第95話 伝説の装置
“ネフィラ…… その、ネフィラは何故ミーコたちと、一洸の所へ行かなかったのだ?”
数百メートルの威容をむき出しにしている次元航行巡洋宇宙艦アールは、一人だけ、ここ保管域に残っている理由をネフィラに聞いた。
保管域の中から次元窓を覗き込むネフィラ。
“二人”は、一洸によってプルートニアに引き揚げられた4人の動向を見ている。
“私ね…… あの人たちみたいに、生きてるわけじゃないのよ。
ここの空間ね、一洸さんに連れてきてもらって、こうして生きてる人間と一緒に活動できてるんだけど、本当はこんなこと出来ないの”
“生きていない? 死んでいるというのか……
しかしあなたは、私が見る限り質量もあるし、反応もある。
意味が解からない”
魔導士ネフィラは、自分が保管域に留まっている原因と理由を、アールに話して聞かせた。
アールはしばし無言だったが、静寂を破るようにつぶやいた。
“そうだったのか…… にわかに信じ難い話だ。
この特異空間の事情、まだ一洸から詳しく聞いたわけではないが、人間の死者が魂の状態で存在し、状態を維持できるのは驚愕だ……
私の知りうるデータには存在しない事象だ”
そのまま一洸たちの動向を見つめていたアールが、唐突にネフィラに聞いた。
“一洸はこの魔族の国で、何故丁重な扱いを受けているのだ?”
“彼はね、ここでは魔元帥、今は不在となっている魔王の代わりに、魔族を治める地位にあるのよ”
“一洸がこの地域で異形を退けるのに力を尽くしている、その理由がこれか…… しかし、”
“ほら、話が始まったわよ”
ネフィラがそう言うと、アールの視点は次元窓の先へ向けられた。
◇ ◇ ◇
会議室の玉座に立たされたオレは、カミオやミーコたち、リロメラからよく見える位置にいた。
ベリアルとバラムは、オレを玉座に送ると、すぐさま跪いた。
「魔元帥閣下、この度のご尽力、言葉もございません。
異形の化け物殲滅戦における見事なまでのご采配により、一人の死者を出すこともなく治められたご手腕、ただただ驚愕の至りです。
プルートニア魔公国を代表して、深く感謝を申し上げます」
ベリアルが遮る間もなくオレに告げた。
「魔元帥一洸閣下、魔界を代理にて預かる者として、心より感謝申し上げます」
バラムも素早く続けた。
この人たち、オレが遮るのをわかって素早くやったな。
あーあ。
「……死者が出なくて本当によかったです。
ただ今回の成果は、ここにいる協力者のおかげで成しえた事です、どうかそこだけは間違えないでください。
実はもう二人ほど協力者がいるんですが、来られない事情があって、ここにはいません」
オレは、勇者カミオ、ミーコ、アンナ、レイラ、そして天使リロメラを、魔神将ベリアルとバラムに紹介した。
「一洸、魔元帥なのか、やっぱお前人間じゃねぇんだな、そりゃそうだ!」
空気を全く読まないリロメラであったが、この短い時間で、その振る舞いはもはや当たり前のようになってしまっている。
オレはカミオの表情から、申し訳ないという気持ちを言外に受け取った。
こうなった原因を、ダンジョンでの出来事に重ねているのだろう。
後でそれは否定しておこう、あなたには何の責任もないということを。
「幸い今回は、死者を出すことなく成果をあげることができましたが、今後はどうなるかわかりません。
あの正体不明の異形の化け物、今後も間違いなく現れるでしょう。
ここにいる協力者を含め、多くの力を合わせて対処しなければならないと思ってます。
人間、魔族、異世界召喚者、そして、外界の協力者、全ての力が必要になります」
オレは、ここにいない連邦の存在を含めて言った。
「外界の協力者とは、つまり……」
「ええ、今はいませんが、前回の騒ぎで協力してくれたエイミーさんたちです」
ネクロニウムの元となっているであろう化け物。
たとえそれを得ることが目的の協力であっても、今は彼女たちの力が必要だ。
実際、ラウンドバトラーの力もあって、今回は事なきを得た。
ただ、これからは本当にわからない。
もし、今回以上のサイズが出てきたときは、もっと上の力を行使する必要に迫られるであろう。
オレはカミオを見た。
打ち合わせていたわけではないが、彼は立ち上がる。
「カミオです、現在はゴーテナス帝国に身を寄せ、必要時は勇者として活動しています。
一洸氏の言う通り、種族や国家を越えて協力していく必要があると、私も思います。
私はこれから帝国に戻り、評議会議長を通して皇帝に提言するつもりです。
プルートニア魔公国にも賛同いただければと思います」
ありがとう、カミオさん。
「勇者カミオ、ありがとうございます。
私からも是非、皇帝へのつなぎをお願いいたします。
よろしくお伝えください」
見るまでもなく、オレに向かってベリアルとバラムは頭を垂れてくれた。
ミーコ、アンナ、レイラは、小さく拍手のジェスチャーをしている。
いいよ、それでいい、君たちらしい。
「リロメラ、あなたにもお願いしたい、どうかこれからも協力していただけないだろうか」
リロメラはそう言われて、まるで嬉しさを爆発させてしまうのではと思うほどだったが、必死に隠して言った。
「まぁいいけどよ、一洸がそう言うなら…… 協力してやるよ」
「ありがとうリロメラ、よろしくお願いします」
オレは、ここにいる全てのメンバーにお願いするように頭を下げた。
◇ ◇ ◇
“今気づいたのだが…… あの、カミオという人間の胸にある物質、ネクロニウムだ”
ネフィラは、驚いたようにアールに向き直った。
“そうなの? ネクロニウム…… そう、なるほどね”
魔導士ネフィラは、勇者カミオ、ガイアス議長、騎士団所属の魔術師、貴族たちと論じ合った過去を思い出す。
今回の掃討戦も含め、何度か一洸のモニターで見てはいるが、あらためてカミオを見て懐かしく思っていた。
“この事は、一洸はまだ知らないわけだな?”
“もちろん知らないはずよ…… 戻ったら話しましょう。
勇者カミオも、それで納得するかもしれないわ”
しばしの間があったが、思い出したようにネフィラは言った。
“ね、アールに見てもらいたいものがあるの”
ネフィラはそう言うと、一洸に移譲された魔族の継承物置き場から、筒状の魔換炉を示した。
“これは何だ?”
アールは、ドローンからスキャンを始める。
“さっきの話だけど…… 一洸さんが魔族の首領から引き継いだ、過去の遺物よ。
私は、失われたテクノロジーの“魔換炉”だと思ってるの”
“魔換炉?”
“エネルギーを魔素に換えて魔法を実行する、伝説の装置”
アールは、ネフィラの説明を聞いて、自らのリアクターの熱が上がるのを無意識に感じていた。
エネルギーを魔法に変換する装置……
“今の私の知識ではお手上げなのよ。
でも、あなたならどうにかできるのではなくて、アール?”
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