第97話 新しい生徒
「……というわけです。
隣国アルデローン帝国にて召喚された天使は、先の依頼により、冒険者一洸率いる“ブラザーズ”によって保護され、彼らが一丸となって、プルートニア魔公国に出現した異形の化け物を撃退しました。
その際には、私も協力しました。
今回は皆の力と、プルートニア警備隊の迅速な住民避難、協力があり、死者はゼロでした。
これは強い協力体制があってこその結果です。
一つ一つの力は微力ながらも、掛け合わせることによって、大きな成果を上げることが出来ました。
冒険者一洸と保護された天使、そしてプルートニア魔公国統治者の魔神将ベリアル公とは懇意の仲であり、今回事後処理の際に、彼らより対異形存在の国家連合の形成が急務であるとの結論に至りました」
ゴーテナス帝国評議会議長ガイアスは、勇者カミオの驚愕の報告に、しばし押し黙るしか術がなかった。
帝国の一冒険者、しかもCランクの存在に、カミオにも匹敵する力を持った者がいたとは……
影は一体何をやっていたのか。
いや、間諜程度では察知できないほどの力の持ち主なら、あるいは当然というところか。
「その話し合いの中で、この異形の存在を“ネクロノイド”と呼称することにしました。
私もよくは知らないのですが、この存在を形成する物質が、ネクロニウムというのだそうです」
ネクロニウム?
初めて聞く名だ、調べさせるしかない。
「その、冒険者一洸だが…… 天使と一緒に是非接見したいのだ」
カミオは用意していた言葉を、ガイアスに告げた
「それは難しいでしょうね。
まず、この冒険者一洸氏ですが、私以上に衆目に知られることを嫌っています。
私が彼と関係を築けたのも、決して不必要に周囲に自らを悟られないよう行動する互いの共通する価値観故、認め合えたからに他なりません。
天使に至っては、ネクロノイドを殲滅する際に、この一洸氏の実力を認めたうえで、彼の采配の下に限定して協力するという意思を表明しています。
人間の国家権力で、動向を左右できるものではありませんね」
「……」
なんという、なんということか……
だが、まだ救いはある。
対抗力として用いる部分では、このカミオが繋ぎとなっている、少なくとも全否定ではない。
そうだ、まだ諦めるべきではないな。
「この一洸氏、大変実力のある知人や国家権力者が多くおり、今回のネクロノイドの災禍を大いに憂いています。
罪のない民衆を守ることに限って、これらの関係者を総動員して事にあたる所存だそうです。
その際、各国が連携して協力体制をもつことが肝要で、それは私も大いに賛同しました」
ガイアス議長は、全身から力が抜けていくのを感じていた。
いや、諦めるのは早い。
「一洸氏とベリアル公からの提案です。
ゴーテナス帝国を皮切りに種族、国家間の枠組みを超えた対ネクロノイド防共体制樹立を希望しています。
まず人間国家であるゴーテナスと、魔族国家のプルートニアが協約を結び、賛同する国家を増やしてはどうかと」
種族、国家を越えた協力体制……
少なくとも、ゴーテナスが一番乗りなわけだな。
これは、かろうじてだが、まだ悪い話ではないかもしれない。
「カミオよ、この話はもちろんどこにも洩らしてはいまいな」
「ええ、議長に今話したのが初めてです」
「……そうか」
何かがガイアスの中で引っかかっていた。
プルートニア魔公国?
あの国は、このゴーテナスからどのくらい離れていたか……
「プルートニア魔公国…… お主は転移陣も使えたのか?」
「転移陣を使わなくても移動できる力、それがこの冒険者一洸の力の一つですよ。
私も知ったばかりですが、そのおかげもあって、ネクロノイドを撃退できました」
一瞬の間があったが、ガイアス議長の反応は迅速で、扉の外にいる秘書に対して強い語気で放った。
「陛下に伝えろ、今からお目通り願いたいとな」
秘書は姿勢を正すと、つむじのように消えていった。
「勇者カミオ…… その、冒険者一洸に、これからも強い繋ぎを頼む」
カミオは、ガイアスにはわからないほどの微かな笑みを浮かべて答えた。
「了解です、ガイアス議長」
◇ ◇ ◇
“ネフィラ、さきほど預かった魔換炉だが…… この装置の構造解析では、どうしてもジェネレーターとしての組成が見いだせない。
これは仮説だが、魔換炉の中心部材を構成する素材に、なんらかの素材を反応させることによって、この装置が起動するのではと考える。
さらにだが……
素材を反応させることにより、この本来の形状すら変化して動作する、のかもしれない。
そういった素材、あなたの知りうる魔法の歴史の中で、憶えはないか?”
PCのモニターを見ていたネフィラは、アールの突然の語り掛けに動画閲覧を中断された。
ネフィラは、アールの巨躯に顔を向けて微笑んだ。
“あなたもそう思った?
この魔換炉、必要な文献が残っていないのは、今言った内容も含めて、恐らくは正しく使えた歴史がなかったからだと思うの。
神話の中の機械、伝説の遺物、なんて言われてるだけなんだもの、私、笑うしかなかったわ”
ネフィラは、その言葉通りに満面の笑みを浮かべている。
しばしの間があったが、アールは話し始めた。
まるで、恋人にプロポーズの覚悟を決めたかのような語り口である。
“……その、私も魔法を学ぶ必要がありそうだ。
ネフィラ、必要な文献とともに、私に教授してほしい”
“うふふふ、アール、私についてこれるかしら?”
その日から、ネフィラ魔法教室には、生徒が一人増えることになった。
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