第96話 予想される醜い争い
ネクロニウムの採取元となる、異形の存在の遺骸。
その採集を終えて、エイミー・ロイド少尉乗艦の揚陸艇は、広大な爆心クレーターを後にした。
遠ざかる地表をモニターで目視するエイミー、そのクレーターの大きさに、過去に見せられた故郷の映像を重ねてしまう。
“一洸…… あなた、本当は何がしたいの?
あなたは私と同じ人間なのよね。
違うなら本当に早く言ってね、私ももう悲しい思いをしたくないの”
エイミーは、言葉にならない唇の動きを続けた。
エイミーは航行群旗艦に戻り、ネクロニウム採集と爆心地の状況をホワイト大佐に報告していた。
「反応地点降下中に、量子魚雷の射跡を確認。
地上で戦艦クラスの量子魚雷、恐らくは、一洸が鹵獲戦艦の量子魚雷を次元窓から発射、ネクロニウムの元となるアメーバ状の存在を殲滅したと思われます」
今のホワイト大佐は、“おじさん”ではなかった。
エイミーは、どちらかというと仕事人としてのホワイト大佐の方が御し易いかな、などと思ってはいた。
「……それで、一洸と連絡は?」
「いえ、私が現地に到着する間際にも連絡を入れてみましたが、応答はありませんでした。
恐らくは、現地の関係者と事後処理中だったのではないかと」
「そうか」
4D映像が映し出す、地表を削り取った広大な円形クレーターを見る今のホワイト大佐の表情は、推し量るには複雑すぎた。
恐らく、自分自身も同じ表情なのではないか。
エイミーは、彼の表情と自分の思いを無意識に重ねていた。
「……嫌なものを思い出すことになってしまったな、きみも私も」
「ええ…… 本当に」
エイミー少尉が退室した後、ホワイト大佐は今一度爆心地の映像を見る。
「兵装を切っても意味はなかったか……」
彼は、誰もいない部屋で独り呟いた。
◇ ◇ ◇
オレはふと、エイミーの声を聞いたような気がした。
そういえばすっかり忘れていた。
ネクロニウムの反応があったので地表に降りると言っていたが、それっきりだな。
もしかしてだが、会議中に通信を×にしておいた時、連絡があったのかもしれない。
このコミュニケーター、着信履歴の確認方法なんて聞いてなかったよな。
ま、今度聞いておこう。
オレは、カミオとミーコたちを連れて、保管域へ戻った。
リロメラは保管域に入るのにまだ抵抗があるようだったので、もう少し状況に慣れてからでいい、すぐに戻ると約束して別れた。
オレは保管域に入り、すぐに時間停止をコマンドする。
ネフィラがオレたちを迎えてくれた。
「……あなたは魔導士ネフィラ、生きていたのか?」
「お久しぶりね、勇者カミオ…… 元気そうでなにより」
ネフィラとカミオが既知の関係であるのは知っていたが、彼のあからさまな驚きの表情を見れるのは貴重だったので、興味深く二人のやり取りを伺った。
ネフィラは、自分が保管域にいる原因と理由を説明。
「このメンバーといることになって、もう大抵のことには驚かなくなってるが……
これは反則級だな」
カミオはそれでも微笑みを絶やさず、いつもの知的なイケメン全開だったので、オレは少し安心した。
「もう一人紹介したい人がいるわ、ね、一洸さん」
そう言って彼女は、巨大な船体に向き直った。
“はじめまして勇者カミオ、私はアールだ”
カミオは、ネフィラの視線の先にある戦艦アールを見て、何が起こったのかわからないといった表情だ。
「あの巨大な光の玉を放ったのが、この“アール”です。
とりあえず緊急事態だったので、紹介が遅れました。
アールはこの船の生きた意思で、人間の体は持っていません」
カミオも深呼吸をするのだなと、オレはこの時初めて知った。
“……はじめましてアール。
あの光の玉、一度見たら二度とは忘れられないものだね”
“そうか。
私の予想だが、これからまだ何度も見ることになるだろう”
物騒なことを言うなとは言えないな、多分そうなる。
オレはもはや定番となったお茶会にチョコケーキを出して、カミオを再び驚かせる。
みんなの笑顔は、オレの気疲れを少しだけ和らげてくれた。
「難しいのは…… どこまで帝国の、あの面々に明かしていいのか、だな」
チョコケーキを食べながら、オレとカミオ、ネフィラは話し合っている。
カミオとネフィラは、それまでの経緯もあったのだろう、かなり真剣な面持ちであった。
ネフィラが涙ながらに語った、過去の経緯。
召喚者の技術を独占すべく画策する帝国の思惑に対処していくには、今回の対異形の存在の連携が、複雑なものになるのは仕方がないのかもしれない。
カミオはオレのそんな考えを読んでか、続けた。
「事実を伝えるには衝撃が大きいだろう、それに帝国の欲している利権に大きく関わることになる」
「そうね。
異世界の知識と技術、さらにその異世界の未来からやってきた機械類の知識は、帝国に新しい争乱を生む可能性があるわ。
いえ、間違いなく醜い争いになる」
ネフィラは、それまでにない強い意思を持った女性の顔を見せてくれた。
抱き着いてくるいつものネフィラとのギャップに、不謹慎ながらも新しい魅力を感じてしまう。
二人は、帝国やその他には限定的に事実を話すことを提案、オレは魔元帥として深く了承。
それらを踏まえた上での、帝国や各国の対異形連合の形成へ向けての話は進んでいった。
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