第98話 少しづつの前進
「本当に大丈夫だから……」
オレはリロメラを保管域に入れようと説得しているが、どうしても気乗りしないようだ。
無理強いしても仕方ないが、今後のこともあるので、この中に入ることが大それたことではないと知ってもらわねばならない。
「大丈夫ですよ、私も最初は驚きましたが、今はなんでもありません」
アンナがリロメラに説明している。
「対戦して遊べるよ! 絶対面白いし!」
ミーコは、シミュレーターで遊ばせる気満々である。
エイミーの関係者がいるわけではないので気にする必要はないが、きちんと後で言っておこう。
「なぁ…… その、出られなくなるってこたぁ、ねぇんだよな」
「オレが生きている限り、それはない」
リロメラはオレの目を見つめている。
そんな気弱な時の顔は、思い悩んでいる美しい女性にしか見えない。
天使に性別があるのかどうかわからないが、今は敢えて聞かない方がいいだろう。
「あ、あの…… きっと楽しいと思います」
レイラ、もっと言ってやってくれていいんだよ。
保管域に入ったリロメラは、静かな呼吸を繰り返しているように見えた。
暫く声をだすこともなく、周囲を見回すでもなく、まるで空間の性質を全身で感じ取っているかのように見える。
「ここはよぉ、俺が入れられてた場所とは違って、随分と密度が濃いみてぇだ」
少し離れたところに荷物置き場と、机、黒板、PCブース、シミュレーター改が並んでいる。
巨大な戦艦は、その居住スペースを見下ろすように居座っていた。
影を落とすでもなく、ぼんやりした明度の無限空間の広がりを前に、リロメラは大きく羽を伸ばして見せる。
「……俺を、ここと似た空間に放り込んでた神と同じことが出来るってことだ。
正直に言えよ一洸、人間のなりをして誤魔化してねぇでよ、本当はやっぱ神なんだろ?」
リロメラはオレに向かって、真顔でそう言ってきた。
「買いかぶってくれてるみたいだが、オレは本当にただの人間だよ。
この世界の、いわゆる人間とは違うかもしれないが」
リロメラは、次に何を言っていいか思案しているようだった。
オレももう、何を言われても動じない自信はある。
「ただの人間か…… ここを制御できて人間を自称すんのか。
あの攻撃だってそうだ、あんなの神だってやらねぇよ!」
やはり、とても天使の言っていいセリフではないな。
異世界の神に天使……
もう何が出てきても驚かないが。
“私はアール、それは私が答えよう。
あの量子魚雷は私の撃ちだしたものだ”
「え?」
“機会がきたら、また存分に披露する。
何分、そう撃てる場所もタイミングも少ないからね”
リロメラは、まさかという顔で、戦艦の方を向いた。
「お、おぃ、あれが喋ってんのか……」
「戦艦アール、あれが声の主の姿だ。
人間のような体はないけど、生きた魂と変わらないよ」
リロメラはかなり困惑し、状況の整理が追い付かないように見える。
制限のないアイテムボックスに入り、鹵獲した異世界の戦艦の未来兵器から攻撃をするなどということは、恐らくどの世界線でもなかったことだろう。
リロメラの持つ常識を遥に超えているのは間違いないようだ。
“一洸、今大丈夫?”
その時、エイミーから通信が入った。
“大丈夫ですよ、今保管域の中です”
“あの地表のことだけど…… ネクロニウムとの戦闘、報告してもらえる?”
“わかりました、今から行きます”
「リロメラ、これからあのゴーレムを提供してくれたもう一つの協力者のところへいかなきゃならない。
ミーコ、アンナ、レイラ、アール、それにネフィラさんに色々説明してもらっておいてくれ」
PCブースの影から、ネフィラが小さく顔を覗かせ微笑んでいた。
“ネフィラの紹介は、私がしておこう。
一洸、行ってくるといい”
リロメラは、“ちょっと待て”の顔でオレを見ていたが、旗艦の鋲に引き上げてもらい、保管域から転移した。
「その際次元窓から、鹵獲戦艦アールの量子魚雷攻撃でネクロノイド、つまり、ネクロニウムの元となる異形の化け物の体を分断することに成功。
千切れとんだ体は、うちの女の子たちと、勇者の魔法で消滅させられました」
ミーティングルームにいるのは、オレとエイミー、ホワイト大佐と、採集を指揮した現場のスタッフたちだ。
「地表で量子魚雷を発射したデータがなかったので、まさかとは思ったが……
よく無事だったね、君もこの星も」
ホワイト大佐の口調は、それまでよりもずっと堅い印象だ。
オレは、あの行為がそれほど破天荒な扱いだったとは露知らず、ある意味反省してしまった。
「……鹵獲戦艦アールも、惑星上での発射データを持っていないようだったので、半ば出たとこ勝負でした。
敵はあのサイズです、こちらには他に有効な攻撃手段がありませんでしたので。
アールの量子魚雷は、6段階までグレードがあり、今回はグレード3でしたね。
次元窓を広げたサイズは、恐らく200メートル以上はあったと思います」
オレは、与えられるデータを可能な限り彼らに話した。
「エイミー少尉からも聞いていたとは思うが……
君の特異空間から放つ、複合的な実体弾による攻撃は、現状のネクスターナルの最新防御技術に対抗する唯一の手段なんだ。
前回のネクスターナル襲来では、原因は不明だが彼らの方から撤収していった。
今回のネクロノイド……か、ネクロニウムの元となる存在の殲滅も含め、必要に応じて協力を要請することになる。
よろしく頼む」
「わかりました。
それで、こちらからもお願いがあります」
オレは、ベリアルやカミオに繋ぎを依頼した、種族、国家を超えた対ネクロノイド防共体制への協力を願い出た。
それは勿論、ネクロノイド殲滅後のネクロニウム収集という利害の一致による。
ただし、連邦の未来科学の存在全てを明かすわけにはいかない事情を説明した。
「……君の、元いた地域の主権国家が、次世代の代替エネルギー技術を独占せんがため、あらゆる手を尽くし画策、その矛先にならないよう、秘匿・隠ぺいしながら協力体制に加わってほしい、ということなんだな」
「そうです」
ホワイト大佐は、しばらく考えこんでしまう。
恐らく、即答はしないだろうと予想していたが、はたしてその通りであった。
「わかった、どの部分まで協力すべきか、また可能なのか、追って提示しよう。
その上で、君たちの方で我々をどこまで受け入れられるかどうか判断してくれ」
「ありがとうございます」
オレは、少しだけ前に進んでいることを実感した。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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