なの?」
「ええ」
「指が一本欠けた子どもを選んで近づいた訳? ……何故、選ばれた子ども達は運命が繋がったんだろう」
「運命が繋がった?」
「うん。繋がっているよ。Aと梅本の子は同じ家に住んだ。A殺しのEの動機は弟の死だった」
<Eが弟の生まれ変わりに2度も出会えたなんて、出来すぎた話>
前にマユが、言ったではないか。
同じように、魔物に選ばれた子が、三人繋がるのは出来すぎではないのか?
「指の一本が欠けた子どもに、魔物が近づいたのじゃ無い。逆よ。指が欠けているのは印よ。魔物が選んだ子どもに付けた印」