第88話 大切な技術資産
連邦軍のホワイト大佐が常駐する旗艦のミーティングルームでは、一洸が鹵獲した戦艦の検証調査による報告が行われている。
エイミー・ロイド少尉と技術スタッフは、鹵獲戦艦の圧倒的な技術的優位を、彼らが知りうることが可能な範囲で調べ尽していた。
「それでだ。
一洸の魔法権能からの攻撃が、あの鹵獲戦艦に対して有効であった事実に関してはどうなのだ。
シールド解除状態であったにもかかわらず、ロイド少尉の放った量子魚雷攻撃が有効でなかった部分も含めてだ」
技術スタッフは、4Dスクリーンにて投影される攻撃展開図をもとに説明を始める。
「今次戦闘での、ネクスターナル戦艦 ユニット SMZ T-66 1029T2Rの敗因は、近距離からによる予測不可能な魔法実体弾と魔法レーザーの複合攻撃による、シールド変更の合間を突いた攻撃によるものです。
一洸氏の次元窓による無差別魔法攻撃は、ネクスターナルの戦闘データベースにはなく、そこが勝因となったと結論づけます」
「我々の兵装より、魔法の力が勝ったということか……」
「ええ、ただネクスターナルのデータベースになかった戦術・戦法であっただけですが。
以後、ユニット SMZ T-66 1029T2Rが、本体の統合意識に接続もしくは既に戦術データを送信していた場合は、この戦術は想定の範囲として対策されます」
技術スタッフは、姿勢を正して続けた。
「量子魚雷の攻撃が無効であった部分ですが……
我々の未知の技術が使われているとしか今は言えません、詳細な調査結果をお待ちください。
ただその部分があっても尚、実体弾を使った無差別魔法攻撃は有効であったということです」
◇ ◇ ◇
オレはホワイト大佐とエイミーに連れられて、提供されるラウンドバトラーの格納庫に向かっていた。
揚陸艦の常駐スペースに隣接しているそこは、宇宙戦艦とはいえ、とても船の内部にいるとは思えない広大なスペースだ。
それはもう何度も見ているものと同じ機体であったが、最初の一目でオレはその姿を、二つとは存在しないその機体そのものを目に焼き付けた。
「最初に話した通りだが…… 兵装は外してある。
このバトラーのリアクターに依存する炉核弾、外部接続兵装の粒子ビーム銃、そして小型量子魚雷弾だ。
それ以外は標準装備、他の機体と何も変わらないよ」
オレは、大人気なくも言葉を失っていた。
きっと少年の目の輝きを見せていたのだろう、オレの顔を横からみるホワイト大佐の、独特な満足顔が印象に残った。
「……ありがとうございます、大事にしますよ」
エイミーは、相変わらずの複雑な表情だった。
女心を掴むには、オレにはまだ無理なようだ。
「兵装に関わる部分はないとしても、細かい補充備品、メンテナンスはもちろん請け負うよ。
軍属である君の報酬分から、必要な部分だけ引かせてもらうけどね」
アールとの話で、その辺りはまったく問題ないと話はついていた。
オレ以上にあの戦艦は、このバトラーを弄り回したいらしい。
「ええ、実はそれなんですが……
あのアールが、これをメンテしてくれるそうなんです。
もちろん、兵装を勝手に追加するようなことはしないように言っていますが。
問題ないですよね?」
ホワイト大佐は、一瞬固まってしばらく間をおいた。
「……君は、あの戦艦とそんなに仲がいいのか?」
「いえ、そういうわけでは。
ただうちのブラザーズの子たちが、あのアールと対戦ゲームをして、深い交流が続いています」
「対戦ゲーム?」
「ええ、連邦の人たちにとっては、大昔の遊びなので退屈でしょうが。
オレの保管域の中では、みんなアールと一緒に楽しんでます」
もちろん、シミュレーター改で遊んでるなんて言いませんよ。
ホワイト大佐とエイミーは、互いに顔を見合わせていたが、困った顔というよりむしろ笑い出すのをこらえているかのようだった。
「わかった、その辺りはエイミーに任せることにしてるから。
この機体も含めてだが、ラウンドバトラーは、連邦の大切な技術資産なんだ。
君を信用していないわけでないが、エイミー少尉による軍資産管理には入れたままにさせてもらうよ」
「もちろん、かまいません」
そうしてくれないと、オレも困ります。
手に負えなくなる想定は…… 今のところ浮かばないけど。
保管域にバトラーを収納したオレは、もみ手で専用デッキまで作って用意しているアールの要求通り、そこへ出現させた。
保管域に入ったオレは、ミーコ、アンナ、レイラ、そしてネフィラから盛大な拍手で迎えられた。
「やったねおにいちゃん、これで思いっきり遊べるね!」
ありがとうミーコ。
「一洸さん、おめでとうございます…… 私も嬉しいです」
知ってるよアンナ、実は君がこれで遊びたがってるのは。
「……あ、あの、おめでとうございます」
ありがとうレイラ、君も乗りたいんだよね、わかってます。
「一洸さんおめでとう、願いって適うものなのよ、私は知ってるの」
ネフィラさん、あなたが言うと説得力あり過ぎです。
“遂にやったな一洸、私もこの上なく楽しみだ”
アールはさっそくドローンに機体をチェックさせ始めた。
オレは大佐と話した内容を伝えようとしたが、アールに先をとられた。
“わかっている、露骨な改造はまだひかえるよ。
彼らにわかる部分での兵装追加もしないようにしよう。
このラウンドバトラー、何故私がこれほど興味を惹かれるのかわかるか?
これはオールドシーズ、人間が操縦するための、ネクスターナルにはない技術思想のもと作られている。
特に神経接続技術は、ネクスターナルにはほとんどないものだった。
必要ないからね”
なるほど、そういうことか。
その時、コミュニケーターからエイミーが唐突に話しかけてきた。
“一洸、非常警戒態勢よ、ネクスターナルが接近しているわ”
その報はオレだけではなく、ここにいる全員が聞かされた。
【 恐れ入りますが、下記お願いいたします 】
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